※この記事は2020年1月15日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
世界視点の「地元愛」
クラフツマンシップ。︎
ファッション界、特にラグジュアリーの世界が大好きな言葉です。けれど僕は、正直彼らほど「クラフツマンシップ」という言葉に価値を見出していない気がします。無価値だとは思っていません。でも、もはや差別化の手段にはなり得ないと思っています。ことラグジュアリーの世界においては、「クラフツマンシップ」なんて当たり前。この言葉に依存するあまり他の個性を構築してこなかったブランドは今、正直キツそうな印象です。
これは、イタリアのファッション界全体においても大きな問題です。メイド・イン・イタリーを過信してしまった彼らは今、「クラフツマンシップ」なんて当たり前になったがゆえに埋没してしまい、パリに大きく先を越されてしまいました。早急に別の個性を見つけ、磨き、それを価値観として世界に発信すべき時が迫っています。では、何がイタリアらしい個性や価値観になりえるでしょうか?
それは「地元愛」です。
ピッティではいくつもの企業、例えば「ヘルノ(HERNO)」から、「すでに会社の屋上には太陽光発電のパネルが並んでいて、生産に必要な電力を賄っています。なんだかイタリア人は、元来地元の自然を愛しているみたいですよ」なんて話を伺いました。そしてミラノで出会うファミリービジネスの若き跡取りからは、「強制的に代替わりのタイミングが訪れるから、家族経営の企業にはいつも若い血が注がれる」メリットがあると聞きます。地元に根付き愛されている企業は、ファッション業界を超越した影響力のある存在です。今ファッション業界が取り込むべき文化、例えば音楽や芸術からも近いところにいます。地元を愛し、地元に愛されるって、モノすごいアドバンテージだと思うのです。
しかも、頭で理解するクラフツマンシップに対して、「地元愛」は心で共感するモノ。だからこそ強いし、「地元愛」や「家族愛」は世界の誰もが大事だと思っているから“自分ごと化”しやすい。最強です。一刻も早くクラフツマンシップ至上主義から脱し、もっと声高に「地元愛」を叫んで欲しい。そう思うのです。
ただ「地元愛」は、世界的規模のマクロな視点に立って価値を認識すべきです。ミクロな視点で「地元愛」を語るのはこぢんまりする元凶だし、「排他主義」の種になりかねません。例えばミラノメンズはイベントとして盛り下がり気味なのに、同時開催の中規模な合同展示会「ホワイト」をワンランク下のモノとみなしがちだそうでタッグを組めない。結果どちらもジリ貧です。タッグを組めたら、踏ん張っているピッティ・イマージネ・ウオモのようなパワーが得られるかもしれないのに。ラグジュアリー&デザイナーズの世界における視野狭窄な「地元愛」が、展示会ブランドとの融和を阻んでいる気がします。
世界から見た「地元愛」。ここに価値を置くべきは、私たち日本人もおんなじですよね?
FROM OUR INDUSTRY:ファッションとビューティ、関連する業界の注目トピックスをお届けする総合・包括的ニュースレターを週3回配信するメールマガジン。「WWD JAPAN.com」が配信する1日平均30本程度の記事から、特にプロが読むべき、最新ニュースや示唆に富むコラムなどをご紹介します。
エディターズレターとは?
「WWDジャパン」と「WWDビューティ」の編集者から、パーソナルなメッセージをあなたのメールボックスにダイレクトにお届けするメールマガジン。ファッションやビューティのみならず、テクノロジーやビジネス、グローバル、ダイバーシティなど、みなさまの興味に合わせて、現在9種類のテーマをお選び頂けます。届いたメールには直接返信をすることもできます。