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アクティビスト紗栄子が語るマスク寄贈や社会支援活動 「信念があるから、ネットの批判は気にしない」

 モデル、タレントの紗栄子は5月14日、自身が代表理事を務める一般社団法人Think The DAY(以下、TTD)を通じて、医療用防護マスク2万枚を医療従事者に寄贈した。同時に、オリジナルTシャツと布マスク(セットで6600円)をTTDのサイト上で発売。その利益全額で医療用ガウンなどを購入し、6月8日から医療従事者に寄贈している。紗栄子は2010年に出身地の宮崎県で発生した口蹄疫以降、東日本大震災や熊本地震など、災害の度に寄付や義援金の呼びかけなどを行ってきた。それに対して当初は「売名」などといった心ない声も聞かれたが、継続することで世の中の受け取り方もかなり変わってきている。今や社会を変えていく“アクティビスト”と呼ぶべき存在感を発揮している彼女に、支援活動や今後について聞いた。

WWD:マスク2万枚の寄贈やTシャツのチャリティー企画を行った経緯や意図は?

紗栄子:災害支援などの活動を続けていることが認識されてきたからか、インスタグラムにたくさんの声をいただくようになっています。今回は医療従事者の方から届いたダイレクトメッセージで、マスクが医療現場にまだまだ足りていないことや、安全が確保されていない中で皆さん患者さんのために働かれているといった状況を知りました。それで、私にも何かできることはないかなと思ったんです。そうは言ってもマスクの調達方法については全く知識がなくて、調べていく中でマスクの種類などは勉強しました。もちろん、政府の調達ルートに民間が干渉してはいけないので、その点は注意しながらの動きです。医療従事者の方たちは非常にお忙しい中でも、どこの病院に何が必要かをタイムリーに連絡してくださり、ニーズをつかむことができた。あとは、芸能関係者で支援活動を進めている方にも連絡を取って、マスクの手配について相談しましたね。一緒にお仕事をしたことがない方でしたが、私のこれまでの支援活動を見てくださっていて知恵を貸していただけた。皆さんのご厚意があって工場や商社を紹介いただき、実現しました。

WWD:行動力や周りを巻き込む力が想像以上だ。

紗栄子:それが取り得なんです(笑)。これをやろうって思ったら止まれない性格なので、スタッフや家族には振り回してごめんねって思っています。日本は優しい人が多くて、本当はみんな何か支援をしたいと思っている。でもみんな忙しいから、いい支援方法が見つけられていない。支援方法を提示して、その内容がしっかりしていれば賛同してくださる方はたくさんいます。今回、チャリティー企画をやってみてそう感じました。こうした企画を整えることはできる人がやればいいし、私はこれまでの経験でそれができる。今後は支援を必要とする現場と、支援をしたいと思っている人をつなぐプラットフォームのような存在になっていけたらと思っています。芸能関係の仕事をしていて、求心力を持たせていただいているからこそそうした活動がやりやすいですし、そのことに感謝しています。

WWD:チャリティーTシャツはどのように手配したのか。

紗栄子:Tシャツを作るにあたって、以前の私だったらデザインや価格、生産のスピード感、量産できるかどうかといったことしか意識しなかったかもしれません。でも今は、作り手のこともちゃんと理解して、敬意を持って関わっていきたいと思っています。過酷な労働環境で作られた商品では、もう嬉しくない。「誰かを支援したい」という気持ちでチャリティーに賛同して、Tシャツを手に取ってくださる人にとっても優しい商品を作りたかった。それで、仕事でつながりがあったマッシュスタイルラボにどこならそういった商品が作れるのかを相談して、繊維商社の豊島を紹介していただきました。豊島の(オーガニックコットン普及プログラム)“オーガビッツ”という、バングラデシュで栽培されたオーガニックコットンを使ったTシャツがベースになっています。

マスクの寄贈とTシャツのチャリティー企画を行うとスタッフに告げたのは5月7日の朝です。サイト上でTシャツの受注を開始したのがその1週間後。サイトを構築してくださった方や豊島の協力があったからこそ、短期間でそれが可能になりました。サンプルの物撮り画像をまずはサイトにアップして、2日後に私の着用画像も追加したんですが、ドネーションの気持ちというより、ファッションとして気に入って買ってくださる方が恐らく多かったかな。でも、別にそれはどっちだっていいんです。今後ライフスタイルECを立ち上げたいと思っているんですが、誰かのためになる選択をすることが当たり前になっていて、それをわざわざ伝える必要もないといった状況になっていけばいいなと思っています。

Tシャツの受注は10日間で締め切りましたが、想像以上の売り上げで、利益で医療用ガウンを買うことができた。商品は6月上旬にうちの倉庫に届いて、中旬に購入者に届く予定です。利益全額を医療物資購入に充てていて、私の活動資金には一切していません。サイト運営にかかる費用なども自分の持ち出しです。でも、それだと私の芸能活動がダメになったら支援活動も続けられなくなってしまう。今後はEC運営などのビジネスと、支援活動、芸能活動という3軸で、支援活動を残りの2軸でまかなうという形にしていきたい。それがサステナブルな事業のあり方だと思っています。

WWD:そもそも、社会支援活動を行うようになったきっかけは?

紗栄子:まとまった金額を寄付したのは11年の宮崎県の口蹄疫からですが、ライフワークとして、災害被災地や養護施設、老人ホームへの支援を10年ほど続けています。ベルマーク運動や赤い羽根共同募金などにも幼いころから関わってきたし、困っている人がいたら助けたいと思うことが私にとっては当たり前。そう思えるのは育ってきた環境や教育のおかげなので、親やこれまで関わってきた人には本当に感謝しています。支援活動は以前は個人として行っていましたが、昨年10月に一般社団法人のTTDを設立しました。きっかけは昨年9月に千葉県を襲った台風15号です。台風直後、被災地にいるインスタグラムのフォロワーさんから連絡をもらったことから、自分でも必要な物資を手配して現地に運びましたが、全く足りなかった。それでインスタグラムで物資を募ったら、2日間で4トントラック15台分ほども集まったんです。

団体や企業からの支援物資しか受け付けない自治体も多いですし、個人として活動を続けていくよりも団体にした方がいいと判断し、TTDを設立しました。メンバーにはプログラマーの方や税理士さんなどがいて、住んでいる場所もバラバラです。被災地支援でいつも感じてきたのは、行政が支援に動き出して、物資が現地に届くまでに、必ず1~2日間は水も食料もないといった期間が生まれること。このタイムラグを民間のTTDが埋めていくべきだと考えています。そこで、何かが起こってから寄付を募るというよりも、予防のための寄付や寄贈をしてもらって、被災地でタイムラグなく動き出せるようにする準備を進めていました。3月に公式サイトをローンチして活動を開始しようと思っていたんですけど、新型コロナウイルスの感染拡大でその動きは一旦止めて、今回のマスク寄贈やチャリティーTシャツの動きを進めました。

WWD:以前は支援活動や寄付に対し、「売名」などと言われることもあった。

紗栄子:そういった言葉を気にすることはもうないですね。信念を持ってやっているので、何を言われても何とも思わない。もちろん傷付きますよ。でも、(ネット上の書き込みなどに対し)鈍感力を身につけていくことが今の時代はすごく大切だなと強く感じています。それは私だけでなく、子どもたちもそう。今はネットでどんな情報でも見ることができるから、誰のどんな言葉を大事にするべきか、それを精査できるスキルを身につけてほしい。厳しくても自分のことを思って言ってくれている言葉と、ただ人を傷付けたいだけの言葉は全く違いますから。本来なら環境や教育によってそういったスキルやリテラシーを身につけていくべきだと思います。でも今はまだそういう状況ではないので、個人や家庭、企業のレベルで、スキルを鍛えていかざるを得ないですね。

ネット社会の悪い部分が今まさに浮き彫りになっていると思います。でも、ネット上のやり取りは本来とても温かい部分もある。今回の支援活動でも、ネット上で多くの方の優しさに触れました。それで支援がつながって、助かった方もたくさんいる。ネット社会だけが悪いわけじゃないし、報道だけが悪いということでもない。いろんなことを見直すタイミングにきているんだと思います。一人ひとりの生活についても、人と人の関わり方、社会との関わり方についてもそうです。私自身は今回の自粛期間中、宮崎にいたんですが、今後の自分のビジョンをしっかり考えて、進むべき道を見つけられました。日常を取り戻していく中でも、この気付きはしっかり持っていきたいです。

WWD:支援活動自体に対する世間の考え方も、10年前に比べるとかなり変わってきた。

紗栄子:それは強く感じますね。今は経営者の方でも声を出して支援を行っている人がすごく多いです。表に出る人間が言葉に出し、行動で示していくことはムード作りにつながる。母親として、誰かの善意が批判の声でつぶされることのない世の中になってほしいと思います。批判されるリスクを抱えながらも発信している人は、みんな同じように考えているんじゃないかな。私が行ってきた支援活動でも、みんなに(被災地の状況などを)知ってもらいたくてSNSに投稿した結果、アプローチのタイミングがまずくて誤解を生んでしまったことが何回もありました。その都度学んで、どうするべきかを身につけてきた。世の中の受け止め方が変わっていくきっかけの一つに自分がなれていたらいいんですけどね。支援に賛同してくださる方には誠実でありたい。今後は寄付金がどこでどのように使われたのかや、収支についても公表していきたいと思っています。

WWD:芸能人やインフルエンサーなどの間でも、最近は自分の考えや意思を表明し、動こうとする人が増えてきた印象だ。

紗栄子:芸能活動の王道ラインに乗っていると、さまざまな契約関係もあって(意思を表明することで)各所に迷惑をかけることがあります。これまではタレント本人を守るためにも「何も言わないように」と(事務所側はタレントに)言ってきたと思う。でも今はSNSで(消費者と)ダイレクトにつながって、考えを伝えることができる時代。タレントも意思を持っている人間で、その思いを発していかないと生き残ることができなくなっている。そうは言っても、芸能界はまだまだ声を発するのが難しい世界です。だからこそ、もっともっと変わっていってほしいですね。もちろんそれは、タレント個人がリスクを抱えるということでもある。守ってくれる存在がなくなって、迷惑もたくさんたくさん掛けるかもしれませんが、フレキシブルに発信や発言ができたらと思って私は事務所を離れてフリーになりました。

WWD:5月29日に「コスメキッチン(COSME KITCHEN)」(マッシュホールディングス)のインスタライブに登場し、販売を盛り上げるなど、ファッションやビューティ企業のサポートも行っている。

紗栄子:自粛期間中は、ものを買うことや経済を回すことが悪いことのように思われている時期もありましたが、買い物をすることは悪いことではないはず。インスタライブ中に「ジェラート ピケ(GELATO PIQUE)」のオーガニックコットンのパジャマを羽織ってみて、やっぱり気持ちいいなと感じました。ファッションは物欲を満たすというだけでなく、心の健康を保つという側面も持っています。状況や環境によって、今はファッションを楽しむことができる人とできない人がいますが、できる人のことを批判して潰してしまうのはよくない。どんな業種も今は大変でしょうが、ファッション業界も新型コロナの影響は本当に大きかったと思います。働かれている方は厳しいこともあると思う。でも、ファッションを必要としている方はたくさんいるので、それを思い出して負けないでくださいとお伝えしたいです。私としても、微々たる力ですが業界をサポートできればと思って、インスタライブなどに出させていただいています。

WWD:今後立ち上げを目指しているというライフスタイルECはどんなものになる?

紗栄子:今急ピッチで開発を進めています。実は農業などの第一次産業にも以前から興味があるんです。農産物の販売会などに私がいると集客の面でお手伝いができるので、食育も兼ねてそういう場に子どもと一緒にお邪魔して、農家さんとはお付き合いを重ねてきました。自分自身でも畑をやりたいですし、自身や地域の農家さんが作った有機栽培などの野菜をECの定期購買でお届けしたい。自分の畑で採れた素材でファッションアイテムを作ることも考えています。植物療法学を学んでいるので、植物の力を生かした化粧品なども作っていきたいですね。モノ作りが好きなので、今は作るということを自分のライフワークに取り入れようとしているところ。メーカーから仕入れる商品も含めて、売り上げの一部を寄付や寄贈にまわすようなECの形を今構想中です。

支援活動は人のために行うものですが、活動の中で自分自身も社会や人とのつながりによって生かされていると再認識する。だから、いただくものの方が実はすごく多いんです。私は人のために動くことができる自分を好き。そんなふうに、自己肯定にもつながります。ある被災地で支援した方たちが、今度別の場所で災害が起こった際に力を貸してくださったりもする。そうやって人の気持ちがつながっていく。機会があれば、みんなにも是非ボランティアや支援活動に参加してみてほしいです。

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