5月末にアメリカで黒人男性ジョージ・フロイド(George Floyd)氏が白人の警察官に押さえつけられて死亡した事件から、全世界で人種差別に対する抗議や意思表明が行われている。
ビューティ業界でも多くの企業やブランドが「#BLM(BLACK LIVES MATTER、黒人の命は大切)」などのハッシュタグをつけて投稿をしているが、新たな動きが広がっている。中でも注目を集めているのが、自身も黒人でメイクアップブランド「ウオマ ビューティ(UOMA BEAUTY)」の創業者であるシャーロン・シューター(Sharon Chuter)が始めた「#pulluporshutup」運動だ。ビューティブランドや企業に社員の人種構成を公表するように求めたもので、専用のインスタグラムアカウント@pullupforchangeでは参加したブランドや企業の投稿を集めている。シャーロンは相次ぐビューティ企業の人種差別に対する投稿を見て、ただトレンドに乗って意思表明をするのではなく、きちんと自社の現状を公表することによって本気で向き合ってほしいという思いでスタートさせた。有色人種の構成率は企業やブランドによってさまざまだが、白人の割合が圧倒的に多いブランドは、「今後はより多様な組織づくりに励みます」といった反省のメッセージとともに投稿をしている。
大手企業の経営陣の多様性を公表
また、米「WWD」は世界の大手ビューティ企業の取締役および役員における有色人種の人数を公表した(2020年6月7日時点)。どれも業界トップのグローバル企業だが、アジア企業である資生堂以外は、有色人種が占める率は極めて低いことが分かる。
ロレアル(L'OREAL)
取締役:15人中0人
役員:21人中1人
ユニリーバ(UNILEVER)
取締役:23人中9人
役員:13人中5人
エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES)
取締役:16人中3人
役員:14人中2人
プロクター・アンド・ギャンブル(PROCTER & GAMBLE)
取締役:12人中2人
役員:35人中11人
資生堂
取締役:13人中13人
役員:16人中15人
コティ(COTY)
取締役:12人中1人
役員:3人中0人
LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)
取締役:15人中0人
役員:12人中0人
バイヤスドルフ(BEIERSDORF)
取締役会:12人中1人
役員:9人中4人
シャネル(CHANEL)
取締役会:2人中0人
役員:無回答
L ブランズ(L BRANDS)
取締役会:9人中2人
役員:9人中0人
具体的な改善策を提案する企業も
企業が次々と#pulluporshutupチャレンジに参加したり、このように人種構成を公開されたりする中で、早速改善のために動き出した企業も。エスティ ローダーは社内メモで今後黒人の従業員の雇用率を上げると約束した。全てのクラスの社員において、米国の人口の約13%を占める黒人の割合と同様に、今後5年までには黒人の雇用率を13%にすると宣言した。同社は一対一による面談やアンケート調査、ディスカッションなどを行い、改善策を模索する。そのほか多様な消費者に対応する販売員トレーニングなどを行い、多様な肌の色のための製品を展開し、また原料やパッケージは黒人によるビジネスからの調達を倍増する。採用のプロセスにおいても今後はナショナル ブラック MBA アソシエーション(NATIONAL BLACK MBA ASSOCIATION)と協業し、今後2年間で有色人種の雇用率を倍にする。今後3年では人種や社会的立場による差別をなくし、誰もが教育を受けられるようにさまざまな団体に合計1000万ドル(約10億円)を寄付する。またこれらの取り組みについて、半年に1回は進捗を公表するという。
小売りも声を上げた。専門店のセフォラ(SEPHORA)はニューヨークのデザイナー、オーロラ・ジェームズ(Aurora James)が掲げた「15パーセント プレッジ(15 Percent Pledge)」イニシアチブに参加すると表明した。これは小売り店に対して、黒人によるブランドを15%扱うように求めたもの。セフォラは今後、店内スペースの最低15%を黒人経営のブランドに割くと約束した。黒人経営ブランドの現状の扱いや在庫の比率を報告し、それに責任を持ち、次なるアクションを明確にするという、ジェームズが提示した3つのステージ全てに取り組む。同社は黒人経営のビジネスを資金面でも支援するほか、女性が経営するブランドの支援プログラム「アクセラレイト(ACCELERATE)」を活用して来年は有色人種の女性にフォーカスするという。
ここ数週間でこのような動きが一気に出てきたが、その結果“白人至上主義”とされてきたこれまでのビューティ業界の人種差別問題が浮き彫りになった。今まで当たり前のように有色人種の雇用や扱いにバイヤスがあったことは、多くの人にとって驚きであるとともに、納得のいかない事実でもあっただろう。化粧品は直接肌や髪といった外面、そして内面にも働きかけるからこそ、ビューティ業界におけるダイバーシティーは必須といっても過言ではない。まだ課題は多く残るが、新型コロナウイルスが多くの命を奪い、医療従事者に負担をかける中、ビューティ業界はいち早く殺菌ジェルを生産したり、支援を始めたりした。同様のスピード感で、今後は人種やジェンダー、年齢、社会的立場などに関係なく平等なコミュニティーを構築することに期待したい。