※この記事は2020年3月4日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
今こそ「エコシステム」という意識を
「案の定」で本当にガッカリなのですが、小売店がブランド、特に話をしやすい東京のブランドに「2020年春夏のオーダーをキャンセルしたい」と言っているそうです。OEM・ODMメーカーや素材・副資材メーカー、商社にも、同じようなことを言っているのでしょう。
とある東京ブランドのデザイナーは、「予想してたけれど、今回はいよいよ『ファッションはもう、こりごり』です」と話します。彼は自身の24時間・365日の多くを以後、ファッションとは違うジャンルに振り分けるそう。ゆえに先週、いつもと全然違うトピックスでミーティングさせていただきました。ブランドがなくなったら、キャンセルした店舗をマジで恨みます。
小売店のオーダーキャンセルは最近、香港のセレクトショップのバイヤーからも聞きました。でも、こちらは理解できるワケです。だって原因の大半は、皆が苦しんでいるコロナではなく、香港だけが悩んでいるデモだったから。事情を鑑みて、キャンセルに応じてくれたブランドも多かったと聞きます。「ヒドい話」に聞こえるかもしれません。でも苦しんでいるのが香港だけの痛みは、分かち合えるハズ。そう思う僕は、デモによる香港の対応を、新型コロナウイルスによる日本の小売店の対応と同様とは思わないのです。
そう、こうなるともう「痛み分け」しかないわけです。私たちは巨大なエコシステム、簡単に言えばファッション版の生態系の基に成り立っているワケで、「自分たちさえ良ければ」の発想は、エコシステムの一部を大きく傷つける。すると、いつしか全体が崩壊して自分たちの身さえ危うくなるのです。
僕に「エコシステム」という概念を教えてくれたのは、ファーフェッチのジョゼ・ネヴェス最高経営責任者でした。ECではなく、デジタル・プラットフォーマーとしてブランドや小売店との共存関係を確立した彼にかつて「エコシステム」という考えについて話を聞くと、「本心から大事だと思っている理念。例えば大きなブランドにとっても、小さなブランドが必要だ。もし大きなブランドしかなければ、ファッションは少しつまらないだろう。そうなると人は、旅行など他のものにお金を使ってしまい、大きなブランドさえ影響を受け、業界全体が縮小してしまう」と教えてくれました。コレですよ、コレ。われわれが常に意識すべきは、この考えなのです(下の最初のリンクが、そのインタビューです)。
苦しい今だからこそ、「エコシステム」という哲学が必要なのです。それは、ファッション&ビューティの「エコシステム」を破壊していないか?今われわれに求められる判断基準は、一義にコレなのでしょう。
イベントなどが中止・延期となり、これに基づくタイアップが無くなるなど、私たちも悩んでいます。一方で、それでもビジネスを続けるため、業界全体を盛り上げるため、取引先に迷惑をかけないため、早急に代替手段を構築するブランドも現れました。そこと組むわれわれも、当初の予定を大きく変えたり、正直、通常とは異なる対応にトライしたりしています。今悩み、考えるなら、そういうことを悩み、考えたいのです。
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