ロンドンという街は訪れる度に、先進的だと感じます。街の景観でなく、人々のマインドも。特に昨今強く感じるのは、フェミニズムの流れを受けた女性エンパワーメントの動きや、ソーシャル・グッド(地球環境や社会に対して良いインパクトを与える活動や商品、サービス)な企業が多いこと。ロンドン・ファッション・ウィークは“ポジティブ・ファッション”というスローガンを掲げ、ファッションが社会や環境に良いインパクトを与えられるよう力を入れています。ショップ巡りをしていると“Women Power”とプリントされたTシャツを頻繁に見かけ、街を散策中に女性やトランスエンダーの作家によるフェミニズム専門の本屋を市内に数店発見しました。それらソーシャル・グッドな取り組みを行う企業は、女性が先導しているという点も興味深いです。もちろん、ブランディングの手法として取り入れているという見解も否めませんが、少なくとも善行を積もうとしている姿勢には学ぶべきことがあると、個人的に思っています。2月中旬に訪れたロンドンで見つけた、ソーシャル・グッドや女性エンパワーメントに取り組む3つのイギリス企業を紹介します。
サステナブルな香水ブランド
SANA JARDIN
サステナビリティの概念はファッションやスキンケア、さらにはフレグランス業界にも波及しています。イギリス発の香水ブランド「サナ ジャルダン(SANA JARDIN)」の創始者エイミー・クリスチャンセン(Amy Christiansen)は、香水の生産過程で原料となる花々が大量に廃棄される、業界の悪しき習慣を変えるべく立ち上がりました。彼女は約25年間、非営利団体で社会事業に携わってきたイギリス人女性です。女性エンパワーメントにも力を入れており、モロッコにある農場の収穫者として現地女性を雇い、収穫のスキルに加え、年間600トン廃棄処理される花々をエッセンシャルキャンドルへとアップサイクルし、商品に作り変えるスキルを教育しています。栽培や香水作りに関する知識と技術の不足により年に数回しか収入を得る機会がなかったモロッコで、雇用促進と経済成長のために非営利団体と提携して女性協同組合も立ち上げています。支援ではなく、経済的機会を与えることで循環型経済の実現を目指しているそう。
チャリティー活動に励むベーカリー
Lily Vanilli Bakery
イギリスのフード業界で高い評価を受ける「リリー ヴァニリ ベーカリー(Lily Vanilli Bakery )」。創始者のリリー・ジョンズ(Lily Jones)が2008年、自宅のチッキンで焼いたケーキを小さなマーケットで売り出すと口コミで評判が広がり、ビスポーク専門の同ベーカリーを立ち上げました。イギリスの首相官邸やエルトン・ジョン(Elton John)、故アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)など著名人をクライアントに抱え、2011年にベーカリーをオープン。日曜日に週一度だけオープンしており、基本はビスポークケーキ専門のパン職人として活動中です。そんな彼女が数年前に立ち上げたのが、「ベイク フォー シリア(Bake for Syria)」というプロジェクトです。これは、シリアの戦争で故郷を離れ避難している子どもたちの生活を支援するための資金集めとして発足。世界中の著名なパン職人やシェフから寄付されたパンやレシピで、チャリティーイベントの開催やレシピ本販売を行っています。同じ仕組みで、オーストラリア森林火災にも支援金を送ったそう。 「自分が住んでいる場所から遠く離れた場所で起こっているからといって、私たちが無力だと感じるのは非常に悲劇的です。小さくても、出来ることをしたいと思って発足しました」と彼女は語ってくれました。
私がベーカリーを訪れた日曜日は土砂降りの雨に見舞われましたが、お店は混雑していてひっきりなしにお客さんが入ってくる人気ぶり。常に進化したいという向上心の高い彼女は、季節の食材やインスピレーションを得て毎週メニューを変えるそうです。私がベーカリーで頂いたルバーブとブラッドオレンジのタルトはとても新鮮な食材の香りが鼻から抜けて、酸味と甘味のバランスが絶妙な美味しさでした!
ユーチューバー発のベーカリー
Crumbs&Doilies
同じベーカリーでも趣向が異なるのがソーホーにお店を構える「クランブス アンド ドーリーズ(Crumbs&Doilies)」。創始者のジェマ・ウィルソン(Jemma Wilson)は、コンテンツマーケティング会社の会社経営を行う傍ら、06年から“カップケーキ・ジェマ(Cupcake Jemma)”の名でカップケーキを中心とする焼き菓子の作り方を紹介するユーチューブチャンネルを始めました。登録者数が100万人に達した13年にクラウドファンディングを通して、ベーカリーを開くための資金集めを開始。15年には念願のお店をオープンさせたのです。カップケーキ作りだけでなく、コミュニティー作りでも手腕を発揮する彼女のベーカリーで使用するのは有機食材で、コーヒー豆もフェアトレード認証を受けたメーカーのみ。「ベイク フォー シリア」のチャリティーに参加するほか、オーストラリア森林火災の支援金集めも行っていました。雇用しているのは9割が女性で、私がお店を訪れたときには店内は女性客で大盛況。出産を控えているジェマには会えずでしたが「妊娠を経験して“女性”であることの誇りを改めて実感している」と文面で語り、今後女性エンパワーメントに力を入れていくのかなと感じました。また、同店のあるカーナビー・ストリートは海洋保護の慈善団体「プロジェクト ゼロ(Project Zero)」と連携し、各店の照明電力は100%再生可能エネルギー、古紙配合率100%の再生紙に統一、使い捨てのプラスチックカップの廃止などにも取り組んでいます。