※この記事は2020年6月11日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
「#BLM」に揺れ動く社内と心
「#BLM(#BlackLivesMatter)」運動が盛り上がっています。先週以降、弊社もウェブ記事と、その記事の存在を告げるSNSの運用を皮切りに、「私たちが、すべきことは何か?」「私たちに、何ができるか?」「私たちは、何がしたいのか?」を考えながら、いつも以上の注意を払いつつ記事のアップ、SNSの運用、ひいてはメッセージの発信を心がけているつもりですが、考えが合わなかったり、お気に召さない方がいらっしゃったりするかもしれません。
本件について最初にアップしたのは、下のリンクの2本目の記事でした。記事に対するリアクションはSNSを中心に、批判的なコメントも少なくありませんでした。米「WWD」の翻訳記事ですが、担当者は和訳だけでは不十分と感じ、「なお現地メディアによれば、こうした略奪行為を行っているのは必ずしもデモの参加者ではなく、混乱に乗じた関係のない武装市民であることも多いという」の一文をプラスしています。しかし、「白人警官による黒人男性殺害に対する抗議が激化 『グッチ(GUCCI)』などが破壊行為や略奪の被害に」というタイトルが誤解のきっかけ、でした。「デモ隊が、破壊行為をしたと言いたいの?」というご意見を頂戴したのです。担当者が追記した通り、全文を読めば、そう言いたいわけではないと理解していただけるハズです。でも今は、スマホの画面を高速スクロールして情報を消費し続ける時代。その意味で配慮が完璧だったとは言い切れません。
批判に真っ先にさらされる、弊社のSNSチームは、揺れ動きました。程なく、「#BLM」に賛同する黒一色の画像をインスタグラムに投稿したい、との相談がありました。私は、「あなたが『やるべき』と考えているなら賛成、『やらないと、叩かれる』と恐れているのなら反対」と返信。返事は「両方です」でしたが(正直ですw)、よくよく聞くと「やるべき」が圧倒的比重を占めているように感じられたので賛成しました。
正解は、わかりません。私の背中を押したのは常日頃「インスタグラムのアカウントも1つのメディア。雑誌やウェブサイト同様に人格があるから、フォロワーは惹かれる」と教えてくれる、インスタグラム・マーケティングの会社リデルの福田CEOの言葉でした。福田CEOがおっしゃる通り、もはやインスタグラムは、ウェブサイトや週刊紙と同等のメディアです。だとしたら、SNS担当者は、1つのメディアの“編集長”。“編集長”が「やりたい」と願うなら、やるべきだろうと思ったのです。私は今、同じく1つのメディアを預かる身として、「やりたい」ことをやれる環境に感謝していますから。無論、私は最終的に「バランス」を意識すべき立場ですが、現段階においては各々の裁量に委ね、ただ言葉の使い方を誤って各々の言いたいことが誤解されないように気をつけることに徹しても良いのかな?と思っています。
このスタンスは、ニュースサイト「WWDJAPAN.com」の捉え方においても同様です。よくスタッフからは、「『WWDJAPAN.com』らしさとは、何ですか?」的な質問を受けるのですが、私は、社外では明言しますが、社内ではそれを避けています(笑)。理由は、私の答えは、ある種の「力」を有してしまうから。私が答えると、それ以外の解釈が出てこなくなる可能性がある。そう危惧しています。流石にベクトルが180度違うのは困りますが、60度くらいの違いなら許容できるし、むしろ盛り込みたい。だからサイトの捉え方さえ、各々に委ねているのです。私がすべきは、多様な記事のそれぞれに責任を持つことでしょう。たとえそれが、私とは違うサイトの捉え方のもとに誕生したとしても、です。
言わない、なんて卑怯でしょうか?そうかもしれません。私らしくないのかも?とも思います。でも、私が「言わない」ことで、誰かが「言いやすくなる」のなら、それもまた正解なのでは?と考えています。それが、声を見過ごすことをやめることにつながると信じています。
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