世界最大級の国際見本市の主催企業であるメッセフランクフルト(MESSE FRANKFURT)と、ベルリンでファッションの大型合同展を運営するプレミアム・グループ(PREMIUM GROUP)は、これまでベルリン・ファッション・ウイーク中に開催していた合同展の「プレミアム(PREMIUM)」「シーク(SEEK)」「ネオニット(NEONYT)」を2021年夏からフランクフルト・アム・マイン(通称フランクフルト)市に移転する。それに合わせて、それぞれが手掛けるファッションのテクノロジーとサステナビリティにフォーカスした2つのカンファレンスも開催地を移し、新たにフランクフルト市と同市が属するヘッセン州主催によるフランフルト・ファッション・ウイークがスタートする。デジタル化とサステナビリティを二大テーマに掲げ、合同展、カンファレンス、ランウエイショー、イベントを融合したファッション・ウイークを目指す。
プレミアム・グループが主催する「プレミアム」は大手からデザイナーズブランドまでメンズ&ウィメンズの500ブランド以上が一堂に会する総合展で、「シーク」はコンテンポラリーカジュアルやストリートウエアを中心に300ブランドが出展。また、メッセフランクフルトによる「ネオニット」はサステナブル・ファッションに特化し、200を超えるブランドが参加している。これらの合同展はこれまでベルリン・ファッション・ウイークの柱として、ヨーロッパを中心に世界からバイヤーの誘致に貢献してきた。同ファッション・ウイークには毎シーズン7万人以上が参加し、街に2400万ユーロ(約29億円)の経済効果をもたらしていたという。今回の移転によりベルリンが受ける影響は大きい。
ただ、ドイツ語圏のデザイナーズブランドのランウエイショーを中心とするメルセデス・ベンツ・ファッション・ウイーク・ベルリン(MBFWB)は今後も継続する意向を示している。新型コロナウイルスの影響により7月は見送りとなったが、来年1月は予定通り開催予定。これまでパリ・メンズ・ファッション・ウイークと時期がかぶることも問題の一つだったため、21年夏以降は新たな日程での開催を模索する。また、ドイツ発のファッションEC「アバウトユー(ABOUT YOU)」が主催する一般消費者向けのアバウトユー・ファッション・ウイークや、パノラマ・ファッションフェア・ベルリン(PANORAMA FASHION FAIR BERLIN)による270ブランド以上が集まる大型合同展もベルリンにとどまる予定だ。
ファッション・ウイークにふさわしい街は?
ファッション・ウイークというフォーマット自体の存在意義が問われる中、MBFWBもここ数シーズン迷走していたのは事実だが、昨シーズンはアンダーグラウンドカルチャーやクラブシーンに根差したブランドが参加するなどベルリンらしさが垣間見えた。また、個性的な街の雰囲気やクリエイティブなカルチャーに魅力を感じ、ファッション・ウイークへの参加を続けているブランドや関係者も多い。
一方、ピーター・フェルトマン(Peter Feldmann)=フランクフルト市長は、これを機にフランクフルトを国際的かつ先進的なファッション&ライフスタイルシーンのホットスポットにしたいと考える。財政力が強みの同市とヘッセン州は、今後3年間で1000万ユーロ(約12億1000万円)の投資を計画。プレミアム・グループのアニータ・ティルマン(Anita Tillmann)=マネジングパートナーも以前からベルリン市の支援態勢には不満を漏らしており(ベルリン・ファッション・ウイークの公式サイトによると行政の支援は07年からの合計で1000万ユーロ強)、フランクフルト市とヘッセン州の投資が今回の移転の決め手の一つになったと言えるだろう。また、ハブ空港を擁する海外からのアクセスの良さやメッセフランクフルトが市街中心部に巨大な展示場を有していることなどを考えると、合同展の開催地としては優位性がある。しかし、ファッションの主要都市としての地位を確立できるかどうかはまた別の話。金融やビジネスの街として知られるフランクフルトと、ますます高い独自性が求められるファッション・ウイークの親和性は未知数だ。
フランクフルト・ファッション・ウイークの詳細は9月に発表予定だが、いずれにしても事実上2都市への分散は理想的ではない。特にランウエイショーを行うブランドは、集客や露出、ブランディングなどのメリットとデメリットを考え、どちらに参加するかを悩むことになるだろう。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。