D2Cブランドの運営やサポートを行うTO NINEが、6月21日に新ブランド「セン(SENN)」をスタートさせる。1アイテムで手入れが完了するスキンケア製品をOEM会社のサティス製薬と開発し自社サイトで直販するというが、一般的な“スキンケアブランド”とは異なるという。
増田智士CEO(最高経営責任者)は「これまで当社では2つのブランドを出してきたが、いずれも価値観を基準にしたブランドづくりを行ってきた。『セン』もこれまでの足し算をする美容に課題を感じ、“レス イズ ビューティ(Less is beauty)”という考え方を提唱している」と語る。
同社が展開するアパレルブランド「ケイ(KEI)」では服のサイズという常識を疑問に感じ、企業の都合にユーザーが合わせるのではなく、ユーザーの都合に寄り添うオーダーシャツを展開。結婚指輪の「イワイガミ(IWAIGAMI)」では、従来の結婚式のあり方に課題を見つけて、いつでも・どこでもできる結婚式スタイルを提案している。
現在の美容業界では、スキンケアに複数アイテムを使用することが多く、消費者は多くの製品を試している。その分、何を使えばいいのか分からないという不満も生まれた。そこで「セン」は本当に必要なものだけを1本で提供し、心にゆとりを持てるトータルビューティブランドを目指している。
唯一の製品となる「ウォーターオイルバランサー」は全9種(各6400円)。2層式で、油層は肌質(普通・乾燥・混合)に、水層は肌悩み(ハリ・シミ・毛穴)に対応している。さらに、追加で肌解析キットがつけられるため、現在の肌状態を客観的に詳しく知ることができるという。
製品は使う前に振って混ぜることで、大小の油分粒子が発生。小さい粒は引き込みオイルとして、大きい粒は潤いを守るフタとして働く。使用する成分の99%が天然由来だ。また香りにもこだわり、クロモジやユズ、白檀といった「セン」が持つ和のテイストとマッチする素材を用い、専門調香師が世界観を表現したという。
D2Cブランドを数多く手がけるサティス製薬の山崎智士社長との出会いからスタートし、約2年をかけてブランドづくりをしてきた。長い時間を要したのは製品づくりだけでなく、コミュニケーションや世界観づくりなど、細部までこだわったためだという。その世界観作りも一風変わっている。
食事や瞑想など余白のあるスタイルを提案
「僕たちは“レス イズ ビューティ”という考え方を伝えたいと思っていて、プロダクトブランドではなく“価値観ドリブン”。製品はあくまでもアウトプットの一つの形だ」と増田CEO。
美容はスキンケア製品を使うだけでなく、食事や睡眠、心の状態など複合的な要素が絡む。「セン」は生活自体をよりよくし、自分の心を落ち着けるため、メディテーションやシンプルな食事の情報、音楽やコンテンツなどを得られるプラットフォームともなる。売って終わりではなく、むしろ売ってからがスタートというブランドの在り方だ。
そのためブランドづくりの過程では、岐阜県の美濃焼の工房に行ったり、鎌倉の寺で禅を体験したりと「セン」の世界観を広げる体験を社員全員で行ったという。
吉岡芳明COO(最高執行責任者)は、「時間はかかるが、作り手全員が世界観を理解している必要がある。今後はユーザーにもイベントなどで体験を届けたい」と構想を語る。
ローンチ前にはユーザーを限定し、オンラインで行う「ホームリトリートプログラム」を実施。自宅でヨガや食事瞑想などを行ってもらう中で、日常の中の余白という贅沢を感じる体験だ。こういったイベントは製品を売るために行うのではなく、価値観を共有するためのものだという。
また開発の2年間ではユーザーアンケートを何度も実施し、肌悩みや美容の悩みをじっくりインタビューしたという。世の中には7〜8割の完成度で世に出し、ユーザーの意見を取り入れて改良を続けるアジャイル型の製品もある。D2Cブランドの強みを生かした手法だが、「セン」は完成を目指した。
吉岡COOは「いずれの手法にしても、ユーザーのことを深く知ることで改善していけるが、ローンチしてからだと関係性をより深めながらスピードも保つことは難しい。僕らは2年間を費やしたが、ゆっくりつくっていたというよりは、早いサイクルで改善し続けた2年間だったといえる」と答える。デジタルのスピードを用いるからこそ、細かなところまでブランドをつくり込めたのだ。
ローンチ後もペースは崩さず、半年は月の販売個数を制限する。正式ローンチを12月に予定し、それまではユーザーとの関係を少しずつ広げていくのだという。また24日からは新開業するニューマン横浜でポップアップイベントを行い、幅広い顧客との出会いから意見をすくい上げると話す。
くしくも新型コロナの影響で、在宅による時間のゆとりを経験した人も多い。ウェルネス分野も多くの注目を集める中、「セン」のような余白を生むブランドにも共感が集まりそうだ。