ファーストリテイリングは、「LifeWearの全てをここに」をコンセプトにする日本最大級のグローバル旗艦店「ユニクロ トウキョウ」を6月19日に開業する。前日の18日に記者会見と内覧会を行った。
「ユニクロ トウキョウ」はトータルクリエイティブディレクターを佐藤可士和が、内外装をスイス発の建築家ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロン(Herzog & De Meuron)が手掛ける。1~4階の4フロアで売り場面積は吹き抜け部分も含めて約4950平方メートル。ウィメンズ、メンズ、キッズ、ベビー商品を品ぞろえする。
会見に登壇した柳井正・会長兼社長は、同店や4月に開業した「ユニクロ パーク横浜ベイサイド店」、6月5日にオープンした「ユニクロ原宿店」の出店を機に、「本当に必要な商品を世界と一緒に共鳴して作る。マーケティングを超えたソーシャルな存在になりたい」と発言。「2020年代の世界のアパレル小売業を変える、あるいは、アパレル小売業ではなくなる。本当に世界に必要とされる新しい企業や産業を作りたい」と続けた。
記者会見での柳井正会長兼社長のコメント概要は以下の通り。
コロナから元気になる、そのためにこの店がある。店はお客さまのためにあるので、ぜひ、千客万来にしていきたい。それによって日本が元気になる。そういった力になれればと思う。
吹き抜けが特徴的なこの店は、グローバルフラッグシップストア(旗艦店)だ。東京・銀座はコロナによって街全体の元気がなくなっていたが、これが再生すればありがたい。この店は、ユニクロの最先端の売り場だ。お客さまに来ていただき、買い物してもらって、よかったなと思ってもらうことが大事だと思う。「ユニクロ パーク横浜ベイサイド店」「ユニクロ原宿店」、そしてこの銀座のグローバルフラッグシップストアの3店舗で元気にしたい。
われわれは情報製造小売業、デジタルコンシューマーリテールを目指している。お客さまに情報をお届けして、買い物してもらう。本当に必要な商品を世界と一緒に共鳴して作り、今後はコマーシャルな(意図の)マーケティング(を行う)だけではなく、マーケティングを超えたソーシャルな存在になりたいと思っている。今はソーシャルな時代だ。20年代の世界のアパレル小売業を変える、あるいは、アパレル小売業じゃなくなる、そういうあり方にもっていきたいなと思う。
そのためには、コロナ後、人々のライフスタイルがどのように変わるのか、20年代の世界はどういうものなのかを想像しながら、会社自体を変えなければならないと思っている。その答えがこの店の中にあればと思う。
歴史的に時代を先導したアパレル小売業の中には、マークス&スペンサー、シアーズ、ウォルマ―ト、リミテッド、ギャップ、「ザラ(ZARA)」、H&Mや、スポーツメーカーのナイキ、アディダスなどがある。それらを超える、新しい業態を作りたいと思うし、究極の普段着、本当にいい服、新しい価値を持つ服を創造して、新しいいい空間で売っていく。LifeWearの世界を具現化していきたい。
さらに、記者との質疑応答の概要は以下の通り。
――コロナでお客さまを呼べない時代が続く。行動変容が起こるが、お店の役割は変わっていくのか?
柳井正・会長兼社長(以下、柳井):お客さまのためになる店は栄える。その店がある意義があって、そこで働く人が使命感を持っていて、いい商品を売っている。行ってよかったなという体験ができる。そういう店が生き残るのではないかと思う、逆にいえば、それ以外の店は今回のコロナでほとんどダメになるという気がしている。コロナで時代が変わって、流れが速くなった。これまで10年かかったことが1年間で過ぎる次の世界になっている。コロナは20年代を象徴するような出来事で、20年代はコロナとその再起の時代になる。再起の時代を象徴するようなお店を作りたかった。
――本来なら今は東京五輪の直前で、世界が東京に注目するタイミングだった。当初思い描いていたグローバル旗艦店からの変化はあったのか?
柳井:確かに言われている通り五輪は延期となったが、コロナはそんなに続くわけがない。最長で1年ぐらいだと思う。コロナが起きた中で、このような旗艦店を作る人はいないと思うので、不幸だけど幸運だと思う。ここは東京・銀座、日本を代表するハイストリート。その中でも端にある。東京駅から人の流れが銀座や日本橋につながる、そのきっかけになれれば。このエリアの再編のきっかけになりたい。ここは恐らく、銀座で最後の大型物件だと思う。いままで(館に)人が来なかったというのは、優れたコンテンツやメッセージがなかったからと思う。それを発信することで、お客さまに来ていただいて、できるだけたくさん買いものをしていただきたい。
――在宅勤務が増え、普段着のニーズが高まっている。ユニクロに追い風がきているか?
柳井:追い風がきていると思うが、それを予想していたということでなく、われわれのような考え方が、世界の中心になっていくんじゃないかなと思う。究極の普段着を世界で売りたいなと思っているので、そのために原材料、資材、製造、物流、小売り、マーケティング、お客様とのコミュニケーション、従業員とのコミュニケーションをダイレクトにできる新しい会社、新しい業態を作ることをやっていきたい。
――先ほど「ザラ」などの名前を挙げて、それら時代をつくってきた業態とは違うものを作りたいという発言があった。どのように無二の店になっていくのか?インディテックスにはまだ売上高で1兆円近い差がある。
柳井:売上高は問題ではない。社会にとって本当にいい、プラスになる、もっとソーシャルな関係が構築できる小売業、あるいは、新しい業態が、10年や20年に一度出てくる。新しい産業を作り出すという気持ちでやっている。
――コロナによってライフスタイルはどう変わっていくか。
柳井:日本は先進国の中でも特に安心な国だったが、コロナによって安心な国ではないんじゃないかと思い始めた。それとステイホーム期間があったことで、生きることについてや家族、人生など、そういったエッセンシャルなものを考える時間になったと思う。そういうことをきっかけに人は変わっていくと思う。コロナを克服するだけではなく、社会・経済の課題を解決していく。そのために自分の人生をどう設計していくか。超えられない問題や課題を解決していくこととはどういうことなのか、本当に大事なものを世界中の人が考えたはず。一つの時代の転換期になるんじゃないかと思う。本を読んだ人も多いと思うので、歴史的なこと、世界的なこと、あるいは日本とはどういう国なのか、そういうことがよく考えられる期間だったと思う。
松下久美:ファッション週刊紙「WWDジャパン」のデスク、シニアエディター、「日本繊維新聞」の小売り・流通記者として、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)