ファッション

ヴァージルの謝罪に思う エディターズレターバックナンバー

※この記事は2020年6月18日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

ヴァージルの謝罪に思う

 この数週間、BLM運動とそれに関連する記事を米「WWD」の中からピックアップして、翻訳をウェブや紙面に掲載していますが、今回のムーブメントは賛同を表明する白人が「(黒人の運動を)利用するな」と批判され、賛同する大企業が「全然行動が伴っていない」と実態を暴かれるなど、単純には語れないものになっています。

 メディアとしての姿勢も厳しく問われており、米「WWD」も暴動や略奪の報道への偏りを自ら省みる記事を出しています。正直、私も同じ轍を踏みました……。1番目の関連記事の冒頭部分は自分への戒めも込めています。

 そんな私がどうしようもなくモヤモヤしたのは、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の謝罪のニュースでした(2番目の関連記事)。

 なぜ、ヴァージルは謝罪しなければならなかったのでしょうか?

 「私の店や友人の店がどんな略奪の被害を受けているかについて語ったが、それが不正に対して抗議する権利よりも、店の方が重要だと受け取られるような内容だったことを謝罪する」とのことでしたが、問題になったヴァージルのコメントは、友人が我が子のように育ててきたショップが壊されるのを見て、思わずあげた叫びだったのは明らかでした。

 「命と比べれば、物が壊されることなど、大したことではない」という考えや、「人種差別自体を批判するより、抗議の仕方を優先的に批判すべきではない」という意見など、黒人の長くつらい歴史を振り返れば、理解できます。

 BLM運動を牽引してしかるべきヴァージルが、略奪への非難かと失望した人もいたことでしょう。しかし、彼にとって友人が受けた被害に心を痛めたことは、自身が黒人であると同じくらい本質だったろうにと私は思いました。略奪をした人々が抗議デモとは関係ない人たちだったことも明るみに出ています。ジェリー・ロレンゾ(Jerry Lorenzo)がヴァージルにかけた言葉に救われました。3番目の関連記事に入っています。

 日本で生活する私たちができることは何か?それを考えるきっかけになればと「WWDジャパン」6月15日号では、公民権運動史研究で多くの業績がある日本女子大学の藤永康政教授に「今回の運動のこれまでとは違うところ」や「抗議の向かう先」「私たちができること」について聞いています。

 確かに差別や決めつけは日常の至るところにありますね……。問題意識を持って知ろうとし続けることが大事だと思うし、実践していきたいです。

VIEWS ON WWD U.S.:米「WWD」の翻訳記事から、注目すべきニュースの紹介や記事の面白さを解説するメールマガジン。「WWDジャパン」のライセンス元である米「WWD」は1910年から続くファッション業界専門紙。世界中のデザイナーや企業のトップと強く繋がっており、彼らの動向や考え、市場の動きをいち早く、詳しく業界で働く人々に届けています。

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