※この記事は2020年6月22日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
展示会で洋服を(あんまり)見ていない私
少しずつ再開している展示会で再認識したのですが、僕、展示会であんまり洋服を見ていません。先日お邪魔した展示会では、1時間喋りっぱなし、聞きっぱなし。慌てて「あ、チョットだけ見ます!!」ってカンジで、ラックの間を駆け抜け、失礼させていただきました。
きゃ~、怒らないで(笑)!!でも、そんな展示会になっちゃうブランドほど、その姿を理解しているし、だからスキな気がします。その洋服を着ているスタッフの皆さんとの会話から、人となりを知り、そのブランドの洋服を着るとどんな気分になるかを悟り、何を考え、どこに向かっているかを学ぶ。そんなコミュニケーションをしている時、隣に並んでいる洋服は究極「おしゃべりを通して悟ったものが、形になっただけ」です。いや、「形になっている」のはスゴいことですが、こんな風に思ってしまった時、改めて「洋服至上主義」に陥ってはいけないのだと痛感しました。
「ファッションを生業にしながら、洋服のことだけを考えちゃいけない」。難しいことですが、真実かと思います。僕、洋服オタクとはあんまり会話が続かず(苦笑)、ことファッションショーでは洋服のディテールを書き連ねるだけ記事のPVは低調です。むしろ「あぁ、なんの感情も湧かなくって、洋服だけを語る記事を書いてしまった……」と反省さえするほどです。なんか、ここにヒントがありそうな気がするんですよね~。例えば皆さん1日だけ、いやきっと無理だから1時間だけ、「洋服本体にまつわる話以外は禁止!!」なコミュニケーションに挑戦してみるのはいかがでしょう?きっと、それは恐ろしく苦痛な1時間です。洋服オタクじゃない限り。そして、そんな経験をすると「ファッション業界とはいえ、洋服を作るだけじゃダメだ~」と気づくのでは?と思うのです。
なぜこんな話を?と言いますと、このメルマガで度々お話しています「ファッションの拡張性」について、僕は「ここに気づかなければ、未来はない!」と思っていますが、やっぱり気付くことは結構難しそうなのです。「展示会」というフォーマットは、みんなが「洋服のことを伝え、学ぶ場だから」と思っているせいか、洋服のディテールばかりを話し、聞いてしまいがち。袖を通すことで得られる感情や、長きにわたり着ることで育まれる人格や個性みたいなものは置き去りです。で、そんな展示会で洋服のディテールだけを学んだ編集者やライターは、ゆえに携わるメディアで洋服のことしか書けずに終了。「あぁ、個々人が体験に基づく情報を発信しているインスタグラムが面白くって、オールドメディアがつまらなくなるワケだ」など、思考はどんどん発展します。
業界の皆さん、どうでしょうか?久しぶりの洋服の展示会、ビューティの発表会は思い切って、商品・製品の詳細を語らない場や時間を設けてみては?リアルなコミュニケーションが渇望しがちな今、袖を通すことで、肌に塗ることで得られる感情についての言及やプレゼンがあったら、それは、来場者の琴線に今まで以上に響きそうです。
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