ファッション

“新たな世界”で企業が進むべき方向は? 黒人女性エディターの公開書簡

 米ミネソタ州ミネアポリスで5月25日に黒人男性のジョージ・フロイド(George Floyd)氏が白人の警察官に首を押さえつけられて死亡した事件を受けて、世界中で抗議運動が行われている。企業も寄付などで運動を支援しているが、当事者である有色人種の人々を中心に、それだけでは十分ではないという声も上がっている。

 米「ソーシングジャーナル(Sourcing Journal)」の編集者、タラ・ドナルドソン(Tara Donaldson)も、そうした“不満”を感じている一人だ。同氏が投稿した公開書簡を紹介する。

 「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」運動に関するメールが、さまざまな企業から毎日のように送られてくる。私は黒人の女性だが、それらに勇気づけられるどころか、最近はもはやいらつきのもととなっている。なぜか。ほとんどの場合、そうした声明は白人の最高経営責任者が書き、白人の取締役たちが確認し、白人の広報担当者が発表している。それで「当社は人種差別に反対する運動を支持します」とか、「多様性を推進しています」と言われても、全く胸に響かないからだ。

 今回の抗議運動の盛り上がりを受けて、多くの企業やブランドがインスタグラムに黒の四角い画像を投稿したり、何かしらのメッセージを発信したり、人種差別と闘う団体に寄付をしたりしている。そうした支援活動が悪いわけではないが、以前から人種差別に反対し、不公正の是正に取り組み、取締役レベルを含めて雇用の多様性を推進してきたという体(てい)を装っても、実際には付け焼き刃であることを見透かされていると思って間違いない。だからといって、何も発言しないのも問題だ。下手なことを言うよりはと安全策のつもりで沈黙しているのかもしれないが、その“沈黙”は逆に企業やブランドの姿勢を雄弁に物語るため、企業の社会的責任に敏感な最近の消費者に「もう買わないブランド」として認識されてしまう。

 つまりこれは何を言っても、もしくは言わなくても批判されるという、ほぼ勝ち目のない議題なのだが、ではいったいどうすればいいのだろうか。答えは簡単で、行動あるのみである。

 多くの企業は、これまでもさまざまな人種や属性の人たちに門戸を開いてきたし、有色人種の管理職もいると主張するかもしれない。しかし、たとえ黒人の管理職や取締役がいても、経営上の決定権を持つ人間が全員白人なのであれば、努力は不十分だと言わざるを得ない。また多様性に関する部門を率いる“チーフ・ダイバーシティー・オフィサー”なる役職を設けたり、有色人種の人たちを顧問やアドバイザーとして採用したりして意見を聞き、「当社は多様性に取り組んでいる」と満足してしまうのもよくあるパターンだ。

 ファッション業界におけるサステナビリティへの対応を考えると、分かりやすいかもしれない。原材料や素材を全てオーガニックなものや再生したものに切り替え、二酸化炭素排出量を減らすべく努力し、G7サミットで気候変動に関する協定への署名を呼びかけるなど、本腰を入れた活動をする企業がある一方で、従来から何も変わっていない商品に「サステナビリティに取り組んでいます」とシールを貼って終わりにする不誠実な企業も存在する。多様性も同じことだ。奨学金制度や教育プログラムを継続的に支援し、さまざまなバックグラウンドを持つ若者を採用した上で、白人以外の人たちも管理職に就ける道筋をしっかりつくり、人種による偏見がなくなるよう尽力するといった本気の行動は、言葉の何倍も雄弁にその企業やブランドの価値を語ってくれる。

 今回のムーブメントもあって、今後はサステナビリティだけでなく雇用の多様性について関心を持つ消費者が増えることは想像に難くない。透明性やオーセンティシティー(信頼できる本物であること)が重視される昨今、口先ばかりで行動が伴っていないことが明らかになった際には、回復が不可能なほどの失墜もあり得ると覚悟するべきだろう。

 意思決定の場に有色人種の従業員がいないことには、さまざまな弊害がある。その一つとして、ブラックフェイス(黒人に扮して顔を黒く塗る)表現のキャラクター製品を発売したり、“クールな猿”というような言葉がプリントされた衣服を黒人モデルに着用させたりといった、人種差別的な間違いを犯してしまうことがあるだろう。一人でも黒人の従業員がいれば、「これは人種差別だ、やめたほうがいい」と声を上げて止めただろうし、有色人種の従業員がその場にいるだけでも「これは差別的ではないだろうか」とチーム全員が立ち止まって考えるきっかけとなる。企業やブランドが、白人ではない人々や、社会的に恵まれていない立場の人々を無視して物事を進めてしまう理由に、その姿が見えていないことが挙げられる。

 これを防ぐためには、まず意思決定の場にさまざまな人種や属性の人がいるようにすることが重要だ。また、サプライチェーンのことも忘れないようにしたい。縫製工場は大抵バングラデシュなどの発展途上国にあり、労働者は経済的に困窮していることが多い。彼らを搾取することは構造的な人種差別の一種であり、ファッション業界が真剣に取り組むべき問題だ。

 企業が本気で多様化に取り組めば、売り上げも増加する。従業員や経営陣にいろいろな人種がいることで、白人しかいない場合と比べて、より幅広く豊かなアイデアに基づいた画期的な商品が生まれるからだ。またその商品を販売する際にも、多様なバックグラウンドを持つチームが担当したほうが幅広い消費者層に届くプロモーションができるに違いないし、これから主な購買層となっていく若者たちの心にも響く。意思決定の場にあらゆる属性の人がいて、インクルーシブでバランスの取れた事業運営ができれば、従業員と消費者のいずれからも信頼を得ることができるだろう。“新たな世界”で企業が進むべきは、この方向だ。

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