※この記事は2020年6月25日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
“ギルティー・プレジャー”という存在意義と消費行動
「そこに飛び火するんですか!」と思ったのが、下のリンクで紹介するジョンソン・エンド・ジョンソンのニュースです。BLM運動の高まりを受けて、アメリカで美白効果があるとされる化粧品の販売を中止します。
記事にある通り、日本では「江戸時代から美白化粧品はブーム。 “色の白いは七難隠す”なんて言葉もあるほど、人種とかに関係なく美白は美意識にすり込まれたもの」などと考え、戸惑う人もいることでしょう。でもアメリカでは、大陸を発見したコロンブスさえ「先住民の虐殺を招いた人物」と捉えられ、像が破壊される状況です。私たちの意思が拠り所とする歴史観さえ白人中心に形作られたもので偏っていると言われてしまうと、「そうか……」以上の言葉が出てきません。いよいよ見解は千差万別で構わず、「各々が、それぞれの考えを主張できれば、それで良い」とさえ思い始めてきました。
そんな時、メルマガ「ミレニアル マインド」の執筆者である北坂記者(通称エリー)に、面白い記事を教えてもらいました。“ハラハラ”ブランド「ブランディー メルヴィル」は、“ギルティー・プレジャー”という他媒体の記事です。ブランドも“ギルティー・プレジャー”もピンと来ない方にお伝えしますと、「ブランディー メルヴィル」は10~20代の女の子に向けたブランド(日本未展開)。「XSとSしかないの⁉︎」と思わずにはいられないピタピタなヘソ出しトップスと、マイクロミニのホッパンなどが人気のブランドでした(多分、最近は勢いが陰りがちな気がします)。で、“ギルティー・プレジャー”とは直訳の通り「罪悪感を抱く楽しみ」。アメリカでは「カラダに良くないってわかっているのに美味し過ぎるから食べてしまう」マカロニチーズやチョコレートファッジなどが“ギルティー・プレジャー”の代名詞です。日本では、居酒屋をハシゴしての朝帰りでしょうか?植木等が「分かっちゃいるけど、やめられない」って言ってますもんね(笑)。
で、話を記事に戻しますと、「ブランディー メルヴィル」はハッキリ言えばこれまでの「ヴィクトリアズ・シークレット」同様、スレンダーで、若い、白人の女の子という多様性を欠く女性像を基にブランドビジネスを続けており、無論こんなご時世、ネットではネガティブな意見が噴出しています。でも、それでも、一部の女の子は「やっぱりカワイイんだもん!!」という感覚で「ブランディー メルヴィル」を買って、着てしまう。でも彼女たちはちゃんと、マカロニチーズに抗えない時に似た“ギルティー・プレジャー”を認識しているという内容でした。記事には、女の子の赤裸々なコメントが掲載されています。「ゴミブランドだって分かってるわ。でも、ブランドのTシャツやタンクトップは大好きなの」とか「仕事が終わって、もう誰とも会わなくて良い夕方になると『ブランディー メルヴィル』に着替えるの」など。なるほど。こんな消費も「アリ」かもしれないと思いました。それに嫌悪感を抱く人もいるかもしれませんが、ゴシップ的感覚や“ギルティー・プレジャー”という喜びはある程度、ファッションがファッションであるために欠かせない要素だと思っています。
「ブランディー メルヴィル」が過度に地球環境を破壊していなかったり、地球のどこかで誰かの犠牲を強いたりしていなければ、たとえ画一的な女性像に立脚しているとしても、その女性像とリンクしない人たちを傷つけていなければ、アリなのかもしれない。消費者は、それも踏まえてモノが買える。この記事を読んでジョンソン・エンド・ジョンソンの記事を思い出すと、思考はグルグル回転し始めるのです。
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