ファッション
連載 YOUTH

胸が大きな女性の悩みに光を当てたブランド「オーバーイー」 “街角の花屋”のような接客で悩みを共有

 胸が大きな女性のためのファッションブランド「オーバーイー(OVERE)」を運営するエスティームの代表を務めるのは、学生時代から自身の体形にコンプレックスを抱えていたという和田真由子さんだ。ブランドのモノ作りやライブ配信での接客術について、「WWDジャパン」6月29日号の販売員特集で掲載しきれなかった和田さんのインタビューを紹介する。

 和田さんは2016年にクラウドファンディングでブランドを立ち上げ、胸の大きな女性に向けたシャツを製作し、ジャケットやワンピースなどの商品も増やしていった。現在はオンラインでの販売を中心に、銀座に試着専用サロン(3月から休業中、7月に再開予定)を構えるほか、全国各地の商業施設でポップアップストアを開いている。また新型コロナウイルス感染拡大を受けて、インスタグラムのライブ配信を通したデジタル接客も強化中だ。

 ブランドコンセプトは“Hope you have a lovely day!(素敵な一日を!)”。この“ラブリー”はイギリス英語で日常的に使われ、「素敵な」「うれしい」「楽しい」「いいね」など幅広い肯定的な意味を持つ。この言葉のように、経営者でありながら自らも店頭に立つ和田さんもとても“ラブリー”な人で、多くのファンが付いている。

WWD:ブランドを立ち上げた経緯は?

和田真由子・エスティーム代表 以下、和田:学生時代に玄関の鏡に映った自分の姿を見て「胸が目立って、太って見える。これでは外に出られない」と、何を着たらいいのか分からなくなってしまい、外見や内面への自信を失って引きこもりを経験しました。これまで、「なぜ洋服で人生を諦めなければいけないのだろう」「なんで私に似合う服はないのだろう」と感じてきたことを周りの友人に話したら、「実は私も」と共感を得たんです。みんなが同じような悩みを抱えていたことに気がつき、16年にクラウドファンディングを通してブランドを設立しました。

WWD:商品はどのように製作したのか?

和田:最初はとても苦労しました。アパレルの知識のない中で洋服の作り方が分からず、OEM会社の方と試行錯誤で最初のシャツを完成させました。またお客さまと「一緒に“オーバーイーサイズ”を当たり前にしていきたい」という思いがあり、ツイッターで欲しい色や柄について積極的に質問したりして、本当のニーズをデザインに盛り込むようにしています。

第一声は「いらっしゃいませ」
よりも「こんにちは」

WWD:販売で気をつけていることは?

和田:今まで洋服選びに困ってきた人がお客さまに多いので、オンラインには細かい情報を載せるようにしています。サイズはバストを基準に表記していますが、そうすると丈感などが見落とされることも多いので試着モデルの身長なども記載しています。また、洗濯の表示も分かりやすさを徹底しています。サイズに関する悩みを全て排除したいので、通販でのサイズ交換と返品のサービスは当初から導入していました。

WWD:代表の和田さんも店頭に立つことがあるが、対面での接客で心がけていることは?

和田:店頭では“街角の花屋”のような接客を心がけています。第一声は「いらっしゃいませ」より「こんにちは」。まずは洋服のことではなく、人と人とのコミュニケーションを大切にするようにスタッフと共有しています。胸が大きいということは“ぜいたくな悩みだ”と思われてしまうこともあり、なかなか言い出しづらいけれど、会話を通して悩みを共有していきたいんです。お客さまから「スタッフが優しく対応してくれてうれしかった」という声をいただき、リピーターになってくださる方も多くいらっしゃいます。また、店頭で出会ったお客さま同士でお茶をしたり買い物をしたりとコミュニティーができているほか、お客さまがポップアップストアの販売スタッフとして応募してくださることもあります。

WWD:接客をしていてやりがいを感じることはどんなとき?

和田:お客さまが試着室から目を輝かせて出てくる瞬間です。この悩みを抱えている人たちにとって、これまで服を選ぶ基準は“着られるか”“着られないか”で、試着室は試練の場所だったんです。けれど、「オーバーイー」の試着室は洋服を楽しむ体験の場にしたい。購入する服だけを試着するのではなく、全部を着ていただいても大歓迎です。お客さまの選択肢を増やせることにもよろこびを感じています。「オーバーイー」をきっかけに、ファッションからメイクなど、今まで自然と諦めていたことに再チャレンジする人も多くいらっしゃいます。

ライブ配信では些細なコメントも
声に出して読む

WWD:インスタグラムではライブ配信を行なっているが、どのように発信している?

和田:普段SNSはツイッターをメインに運営しており、インスタグラムは全く更新できていない状態でした。コンテンツを作ったり、素敵な写真をアップすることよりも、ライブ配信をやってみようと昨秋から開始しました。配信のタイミングは新作発売の直前で、発売日当日に安心して買っていただけるようにしています。時間は一般的に仕事が終了する時間を考慮して午後8時頃。

配信時にはサイズの参考になるよう、着用者の身長とバストサイズに加えて、骨格診断のスタイルを固定のコメント欄に明記して、口頭でも繰り返しお伝えします。また、些細なコメントでも全て声に出して読むよう心掛け、何度も同じ質問が来てもきちんと回答するようにしています。事前に質問箱を設置し、お客さまの懸念点を把握しておくのもよかったです。

WWD:新型コロナウイルスの影響はどのように受けたか?

和田:素材を韓国で手配して中国で生産していることもあり、2月の商品から納期遅れが発生し、6月に入ってからようやく是正されてきました。また3〜4月に予定していたポップアップストアが中止になり、3月中旬からは銀座の試着専門店も休業しています。

WWD:「オーバーイー」での今後の目標は?

和田:3年目の今年は新しいことを始めるのではなく、コアな部分にもう一度立ち返りたいと思っています。これまでポップアップストアを立て続けに開いてきて、キャパオーバーになることもありました。ブランドとして提供したい体験をよりよく届けられるように、PDCAを回して一つ一つ見直しているところです。スタッフも“Lovely day(素敵な一日)”を過ごして働けるように、ブランドをブラッシュアップしていきたいです。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

疾走するアシックス 5年間で売上高1.8倍の理由

「WWDJAPAN」11月4日号は、アシックスを特集します。2024年度の売上高はコロナ前の19年度と比べて約1.8倍の見通し。時価総額も2兆円を突破して、まさに疾走という言葉がぴったりの好業績です。売上高の8割以上を海外で稼ぐグローバル企業の同社は、主力であるランニングシューズに加えて、近年はファッションスニーカーの「オニツカタイガー」、“ゲルカヤノ14”が爆発的ヒットを記録したスポーツスタイル…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。