新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、夏の物理的なファッション・ウイークは中止になり、秋もどのような形で開催可能かは不透明な状態だ。しかし、業界のキーパーソンたちは現状に適応しなければいけないと認識しつつも、ファッション・ウイークやランウエイショーはデザイナーにとって極めて重要な瞬間であり、今後も必要だと訴える。そこには締め切りや競争があり、それがブランド全体に波及して活性を促すクリエイティブな表現の鍵となるのだ。特にパリやミラノで発表する注目度の高いブランドにとって、その意義は大きい。(この記事はWWDジャパン2020年6月29日号からの抜粋です)
「生身の人間が衣服を着ている姿をほかの人々が近くで見ること以上に、自分のクリエイションをうまく表現できる方法はないと信じている」と語るのは、コム デ ギャルソン(COMME DES GARCON)の社長でもある川久保玲「コム デ ギャルソン」デザイナーだ。パリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)のハイライトの一つになっている同ブランドのショーは、常に大胆で示唆に富むと共に観客の心を打つもの。ただ、「時には自分が伝えたいことを分かりやすく説明するために、空間や照明、音楽、ヘアといったほかの要素が欠かせないこともある」という。
「セリーヌ(CELINE)」「ジバンシィ(GIVENCHY)」「ロエベ(LOEWE)」「ケンゾー(KENZO)」などを監督するシドニー・トレダノ(Sidney Toledano)LVMHファッショングループ会長兼最高経営責任者(CEO)も、「物理的なショーはオペラやコンサートのようなもの。テレビでも確かにオペラは見られるが、生で見るのと同じではない」と話す。かつてジョン・ガリアーノ(John Galliano)と共に「ディオール(DIOR)」をラグジュアリーのキーブランドへと押し上げたことでも知られるトレダノ会長兼CEOは、1990年代後半から2000年代前半のガリアーノによるスペクタクルなショーがメゾンの名声を高めるとともに活気をもたらし、グローバルプレーヤーとしての地位を確かなものにしたと説明。ガリアーノ同様、「カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)もショーを通して『シャネル』の成功に貢献した」とし、「誰もがショーやコンサート、インタビューのプレッシャーを嫌うが、それがエネルギーをもたらす」と述べる。そして、衛生上の理由から観客数を絞ることになったとしても、クリエイティブなファッションとサヴォアフェールの確固たる伝統を持つパリとミラノでは物理的なショーがすぐに再開されることを期待し、「グループ内のデザイナーの大半は秋のショーに向けて取り組んでいる」と明かす。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。