新型コロナウイルスの流行により、誰もが生活の変化を余儀なくされたこの3カ月。当然、美容を取り巻く環境にも大きな変化があった。働き方やライフスタイルの変化、外出時のマスク着用、百貨店の営業自粛など、イレギュラーな状態を経て、女性たちの「美容に対する意識」はどのように変化したのか? アットコスメのクチコミを分析する、アイスタイルの原田彩子リサーチプランナーに話を聞いた。
コロナ渦中に出現した「納得」&「意外」な検索ワード
まずは長期に渡る外出自粛の期間中の、女性の美容意識について伺ってみた。「この期間、アットコスメ内の検索ワードで新たに出現したのが『マスクにつかない』というキーワードでした。具体的には『マスクにつかない、ファンデーション』『マスクにつかない、リップ』などですね。コロナ流行環境下のニーズを表すワードといえるでしょう」(原田彩子・アイスタイルリサーチ担当)。
【コロナ禍中アットコスメ内で増加した検索ワード】
・「マスクにつかない~」
・「ダイエット」
・「ナイトブラ」
・「脱毛、脱毛器」
・「洗顔、朝洗顔」
・「美白・シミ」
・「ニキビ」
・「毛穴」
この時期増加した少々意外な検索ワードが『脱毛器』だ。「クリニックやサロンが休業していたことに加え、おこもり生活でじっくりお手入れをする時間が生じたことも関係しています」と、原田リサーチ担当。同じ流れでPV上位にランクインしたのが「ヘアカラーアイテム」である。美容院に通えない人が増加し、4月のアットコスメの月間PVの1位はなんと花王「リーゼ(LIESE)」の「泡カラー」だった。泡タイプで根元から簡単に染まりやすい点が支持されたという。「ヘアカラーが1位になることは非常に珍しく、外出自粛期間中の特殊事情を反映しています」。
はからずも「毛」に関する事柄が、上位を占めたことは興味深い(毛髪や体毛に関しては通常プロの手を借りる方が多く、それがかなわないと悩みも切実だったということだろうか)。これらの検索ワードは、外出自粛に伴うニーズを反映した、一時的な傾向ともいえる。ではその裏側で、女性たちはそもそも美容に対して「何を思って」いたのか。
クチコミ投稿数はメイクもスキンケアも、あらゆるカテゴリーで増加
女性たちの美容意識を知るもう1つの手がかりが「クチコミ」の投稿件数だ。「2020年4月の購入者のクチコミ投稿数は、前年比42%増、5月は前年比58%増の伸長率でした。コロナ禍においても、女性たちの美容への関心は衰えず、むしろ時間があるからこそ『過去に試して良かった製品を投稿する』方が増えた印象です」(原田リサーチ担当)。
この時期、店頭やECにおいては、リップなどメイクアップ製品の販売数が減り、変わりにスキンケアや入浴関連のアイテムが売り上げを伸ばしたというニュースがあった。一方でクチコミの内訳を見てみると、「特定カテゴリーへの偏りはなく、スキンケア、メイクアップともに、等しく増加しています」と、原田リサーチ担当。「マスクでメイクできないという事情がありつつも、メイクへの興味が薄れたわけではありません。別のアンケート調査で『新型コロナウイルスの流行により、メイクアップへの関心に変化があるか』をたずねたところ、変わらないが42%。増えた・とても増えたという回答を合わせると、32%にのぼりました」。
クチコミの投稿数や記事の閲覧数において、コロナ禍以前より下がったカテゴリーは特になく、全体を俯瞰で見ると「相対的にスキンケアの注目度が高まった」というのが実情のようだ。クチコミ投稿数の増加の理由としては「イレギュラーな状況下の不安感も関係しているのでは」と、原田リサーチ担当は分析する。同僚や友人と気軽に会えない中で「誰かとつながりたい」という思い。そして店頭で直接製品に触れることができず「本当にこの商品が良いのか知りたい」という欲求の現れである。 「そもそもアットコスメユーザーは美容に関心がある方たちではありますが、マスク着用や外出できないストレスの中で、『だからこそ、何か新しいものが欲しい』『効果のあるもので、ケアしたい』という意識が高まったように感じました」
激変したベストコスメ 「根本ケア」への熱量が高まる
コロナ禍以前の16年頃から、アットコスメのクチコミの中において「スキンケア」というワードの出現率が増加していたという。「20年度は実に5年前の1.2倍に増加しています。これは『根本的に美しい肌を育みたい』という意識の現れであり、コロナ禍は『根本ケア』へのニーズを一気に押し上げました」(原田リサーチ担当)。
その象徴ともいえるのが、6月11日に発表された「@cosme ベストコスメアワード2020 上半期新作ベストコスメ」の結果だ。集計期間は2019年11月~2020年4月まで。コロナ禍とかぶった時期は少ないが、明らかに例年と違う傾向が現れた。「総合部門の1~4位までをスキンケア製品が占めました。これだけ上位にスキンケアが並ぶのは過去にない結果です。根本ケアへのニーズが高まる中で、コロナ禍により『物理的にスキンケアの時間が増えたこと』。さらにさまざまなストレスや環境の変化を経験し『健康であること』『免疫を上げること』など、根本的に自身をケアしたいという意識を押し上げたのではないかと考えます」(原田リサーチ担当)
【@cosmeベストコスメアワード2020 上半期新作ベストコスメ 総合】
1位 ランコム「クラリフィック デュアル エッセンス ローション」
2位 アテニア「スキンクリア クレンズ オイル アロマタイプ」
3位 資生堂「エリクシール シュペリエル つや玉ミスト」
4位 花王「SOFINA iP ベースケア セラム<土台美容液>」
5位 パルファン・クリスチャン・ディオール「ディオール アディクト リップ グロウ オイル」
原田リサーチ担当は、コロナ禍による女性のライフスタイルの変化にも着目する。「独身の働く世代は、外出自粛やリモートワークなどにより、自宅で自身をケアする時間が増加傾向にありました。一方、専業主婦や子育て世代からは、自分の時間が減少したという声が目立ちます。ベストコスメで支持されたアイテムは『どちらの女性にも刺さる要素』がありました」(原田リサーチ担当)。
例えば、総合部門の1位に輝いた「ランコム(LANCOME)」の「クラリフィック デュアル エッセンス ローション」が代表例だ。酵素に注目し、ブナの芽エキスを配合した水層と、グレープシードオイルの油層から成る高機能化粧水。手入れに時間をかけられる人には「振って混ぜる感触の変化」「実感のあるテクスチャー」が、逆に時間のない人には「美容液のような機能を備え、化粧水だけでも美しい肌が手に入る」という点が支持された。どのようなライフスタイルの女性にも「根本からキレイになれる」期待感を抱ける製品といえる。
ウィズコロナ時代、女性たちが求める化粧品とは?
ランコムのローションのように、今後ウィズコロナの時代において、支持される化粧品とはどのようなものだろう?
「まず『マスクにつかない』というキーワードは、今後も続くと思います」と、原田リサーチ担当は予想する。経済活動が再開し外出の機会が増えること。そして今後は暑さが本格化する季節でもある。「化粧崩れへの対策は、春先より切実になるでしょう。また今後複数年に渡って、マスク着用の習慣が続く可能性を考えると、ラスティング系のアイテムは注目されるように思います」(原田リサーチ担当)。もう1つ、最近アットコスメの中で注目度が高まっているのが「肌を守る」アイテムだ。スキンケアだけでなく、ベースメイク分野も含め、幅広いカテゴリーで注目されるキーワードであるという。「スキンケアの代表例は、資生堂薬品の『イハダ(IHADA)アレルスクリーン EX』です。もともと花粉やPM2.5などの大気汚染物質、そしてウィルスの肌への付着を防ぐアイテムですが、コロナ禍を経てまさにこれらの『肌を守る』機能が注目されました」と、原田リサーチ担当。同じ理由で、今後も「敏感肌用コスメ」のニーズが高まるのではないかと予想する。
ベースメイク分野においても、同様の動きが見てとれる。代表例は、上半期のベスト化粧下地部門で1位に輝いた「ラ ロッシュ ポゼ(LA ROCHE-POSAY)」の「UVイデア XL プロテクショントーンアップ ローズ」だ。敏感肌用のブランドであること、紫外線や大気汚染から肌を守ること。スキンケア作用を持ちながら同時に肌をトーンアップし、マスクにもつきにくいという多機能な点が支持された。
ベストパウダー部門の1位に輝いた「イプサ(IPSA)」の「スキンケアパウダー」は、本来スキンケアカテゴリーに属する製品である。肌荒れ防止、保湿、美白作用が期待できる医薬部外品だ。「肌そのものを根本からケアする効果、そしてこのアイテムも薄化粧効果が期待できるため、おこもり期間の自宅メイクをきっかけに注目されました」(原田リサーチ担当)。
確かに、前述の製品たちには共通項が存在する。「マスクにつかない」「肌を根本からケアする」「肌を守る」「1品で多機能」など、これらのキーワードは、今後の化粧品トレンドを占う上で重要な位置を占めるように思う。なぜなら(「マスクにつかない」を除けば)いずれも数年前から徐々に注目され、コロナ禍をきっかけに重要度を増したキーワードであるからだ。
今回の取材を通じて最も印象的だったのは、コロナ禍を経験しても女性たちの美容への関心は衰えず、むしろこういう時だからこそ「美容の力を求める」ことだった。しばらく環境の変化やストレスが続きそうな今、美容が色々な生活の場面で、女性を支える存在であってほしいと願っている。
宇野ナミコ:美容ライター。1972年静岡生まれ。日本大学芸術学部卒業後、女性誌の美容班アシスタントを経て独立。雑誌、広告、ウェブなどで美容の記事を執筆。スキンケアを中心に、メイクアップ、ヘアケア、フレグランス、美容医療まで担当分野は幅広く、美容のトレンドを発信する一方で丹念な取材をもとにしたインタビュー記事も手掛ける