デザイナーのフィリップ・リム(Phillip Lim)にショーのスキップやサステナビリティについてインタビューしてきた本シリーズ。これまでビジネスを中心に聞いてきたが、最終回のVol.3は、フィリップ自身がサステナビリティについて学ぶために読んだ本や、ニューヨークでおすすめのスポットについて教えてもらった。
WWD:フィリップさんがサステナビリティに“目覚めた”きっかけはあったのか?
リム:特にきっかけとなる出来事はなく、昔からずっと意識していたことだったかな。5年前のブランド設立10周年のショーのときには、“STOP AND SMELL THE FLOWERS(立ち止まって花を香って)”というメッセージを打ち出し、ランウエイには600トンのコンポスト(堆肥)を使った。ショー後にはその堆肥をニューヨーク中の公園や花に返し、サステナブルなセットデザインになっていた。当時はまだサステナビリティに本腰を入れるブランドも少なく、興味を持つ人も今ほどいなかったけど、私にとって自然を愛すること、そして自然を敬うことは当たり前だったね。小さい頃から自然が大好きで、実はリムという名前も森を意味するんだ。ちなみに英語でLIMは“Less is more”の略称にもなるんだよ!
WWD:個人的にどのようにサステナブルな取り組みをしているのか?
リム:意識して「サステナブルな取り組みをしなきゃ!」と思わず、自分が好きなことを、どのようにサステナブルにできるかを考えればいいと思う。私自身は植物を育てたり、読書をしたり、自然の中で時間を過ごしたりするのが好き。料理も大好きだね。料理は心にも良いと思っているよ。私はとてもプライベートな人なので、友人や家族と過ごす時間も大切にしている。テクノロジーは人々をつなげた一方で、直接会わなくてもよくなったから、距離を生み出したとも思う。だからこそ愛する人やコミュニティーを大切にすることは、心のサステナビリティのためにもなるね。
WWD:おすすめの本は?
リム:サステナビリティやこれからの社会について学びたいならデイナ・トーマス(Dana Thomas)の「ファッショノポリス:ザ プライス オブ ファスト ファッション アンド ザ フューチャー オブ クローズ(Fashionopolis: The Price of Fashion Fashion and the Future of Clothes)」やアンドリュー・ヤング(Andrew Young)の「ザ ウォー オン ノーマル ピープル(The War on Normal People)」。誰にもお勧めできるのはスコット・ベルスキー(Scott Belsky)の「ザ メッシー ミドル(The Messy Middle)」やユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)の「21世紀のための21つの教訓(21 Lessons For The 21st Century)」、オーシャン・ヴオン(Ocean Vuong)の「オン アース ウィア ブリーフリー ゴージャス(On Earth We Are Briefly Gorgeous)」。直接サステナビリティについての内容でなくとも、精神やビジネス、考え方、哲学についての見方を変えてくれた素晴らしい本だよ。
WWD:フィリップさんは日本にも何度も来ているが、アメリカに住むご自身からして、日本とサステナビリティについてどう思うか?
リム:日本の素晴らしいことの一つは、あらゆる物・事に対して持つ感謝の気持ち。それは他国にはない素晴らしいフィロソフィーだと思う。例えば過度な包装などはよく問題視されているけれど、美しく包んだ贈り物の背景にある感謝や尊敬の意は大切にすべきだと思う。それはモノを大切に使うというサステナブルなマインドセットと通じるし。一方で現代に必要な、伝統的な考えやあり方をドラスティックに変えることは難しいかもね。協調性を重視する文化でもあると思うけれど、協調性は必ずしも進歩・前進を促すわけではないよね。それはアメリカでも同じ。
WWD:サステナビリティに関連する、ニューヨークでおすすめのスポットは?
リム:図書館!図書館に行って本をたくさん読んで。美しいボタニカルガーデンもあるよ。自転車に乗ってウェストサイドを探検するのもいいし、家族経営の小さなレストランで“母親の味”を堪能するのもオススメ。本当に欲しいもの・必要とするものがない限りは無駄なショッピングをお勧めできないから、ショッピング街や観光スポットだけでなくこういう地元民が楽しめるところに行くのがいいね。それはニューヨークに限らずだけどね!
WWD:最後にメッセージがあればお願いします。
リム:小さなビジネスなら、小さなステップから始めればいい。そして会社やビジネスにあった方法でサステナビリティを探ればいいと思う。無理すると持続可能ではなくなり、本末転倒となるでしょう?そして会社やビジネスを作るのは人なのだから、社員を大切にすることね。みんなが疲弊しているなら、うまくビジネスを回しながら休息できる環境を作るなど、何かしらできることはあるはず。外ばっかりに目を向けるのではなく、まずは社内の小さなチェンジからスタートすればいいと思う。