「エルメス(HERMES)」は、2021年春夏メンズ・コレクションを日本時間の7月5日に公式サイトで発表した。7月9〜13日に予定されている21年春夏パリ・メンズのオンライン開催に先駆けての発表で、新シーズンの開幕を飾る本格的なデジタルプレゼンテーションとなった。
新型コロナウイルスの影響でロックダウン(都市封鎖)が行われ、アトリエや生産拠点が休業していたことからルックはいつもより少なかったものの、舞台演出家のシリル・テスト(Cyril Teste)とのコラボレーションが奏功して、音楽や演出に工夫が凝らされたストーリー性のある仕上がりとなっている。
舞台はパリ北部にある同ブランドのアトリエで、映像は透明なガラスのエレベーターに乗ったモデルが階下に降りていくところから始まる。視聴者は、モデルと共にショーの舞台裏にいざなわれるという趣向だ。ヴェロニク・ニシャニアン(Veronique Nichanian)=アーティスティック・ディレクターが自らモデルの襟元を直し、「この袖を少しまくってみて──そう、とてもいい感じ」と指示を出したり、アシスタントや音楽担当のスタッフがそれぞれの仕事をしたりしている中、カメラが自在に動き回って「エルメス」の世界観を伝えていく。また服の生地やボタンなどに加えて、サンダルやウオッチ、バッグなども時にアップで映し出され、ディテールが分かるようになっている。
アイテムは軽やかなジャケットやコットンシャツ、フーディー、サマーニット、緩やかなフィットのパンツなど。色味は淡いブルーやグレー、生成りを中心としており、とても涼しげでエレガントな印象だが、時折交じる鮮やかなイエローが若々しさも感じさせる。
今回「エルメス」はデジタルと現実の“懸け橋”として、グラノーラやフルーツタルト、ルバーブのコンポートなどのデザートを詰めたバッグを白シャツに身を包んだ青年たちに持たせ、自宅でライブ配信を視聴しているエディターや業界関係者のもとに届けたという。
ファッション業界におけるポストコロナ、もしくはウィズコロナの“新しい世界”ではデジタルと物理的なショーの融合が重要になると多くの関係者が口をそろえるが、「エルメス」によるこのデジタルプレゼンテーションは、控えめで気取りがない雰囲気ながらも、視聴者が明るい気持ちになれる楽しいものだった。