コロナ禍でECをはじめとするデジタル化の波が押し寄せている。大手から中小まで、さまざまな企業・ブランドがデジタル施策に注力している中で、もともとインターネットを主戦場としてきたブランドたちはいま、どのような状況にあり、何を考えているのか。インスタグラムを中心に人気を博すアパレルD2Cブランド「フーフー(FOUFOU)」を手掛けるマール・コウサカ氏に話を聞いた。
WWD:新型コロナウイルスの影響を受けて、始めた施策はあるか?
マール・コウサカ(以下、コウサカ):「フーフー」としては、店舗の休業などで仕事を休んでいる販売員さんたちに新作を送り、生地やサイズ感のレビューをしてもらう“リモートレビュアー”を始めました。レビュアーの方にリモートで写真を撮影してもらい、身長別のコンテンツを作りたいと考えたからです。あとは試着会などのリアルイベントを当分行わないと決めたことで時間ができたので、インスタグラム上でのライブ配信やウェブ展示会といったウェブコンテンツを増やしています。「コロナの中でも良いことがあったね」といった出来事が一つでも作れたらな、とは思っています。
WWD:それらの施策の反響は?
コウサカ:“リモートレビュアー”に関して言うと、最終的には約10名の方にお願いしましたが、実際には550件くらいの応募があり、びっくりしました。また、ライブ配信も視聴者数が明らかに増えています。先日は、初めて同時接続数が1000を超えました。配信中の様子を見ても、あまりコロナの話題にならず、世の中の鬱々とした雰囲気は感じない。まるで違う世界の人と話しているかのようで、みんなが楽しそうですね。
WWD:楽しそうな雰囲気を出すために、「フーフー」としては何か取り組んでいることがあるのか?
コウサカ:お客さんとの距離感は大切にしています。「フーフー」はお客さんにとって、友達でもなく、家族でもなく、はたまた面倒くさい上司でもない。インターネットのお店を介して、人間関係の中でも一歩離れたところにいるんです。その“心地よい距離感”が、コロナで社会も生活も変わってしまった中での「楽しい場所」になっているのかもしれないです。少なくとも発信する側の僕たちはそう思っています。
WWD:ライブ配信の視聴者数が増えているとのことだが、売り上げも増えている?
コウサカ:売り上げにも勢いが出ています。あくまで印象ですが、お客さんの数の増加以上に伸びているような気がしています。もちろん、お客さんの中には「今は服を買うのを控えよう」と言った人もいるとは思いますが。
WWD:コロナ禍の中で始めた施策は、今後も続けていくつもりか?
コウサカ:そうですね。“リモートレビュアー”をはじめ、引き続き行っていくつもりです。ウェブ展示会に関しても、先行予約の数を見て在庫を調整できるし、最近はお客さんが増えたことで発売直後に完売といったことが多かったので、それが落ち着く仕組みなるかなと考えています。
WWD:「フーフー」としては、コロナ禍の中でも、ポジティブな影響が多かったのか?
コウサカ:一見するとそうかもしれませんが、実は個人的にとても焦っていることがあって。それは、レガシーなメーカーやコレクションブランドなどのオンライン化が急速に早まったこと。要は、僕らがいる場所に、大御所的な人たちが入り込んできた。ユーチューブに、芸能人の方が参入してきた感覚に近いかもしれません。ライブ配信などに関しても、「フーフー」は早い段階から始めたので先行者利益を得られているかもしれませんが、既に渋滞が起きている。今までずっとインターネットの中で勝負してきましたが「いつまでこの地にいられるのか?」を考え、準備はしています。
WWD:「準備」とは、具体的にどのようなことか?
コウサカ:もともと、いずれ来るであろうオンライン化の波に備えて、オフラインを重視していこうとは考えていました。その1つが、試着会の同時開催です。コロナでなくなってしまいましたが、もともと5月から3ヶ月に一回程度のペースで、東京と大阪で試着会を同時開催するつもりでした。既にスタッフさんのコミュニティーがあり、1年くらい一緒に試着会をやってきたリーダー的存在の人もいるので、そういった人たちと仕組みを作り、同時開催という“リアルだけどインターネットっぽいこと”ができたらいいなと考えていました。今はコロナで一旦ストップしていますが、イベント始まりだしたら、いつでもスタートできるように準備はしています。いずれ東京、大阪だけでなく現在試着会を行なっている他の街も同時開催できるようにし、もっと短いスパンでそれぞれの街で試着会が行えるようにしたいです。
WWD:コロナ禍の中で、ファッションは今後、どのように変わって行くと思うか?
コウサカ:仮想現実上で人と会うことが、今後は増えて行くと思います。ゲームの「あつまれ どうぶつの森」にいろいろなブランドが参加していたのが象徴的ですが、バーチャル上で着るものもファッションの1つになるかもしれない。バーチャル用の服のデータのサブスクとかが出て来るかもしれません。一方で、そうなると外に出ることが非日常的になり、外で着るファッションの価値がさらに高まっていくでのはないか、とも思います。実際に自粛期間中は、スーパーに行くだけでも楽しい気持ちでいたい、といった人も多かった。僕らとしてはスタンスは変わらず、お客さんが着た時に高揚感が感じられる服を作っていきたいですし、作っていけるなとも思っています。