こんにちは。「WWDジャパン」編集長の向です。6日から始まったパリコレ史上初となるデジタルでのコレクション、2020-21年秋冬オートクチュール・コレクションを取材しています。オンタイム5分前には取材チーム5人がチームスでつながりながら編集部や自宅のPC前でスタンバイ。時差ボケはないけど終了が真夜中だから寝不足気味。後から録画で見てもよいのですが、それだと「なんとなく気分が盛り上がらない」からオンタイムで見ています。
7月7日(火)
12:00(日本時間19時)
え!?あっという間に「シャネル」が終了
2日目の最初のショーは「シャネル(CHANEL)」です。気合を入れて急いで帰宅。オンタイム前後のチームでの会話はこんな感じでした。
私「あれ、始まらない」、記者A「『シャネル』のオフィシャルインスタが更新されていますよ」、記者B「それティザーじゃない?」、記者C「本番みたいです」、記者D「え、私電波が悪くて動画が動かない!」記者B「サンディカのホームページから見た方がよさそう」、記者C「シャネルのオフィシャルサイトからがよさそう」、私「あ、終わっちゃった!!」。
その間、賞味1分30秒。え~ん。短すぎませんか~、ライブ感味わえません(泣)。デジタルコレクション取材はデジタル環境の良し悪しで決まると言っても過言ではありません。バッキバキのポージングがカッコいい撮影を担当したのはラグジュアリーのファッションシューティングと言えばこの人、スウェーデン出身の写真家ミカエル・ヤンソン(Mikael Jansson)。シューティングのカット数で考えれば十分な枚数ではあります。が、正直物足りないです。もっと堪能したかった。
気を取り直して中身を見ると、今季はココ・シャネル(Coco Chanel)というよりも、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の「シャネル」へのオマージュとのこと。1月に発表した2020年春夏オートクチュールはココ・シャネルが幼少時代を過ごした修道院をインスピレーションに無垢な少女のイメージでしたが、今回はグイっと成長してパンクな女性像。印象はだいぶ変わりました。ロココ調を好んだカールのスタイルも随所に。
私が印象に残ったのは服以上にジュエリーの数々。毎年この時期のパリではオートクチュールと同時にハイジュエリーも発表してきましたが、今回はその2つを同時に発表した模様。数千万、数億円の価格がつくハイジュエリーはさすがに存在感が違います。
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13:30(20:30)
これまでのショーをデジタルで
再現する発想は捨てるべし
今回、デジタルコレクションをたくさん見て思うのは「これまでのショーをデジタル上で再現しようという発想は捨てた方がいい」ということ。ピンクの部屋でモデルのウォーキングを見せた「アレクシ・マビーユ(ALEXIS MABILLE)」は残念ながら成功例とは言えません。確かにリアルで見たショーに近しいモデルであり、ヘアメイクであり、カメラワークですが、それがリアルの魅力を超えることはあるはずもなく、“寂しい”印象が残ります。タッグを組むクリエイターも従来の延長線上で選ぶのではなく、デジタルならではの表現ができるチームがあるのではないでしょうか?
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15:00(22:00)
つながるって楽しい
「ユイマ ナカザト」
「ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)」は面白い試みでした。「フェイス トゥ フェイス」と題したプロジェクトは、ロックダウンで移動できない制約があったからこそ生まれたアイデアです。世界中から25人が参加し、白いシャツを東京のアトリエに郵送。それを見ながら中里さん自身が参加者とオンライン上で対話しインスピレーションを得て、デザインを加えて送り返したそうです。「一番大切な質問は、このシャツにはどんな思い出がありますか?でした。パーソナルな記憶がそこに宿っていると、元の価格は関係なく一着しかない価値ある服になるから」と中里さん。配信と同時に行ったインスタライブで語っていました。
このインスタライブがよかったのです。映像を見ながら浮かんだ質問を投げかけたら採用されたりして、ショーに参加している感アリ。リアルなショーでは見終わった後は次のショー会場へと急ぐため、デザイナー自身と話す時間が限られています。こうやってデザイナーの話をしっかり聞けるのは取材者としては助かるしブランドのファンもうれしいはず。
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15:30
ザ・ファッションデザイナーの姿
「ジュリアン フルニエ(JULIEN FOURNIE)」の映像は、テレビドラマが描く典型的なファッションデザイナーそのもの。完璧な演出、完璧なライティング、完璧な構図がお見事です。しかも、ジュリアン自身による「オートクチュールとは、自分の服作りとは」の語りが自信に満ちていて最後まで聞いてしまいます。自分の仕事に誇りを持ち、自分の仕事が誰かを幸せにしていることを心から信じている人の言葉は説得力があります。
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17:00(0:00)
パフォーマンスアートが
ファッションとますます近づく
パフォーマンスアートは、リアルのショーでも度々採用されてきましたが、デジタルコレクションになり一層増えています。会場演出がない分、身体表現を通じてデザイナーのメッセージを伝えようという試みです。イタリアでロックダウンを経験した「アエリス(AELIS)」のデザイナーは「ビューティとアートからのインスピレーション、そしてコレクションを通じたポジティブなメッセージを伝えることが大切だった」と語ります。静かな効果音の中、布を捧げ持つように走る裸の男性。それをまとい揺れる女性。映像の構成が上手で飽きさせません。今後デジタルコレクションが広がる中で、ファッションとパフォーマンスアートとの関係性はより強いものになりそうです。
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17:30(0:30)
インドから届ける
蝶々刺しゅうのマスク
インドを拠点にしている「ラウル ミシュラ(RAHUL MISHRA)」は、ハンドワークのインド刺繍を生かしたドレスをデリのアトリエ周辺と思われる風景とともに発表しました。刺しゅうのモチーフは自由の象徴としての蝶々や鶴。屋外での撮影ではモデルは刺繍のマスクを着用しています。背景に流れるのは、パンデミックの中でなぜこのようなデザインに至ったのかについてを語るデザイナー自身の声でした。インドの職人たちへの尊敬の念や彼らと生み出すオートクチュールの意義、自由の象徴としての蝶々モチーフについてなど説得力があります。デリに行ってみたい、コレクション映像を通じてそんな感情を掻き立てられる時点で成功なのではないでしょうか。
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18:00(1:00)
「ロナルド・ファン・デル・ケンプ(RONALD VAN DER KEMP)」
本日最後のコレクションは、オランダ発の「ロナルド・ファン・デル・ケンプ(RONALD VAN DER KEMP)」。眠い!けど見てよかったです。
ショーを通じて社会的なメッセージを発信しました。ルックと重なって見えるのは、おそらく公害や大量のゴミ、洪水や火災といった自然災害といった全世界共通の問題。人物と背景をオーバーラップさせる映像テクニックが秀逸です。映像でのコレクション発表は概ね8分。最後まで見てもらうためには特に前半にしっかりと情報を盛り込みメッセージを伝えることが重要なんだね、と気付かされます。後、画面の割付って超重要。1枚の絵の中に数カット取り込んでくれると見ている側は「情報量豊か」と思います。
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