「ユニクロ(UNIQLO)」2020-21年秋冬展示会に行ってきました。同ブランドのコンセプトといえば、生活に寄り添う究極の普段着といった意味の“LifeWear”ですが、コロナショックによる景況感の冷え込みや近年のサステナブル意識の広がりで、「適切に作られた適切な質・価格の商品をなるべく長く着る」といった考え方はいっそう拡大し、まさに時代は“LifeWear”の方向に流れていると感じます。そんな「ユニクロ」秋冬展示会で、個人的に重要なキーワードだと感じたのが「アップデート」でした。というわけで、今回は「アップデート」を軸に秋冬物を紹介します。
具体的な商品紹介に入る前に、なぜ「アップデート」という言葉に注目したかを説明させてください。ファッション業界、特にウィメンズファッション分野ではこれまで、「最新トレンド」や「何がNEWか」といったことが重視されてきました。半年ごとに全く新しい商品を作るとされてきた業界ゆえですが、そこに対してウェブサービスなどに使われてきた「アップデート」という言葉は、全部をガラリとは変えず一部を改善する、といったニュアンスです。もはやトレンドが出尽くしている&消費者も全く新しいものは求めてはいない今の時代には、全部をNEWにするのではなく、「アップデート」の方が理にかなっていると感じるのです。
さて、「ユニクロ」20-21年秋冬物はアウトドア、ワーク&クラフト、アート&デザインの3軸で商品を構成していましたが、そもそもこの3軸構成の見せ方自体が、19-20年秋冬からの継続です。つまり今季で3シーズン目。毎回見せ方が異なるのが常なファッションの展示会としては珍しく感じます。資料には「心地よい生活を送るために不可欠な3要素をアップデートした」とまさに書いてありました。
アウトドアのカテゴリーで打ち出していたのはフリースやダウンアウター、“ヒートテック”などの商品群です。言わずと知れた、シーズンや年を超える「ユニクロ」の看板アイテムで、「ユニクロ」に行けば毎年これらの商品が買えることに絶対的な安心感があります。でも、実は細かい部分が「アップデート」されていて、毎年同じようで同じではないというのがポイント。売れ続ける定番は、「アップデート」しているからこそ売れ続けるのですね。
たとえば防風仕様のフリースブルゾン。昨年の商品は「防風フィルムをフリースに挟んでいることで、シャカシャカ感があった」(広報担当者)といいます。でも、今年の商品はフリースのふんわりタッチしか感じず、シャカシャカ感は皆無。防風フィルムを0.008ミリと薄くすることで、ソフトさを追求したそうです。また、フリースではペットボトルをリサイクルしたリサイクルポリエステルを30%混ぜ込んだブルゾンもメンズで1型出していました。リサイクルしている分コストが余計にかかっていますが、価格は他のフリースブルゾン同様1990円に据え置き。サステナビリティ活動の一環ですが、これも「アップデート」の一例ですね。
“ヒートテック”では、「超極暖」タイプのプルオーバーで長袖(10分袖)を出していました。こちら、去年までは袖が9分丈のタイプしかなかったそう。“ヒートテック”は元々インナーとして開発されているので、セーターやアウターからはみ出さないように袖を短めにしていたわけですが、カスタマーセンターやECサイトのレビューなどに、「部屋着としてこれ1枚で着ているから10分袖があったらいいのに」というお客さまの声が届いたことで開発に至ったそうです。「ユニクロ」ではこのように、「お客さまの声を起点にした服作り」をボイス・オブ・カスタマー(以下、VOC)と呼んで、強化しています。「われわれは情報製造小売業という新しい産業になる」と柳井正ファーストリテイリング会長兼社長は常々おっしゃっていますが、その肝になるのがこのVOCです。
ワーク&クラフトのカテゴリーの重要アイテムは、ロサンゼルスのイノベーションセンターで開発しているジーンズ。タテヨコに伸縮する“ウルトラストレッチジーンズ”は伸縮性がさらにアップしていました。コットン100%のオーセンティックなジーンズのような表情でありながら、はき心地は快適となるよう「劇的にアップデート」(資料より)したそうです。シルエットとしてはこれまでのテーパードに代えて、ズドンと落ちるストレートを打ち出していたのが新鮮です。昨年発売して人気だったスフレヤーンニット(繊維を極細にすることでチクチクした肌触りを抑えたニット)は、ニットコートやフード付きチュニックなど、バリエーションが広がっていました。
アート&デザインのカテゴリーは、よりきれいめでエレガントな雰囲気。このカテゴリーでの注目はメンズ、ウィメンズで出しているアンクル丈の“スマートパンツ”でした。「ユニクロ」の“感動パンツ”や“EZYアンクルパンツ”をはいたことがある人は多いと思いますが、あれ、スラックスのようでいてはき心地がよく、本当によくできた商品ですよね。今回の“スマートパンツ”もそうした「ラクしてきれいにはけるボトムス」(資料より)の流れですが、ツイード調に見える素材なのにしっかりタテヨコにストレッチがきいていたり、センタープリーツがピシッと入っているけどシワにはなりにくかったりと、多くの「アップデート」が盛り込まれていました。あとは島精機の「ホールガーメント」編み機を使った“3Dニット”も今や看板商品の一つですが、こちらはプレミアムラムウールを使って編み立てたタイプなど、素材バリエーションが拡大。そして、現在「ユニクロ」店頭で売れに売れているプリーツボトムの「アップデート」版も充実していました。ウール地風のアコーディオンプリーツのスカートも、もちろん家で洗濯が可能だそうです。
銘品「マスターピース」を紹介するコーナーも
20-21年秋冬展示会には、「マスターピース」とカテゴライズされた空間も設けられていました。こちら、長く愛される定番品、いわば「ユニクロ」の銘品(=マスターピース)を紹介するコーナーだったのですが、「マスターピース」こそ、素材や細部の仕様を何度も「アップデート」して生み出されたアイテム群です。紹介されていたのは、カシミヤニット、メリノウールのセーター、ジーンズ、チェスターフィールドコート、傘(風を受け流す構造の折り畳み傘、“コンパクトアンブレラ”が実は「ユニクロ」の隠れたヒット商品だとご存知でしたか?)、ルームシューズ、消臭機能付きの50色ソックスの7つ。それらが「マスターピース」となる過程でどのように「アップデート」が重ねられてきたのかがしっかり語られていました。20年春夏から、「マスターピース」は公式サイト上にも紹介コーナーが組まれています。
さて、ここまで「アップデート」「アップデート」と連呼してきましたが、実は「ユニクロ」にはその名も「ユニクロ アップデート」という、お客さまの声で商品を進化させていく取り組みがあるんです。まさにこれが前述のVOCの体現ですが、「マスターピース」と同様、「ユニクロ アップデート」も公式サイト上にコーナーが設けられています。たとえば20年春夏物でいえば、メンズのチノショーツやウィメンズのブラキャミソールが紹介されており、カスタマーセンターなどに寄せられたお客さまの要望・不満の声と、それをもとにしてどう商品を改善したかというストーリーが一緒に載っています。ここでもまた「去年と同じに見える商品が売れ続けるのは、背景に細かいアップデートがあってこそ」と気付かされます。
コロナショックの自主休業で今春夏の在庫が滞留しているブランドやショップは多いですが、それを20年秋に、もしくは21年春夏に持ち越すという動きが業界内には広がっています。今後、シーズンを超えて定番的な商品を売っていく動きはファッションビジネスの新スタンダードの一つになる予感がしますが、そうなった時に大切なのが「アップデート」の考え方。「ユニクロ」の「アップデート」をキーにした商品の作り方や展示会の見せ方、消費者への伝え方の手法は、他社にとっても参考になる部分が非常に多いと感じました。