新型コロナウイルス禍において、ECの売り上げが急増している。多くの化粧品店が閉店に追い込まれる中、消費者は必然的にオンラインショッピングを選択せざるを得なくなった。しかしその傾向は店舗が営業再開に尽力する今後も、半永久的に続いていく見込みだ。そしてその流れは特に、美容業界において顕著だという。
総合コンサルティング会社、アクセンチュア(ACCENTURE)で消費財部門のグローバル リーダーを務めるオリヴァー・ライト(Oliver Wright)は、「ここ3〜4カ月の間に私たちが経験している(急激な)変化は、通常であれば3〜4年の期間で起こるもの。コロナ以前はほとんどの国において、人口の20〜30%の人がオンラインショッピングへの抵抗を示していた。しかし、そういう人も考えを変えざるを得なく、また大多数が『コロナ以前の生活には戻らない』としている」と話す。
小売り業の戦略分析を行うWSLストラテジック リテール(WSL STRATEGIC RETAIL)の調査によると、コロナウイルスの感染拡大が始まって以降、アメリカの全人口の44%がECで何らかの商品の注文を行ったという。その中で化粧品のみに焦点を当てると、今回初めてECを利用した人が36%で、そのうち73%がその後も利用を続けると答えている。
ECの成長は各ブランドの実績でも裏付けられており、ロレアル(L’OREAL)のルボミラ・ロシェ(Lubomira Rochet)=エグゼクティブ バイス プレジデント(EVP)兼最高デジタル責任者(CDO)によると、同社の5月下旬のEC売り上げはアメリカで前年比143%、ラテンアメリカで同300%、ヨーロッパ、中東及びアフリカで同400%増加したという。エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES)も3ケタ単位の伸長率を記録。デニス・マクエニリー(Dennis McEniry)=オンライン部門プレジデントは、コロナ禍の危機を脱するための鍵として動画配信を挙げる。同社のECの飛躍も、もともとは中国で大幅な成長を見せていた動画やライブ配信に起因するものだという。エスティ ローダーのブランドはロックダウンの開始後1週間半で、オンラインでのバーチャルタッチアップなどを含む動画コンテンツの配信を始めた。その次のステップとして、顧客に合わせてパーソナライズされた定額制サービスの導入も進める予定だ。
なお、ライブ配信の増加は、中国と同じようにソーシャルコマースの発展も加速させると考えられている。ロシェ=エスティ ローダーEVP兼CDOは、5月中旬にフェイスブックが発表した「フェイスブック ショップス(Facebook Shops)」のようなソーシャルコマースが、今後12~18カ月の間に中国以外の市場でも「かなりの規模」になると予測。「ECが実店舗を破壊したように、ソーシャルコマースはECを破壊するだろう。消費者やインフルエンサーがブランドに代わってオンラインで販売できるようになる」と語る。
さらに、コロナ禍を経験した消費者の消費の仕方は、より意識的なものへと移行している。アクセンチュアによると、約半数がこれまでより健康を意識した、持続可能な選択をしたいと考えているという。ライト=アクセンチュア グローバルリーダーは、「どうやって買うのかではなく、何を買うのかという質問が増えて」おり、今後は消費者が「口コミや環境への影響の裏付けを求めるようになる」と話す。
一方、営業再開に向け動き始めている実店舗は今後、コロナ以前とは異なる役割を担うようになるだろう。WSLストラテジック リテールのウェンディ・リーブマン(Wendy Liebmann)最高責任者は、企業は今後、実店舗とECの区別を付けるべきではないとし、コロナ以降の美容業界のあり方について以下のように語っている。「ブランドや小売り業者として、私たちが(ECか実店舗か)どちらか一方であると考えることが(消費者に)多大な損害を与えてきた。人々が購入に関心を持っているうちに、できる限り早く購入してもらうことが重要。相互接続的な美容業界を活性化させていくために、私たちが持ち得るツールをどのように推し進めていく必要があるのか?企業はそれを問いかけていかなければならない」。