「アンダーアーマー(UNDERARMOUR)」の日本総代理店を務めるドームが、2020年までに売上高1000億円を目指す。米アンダーアーマーは14年の売上高が前年比132%の約3819億円。わずか3年間で2倍以上に売り上げを伸ばし、猛烈な勢いで成長している。ドームも創業以来毎年約125%前後で成長。同社の司令塔である安田秀一・社長に、躍進し続ける原動力は何かを聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):現在の日本市場をどう見ている?
安田秀一ドーム社長(以下、安田):スポーツ市場に関わらず、そもそも日本全体が地盤沈下していることが低迷する原因だと考えている。これは市場にも、人材にも、全ての点にいえる。日本は悪い意味でガラパゴス化し、大衆迎合的なモノが請われ、氾濫している。例えばファッションでいえば、かつて山本耀司や山本寛斎らが世界で戦い、道を切り拓いてきた。現在はそのような人材は限りなく少ない。今は、アメリカを中心に欧米ではさまざまな才能が集結し活性化しているが、日本は先人の功績をただ食いつぶすだけの状態になっている。
WWD:そんな中で、ドームはなぜ国内で急成長を続けているのか?
安田:ラグジュアリー・ブランドは特にそうだが、好不景気関係なくブレない志や軸があるモノは人に求められる。ドームの志は“社会価値の創造”。スポーツを通じて人を豊かにすることがわれわれの信念であり、それがしっかりと伝えられていることが要因だ。私自身、学生時代はアメリカンフットボールにのめりこんでいたが、スポーツは人の心と体を豊かにするものだと身を持って知った。だから、販売戦略も商品開発も、スポーツが持つ、付加価値やワクワク感を伝えることを重要視している。(創業の頃から)全国のスポーツチームには対面営業という“地上戦”を展開してきた。最近では「アンダーアーマー」直営店の出店を推進するなど、われわれの志をしっかりと伝える場所が増えたことが成長につながった。
WWD:来春稼働する福島県いわき市の物流センターの役割は?
安田:重要なのはスポーツの産業化であり、その一つの答えがいわき市の物流拠点「ドームいわきベース」の開設だ。もちろん雇用促進をはじめとした地方活性化の一助になると考えているが、実際には儲けることが重要だ。儲けるためには、ワクワクを創り出さなければならない。スポーツは人の体と心も豊かにするが“、懐”も豊かにする。将来的には、スタジアムや商業施設の建設も視野に入れ、スポーツを中心とした街づくりを創生していきたい。
WWD:具体的なイメージは?
安田:欧米ではスポーツクラブやチームが街を作っていることが多い。例えば、日本人がアメリカのカンザスシティという都市名を知っているのに、当のアメリカ人は知らないということがある。これはカンザスシティ・ロイヤルズという野球チームの知名度のおかげだ。スポーツは非常に地方的なもの。日本に目を向けると高校野球やサッカーくらいしかないうえ、街を基盤としたスポーツビジネスのモデルが体系化されていない。「ドームいわきベース」を皮切りにしっかりと構築したい。
WWD:各社が力を入れる女性市場への取り組みについては?
安田:非常に重要視している。ただ他社とは違うアプローチで取り組みたい。例えばアメリカでは、女性が学校の部活動に一定率以上参加しなければならない法律があり、女性がスポーツに参画する土壌をしっかりと作ろうとする意識がみえる。一方で日本にはない。高校での部活参加率はアメリカと比較すると少数と言われ、大学ではさらに少なくなる。そんな日本の女性に“スポーツしませんか?”という方が無理。ライフスタイルを含め、他社とは根本的に違うアプローチを考えている。
WWD:プロチームとの取り組みは?
安田:1月にプロ野球の読売巨人軍(以下、ジャイアンツ)と5年契約を結んだ。テーマは「世界基準」と「ジャイアンツを世界一の球団にすること」。ジャイアンツは世界で唯一戦えるスポーツコンテンツ。プロスポーツにおける観客動員数は世界2位で、吸引力のあるコンテンツだ。ライセンス商品もこれまではレプリカジャージが主軸だったが、スタジアムだけで着用するのではなく、ファッション的にも着たいと思うアイテムを製品化している。原宿を歩けば、“NY”ロゴが入ったベースボール・キャップや、バックパックを着用している若者が多い。本人達はニューヨーク・ヤンキースのチームキャップだと知らないかもしれないが、ファッションとして確立している。ジャイアンツもその可能性を持ったチームだと考えている。実際、ライセンス商品は既に10億円の売り上げを見込むなど好調だ。
WWD:今後のビジネスは?
安田:今年度の売上高は400億円、5年後の20年には1000億円を目指す。スポーツ市場は米国で約60兆円、日本は約4兆円。市場が縮小するなかで、シェアを争うだけでは成長できない。「ドームいわきベース」を中心とした街づくりなど、マーケットそのものを創ることや、人にしっかりと伝えるという志を社員全員が持ち続ければ到達は可能だ。