7月の社長交代に伴い、カイハラがタイ生産を検討していることを明らかにすると、多くのジーンズ関係者に衝撃が走った。カイハラは海外でも高い評価を得るジャパンデニムの代名詞だが、これまでクラボウや日清紡など大手紡績が海外に拠点を移す中でも、同社は頑なに日本製にこだわってきたためだ。2011年には日清紡が、昨年にはクラボウがデニムの生産体制を再編。大手紡績メーカーは日本国内での自社生産から実質的に撤退した。一方で、合繊大手の子会社が新しいサプライヤーとして台頭するなど、新しい動きも出てきた。
紡績大手の日清紡は11年、繊維事業の構造改革に伴い、国内でのデニム生産を縮小し、大半をインドネシアに移管した。同社の撤退前の生産能力は日本で年産600万メートルで、3番手。昨年4月には長く日本のデニム生地開発を牽引してきた紡績大手のクラボウが香港の自社工場を売却し、香港の有力デニム生地メーカーの合弁会社にデニム生地の生産および販売を移管。同社がコントロールするデニム生地の生産能力は1.5倍の年2500万〜2600万mに増加したものの、実質的に自社生産からは撤退した。
一方、合繊大手の東レ子会社で、自社工場を持たず、糸の設計ノウハウを武器に新しいデニム生地を開発し、国内外の有力工場と提携して生産する東レインターナショナルは絶好調だ。米国の「エージー」「Jブランド」など、プレミアムデニムブランドを軒並み顧客に持ち、年々売り上げは増加しているという。同社の強みは、ポリエステルやレーヨンなどの化学繊維を使った、柔らかさと高いストレッチ性を持つコンフォートデニム。15年春夏向けには、デニムらしい色落ちや風合いはそのままに、中空ポリエステルを使い、従来より2〜3割ほど軽くなった「ミラクルエアー」を開発した。
東レインターナショナルが躍進している理由は、大きなトレンドの変化にある。つい数年前までは重くてゴワゴワしていたデニムが正統派と見られていたが、デニムらしいユーズド感のあるルックスはそのままに、快適性や着やすさが求められているのだ。素材もコットンにレーヨンやポリエステル、スパンデックスなど化学繊維をミックスし、柔らかさとストレッチ性が不可欠になっている。今後は東レインターナショナルのように、他の合繊メーカーにも商機があるかもしれない。