デジタルでのオートクチュール・コレクションが終わり、次はパリのメンズ・コレクションがスタートしました。7月9日から5日間にわたって、70近いブランドが新作をオンラインで発表します。そこで今回は、主にメンズを担当している記者が「頑張ってリアルタイムで見てみました」取材を日替わりで担当します。「アーカイブでも見られるのにオンラインで見る意味あるの?」という周囲の視線を感じながらも、「コレクションはライブ感!」と信じて完走を目指します。初日は海外コレクション取材歴10年以上のベテランである村上要「WWD JAPAN.com」編集長と、取材歴4年目の大塚千践「WWDジャパン」デスクが日常業務と並行しながらリポートします。
7月9日(木)17:00(パリ時間10:00) 「エチュード」
大塚千践「WWDジャパン」デスク(以下、大塚):村上さーん、トップバッターの「エチュード」始まりますよー。パリメンズでいつも朝一番に始まる同ブランドから、いよいよメンズのデジコレ開幕です。ファッションデザインだけではなく、出版やクリエイティブ関連の仕事など多岐にわたって活動しているトリオのブランド。僕はパリの街でここのロゴTシャツを着ている人を結構見かけるんですよ。今回はそんなパリの街でのゲリラ撮影でしたね村上さん……って、まだ来ない!
村上要「WWD JAPAN.com」編集長(以下、村上):あら〜、いきなり。仕事でリアルには視聴できませんでした〜。コレクションスケジュール同様、スキマなくオンラインMTGを入れてしまったワタシ。この「頑張ってリアルタイムで見てみました」企画に参加していいのでしょうか(笑)?クリエイティブ集団って、リアルなランウエイはワクワクの理由になるけれど、デジタル・ファッション・ウイークではどうなんだろう?やたらアートな動画で、視聴後「今のは、いったい何だったんだ!?」みたいにはなってませんか(笑)?
大塚:僕も校了作業と並行しながら見ていて序盤からバタバタです。僕も実は「今のは、いったい何だったんだ!?」が来るんじゃないかと予想していたのですが、ただ街を歩く数人のモデルをワンカット風に追いかける、「エルメス(HERMES)」にもちょっと通じる、シンプルな動画でしたよ。ただ通行人とか風景とか情報が多すぎて、(パリは誰もマスクしていないんだな)とか余計なことまで気になってしまいました。
村上:「エルメス」はシンプルながら、メッセージは強かったよ。「パンツインもできるのね〜」というシャツジャケットの軽やかさ、それを「袖まくりしたら、予想以上にカジュアル」なスタイリングの妙、特別なレンズを使った透明感、そして音楽で、キーアイテムとタイムレスなアイテムの汎用性、メゾンのムードを上手に伝えてた。あ!とか言ってるうちに、ライブ配信「READ MORE」の時間が。「コモン スウェーデン(CMMN SWDN)」も、「エゴンラボ(EGONLAB.)」も、「ウー ヨン ミ(WOOYOUNGMI)」もリアルで見られないよ!今日はファッション週刊紙「WWDジャパン」の校了日だし(しかも、こんなときに限って連載3本持ってるし)、「頑張ってリアルタイムで見てみました」企画自体を早速見直したいかも(泣)。オーツカさん、まとめて全部、解説ヨロシク!!
17:30(10:30) 「コモン スウェーデン」
大塚:いきなり企画倒れの危機じゃないですか(笑)!ここは僕が死守せねば。お任せください――ということでしばらくは1人で「頑張ってリアルタイムで見てみました」を続けます!「コモン スウェーデン」は2年前から急にカルチャー色が濃くなり、柄もたくさん使ってサイケデリック感を強めていましたが、2021年春夏は以前のようなレトロなカラーリングやクラシックなムードが戻ってきました。個人的にはこちらの路線の方が親近感が湧くし、結果、ブランドらしさがより主張できているので好きです。映像もシンプルに無観客ショーの収録で、3分程度という長さ的にも、服だけを見たい人にはちょうどよいのかも。
18:30(11:30) 「エゴンラボ」
大塚:対して、「エゴンラボ」がすごかった。要素が多すぎる服やCGをバリバリ活用した映像から「何か変わったことしてやろう」という力みを感じました。マグマの中を歩き出したときは、パソコンの前でのけぞっちゃいました(笑)。初見がこの映像だと、どういうブランドなのかはちょっと分かりづらかったです。1982年公開のアメリカのドキュメンタリー映画「コヤニスカッツィ/平衡を失った世界(Koyaanisqatsi)」から着想したコレクションだそうです。
19:00(12:00) 「ウー ヨン ミ」
大塚:「ウー ヨン ミ」も趣向を凝らした演出が印象に残りました。服はリラックスムードのテーラードやミリタリー、デニムなど普遍的なものが中心でいつもとあまり変わりなく、シュールな舞台芸術のような映像が印象的でした。映像は4分ですけど複雑にカットが変わるので、相当時間かけているんだろうなあ。
19:30(12:30) 「ブルー マーブル」
大塚:そして「ブルー マーブル(BLUE MARBLE)」が街中を歩くストリートランウエイで「エチュード」とカブっちゃいました(笑)。もちろん撮り方や、服は「ブルー マーブル」の方がストリート寄りのキャッチーさがあって違うのですけど、ロケーションも似てるなあと思ったら、なんと思いっきり一緒でした!これは両ブランドとも「しまった」と思ってるに違いないし、さすがに気の毒。でも撮影中は長距離の移動も気軽にできない状態だったでしょうし、こういうことも起こるんですね。
村上:さすが、デジタルでそれだけ語れるなんて頼もしい後輩です。あ、今日はご依頼いただいたインスタライブが20時からだ!もうちょっと1人でお願いできますぅ(笑)?
20:00(13:00) 「ジェイ ダブリュー アンダーソン」
村上:あ、でも日本時間20:00スタートの「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」は、事前にIGTVで見てるから語れます(笑)。IGTVでジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が開封しているリリースキットが日本のPR会社から事前に届いたけど、プレスリリースのほか、コレクションで使った生地の見本や全部のルックが同封されていたよね。肝心のルック写真は、1枚に1カットだったり、1枚に4カットだったり、折りたたんだ大きな1枚に1カットだったり、大きさや掲載方法が不規則。「それぞれのペースでコレクションを楽しんでほしいから」というコメントが印象的でした。マッキントッシュ風の生地をパッチワークした、ジョナサンいわく「数十年は着られるコートでありケープ」とか、「僕のおばあちゃんから譲り受けたニットの色替えバージョン」など、ますますタイムレスなアイテムが印象的。「こんな時代だから、長く着られる服を」と語って、「時代を見据えてるなぁ」と思わせてくれました。
大塚:村上さんから返事ないなーと思ってインスタグラムを開いたら、インスタライブに思いっきり出演していてたまげました(笑)。僕も「ジェイ ダブリュー アンダーソン」の配信は事前にキットとともに見ていて(しかも律儀に同封されていたマスクを装着して)、デザイナーのファッションに対する丁寧な姿勢に和んだんです。でも、村上さんがインスタライブ出演中に流れた配信では別の映像が流れたんですよ!しかも30秒!どうやら最新コレクションに絡む写真集のティーザー映像だったようです。丁寧さと尖った部分を併せ持つジョナサンらしさをライブで実感しました。
村上:30秒!なんて潔いんでしょう!「1分を超える動画は、悪」と言い切る動画の世界で高評価を受けそう(笑)!
21:00(14:00) 「ルイ ガブリエル ヌイッチ」
村上:その次の「ルイス ガブリエル ヌイッチ(LOUIS GABRIEL NOUCHI)」は、存じ上げないブランドですが、こういう新興ブランドも公式スケジュールで発表できるのは、デジタルならではかもしれないね。ユーチューブで拝見しましたが、チャンネル登録者数は14人(7月9日現在)……。もうちょっと仲間に協力を依頼してせめて3ケタにはできなかったのでしょうか?ロックダウンの最中に、最新コレクションを着たモデルを1人ずつスタジオに呼んでの朗読だったね。正直、意味はわからなかった(笑)。洋服はパリの若手にありがちな、華のない日常着の印象でした。サテンのシャツ、背中に穴が開いてたけれど、アレはデザインですか?って、オーツカさんに聞いてもわかんないよね(笑)。
大塚:デザインだと信じたいです(笑)。デザイナーはラフ・シモンズでも働いた経験があるみたいです。確かに、ラフのクリエイションが好きそうだなあという点もチラホラありました。ブランドにある程度の知名度がないと、シュールな演出はちょっとしんどいですね。4分とはいえ途中で飽きました。14人はちゃんと見てくれたんでしょうかね。
21:30(14:30) 「Y/プロジェクト」
大塚:同じシュールでも次の「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」は、僕は10分間集中して見てしまいました。3分割の画面で終始生着替えするだけなのですが、いつもショーで(コレどうなってんの?)というスタイルが作られていく過程が見られて、一人で感心してました。万人ウケはしないと思いますけれど(笑)
村上:数日前から順次公開しているプレ・コレクションでも、「Y/プロジェクト」は、「洋服の着方」と題してマルチウエイなコレクションの着こなし方を紹介しているよね。秘密のベールを脱ぎたい時なのかな?にしても、2人がかりじゃないと着られないマルチウェイは、挑戦する人は少なそうだけれど(笑)。
22:00(15:00) 「オテイザ」
村上:次の「オテイザ(OTEYZA)」のムービーは2分30秒。構築的なジャケットに、袴みたいなリラックスパンツの連打で、スタイルは印象に残りました。帽子がジャマな印象があるけれど。「LOVE」で終わるムービーはちょっとクサいけれど、案外最後まで楽しめたな。
大塚:確かに、帽子が非現実的で全体が衣装チックに見えちゃいましたね。スペイン発のブランドのようです。映像のストーリーはよくわからなかったですが、短い尺なのにブランドの世界観は何となくつかめました。
22:30(15:30) 「ボラミー ビジュアー」
大塚:次の「ボラミー ビジュアー(BORAMY VIGUIER)」は今日初めての縦画角の動画で、ユーチューブではなくVimeoでの配信でした。ブランドが選べるそうなのですが、何か違うんですかね?動画の最初はスマホゲームのCMかと思いました(笑)。ゲームでアバターの衣装を選ぶように服がどんどん入れ替わっていくのは面白いんですけど、肝心の服がほとんどわからなかったです(笑)。才能ある若手の一人だと思うので、もうちょっと素直に見せてもよかったんじゃないかなーと。
村上:特に個別アイテムの写真がずーっとクルクル回転してるから、目がチカチカしたよ(笑)。リサイクルカーディガンもあるようで(映像ではよくわかんないw)、パッと見今っぽいから、ちゃんと見たかったね。右下にワイプで手話通訳者が映ってたけれど、何を発信してたんだろう?必要な情報は文字になってたようだけれど……。
大塚:手話にする音声もなかったですし、謎が多いですね……。そして夜10時を過ぎてからの目がチカチカ系はちょっとキツイ。デザイナーはルカ・オッセンドライバー(Lucas Ossendrijver)時代の「ランバン(LANVIN)」出身なので、途中から(ルカ様は今お元気なのだろうか)なんて考えちゃいました。
23:00(16:00) 「ウォルター ヴァン ベイレンドンク」
村上:「ウォルター ヴァン ベイレンドンク(WALTER VAN BEIRENDONCK)」は、さすが良きコレクションだったと思います。いろんなところに鏡をはめ込んだビッグボリュームのアウター、周りの人は嫌がるかもしれないけれど、着てみたい(笑)。「オバケが“ウルサくささやく”ミラーマン」っていうテーマなのかな?オバケ感は、スプレーペイントのカラーグラデーションで表現してましたね。それぞれのルックに名前を与えてパーソナリティーを醸し出してるアイデアも好きです。僕のイチオシは、「THE LEOPARD」です(笑)。マスイユウくんに、全身挑戦してほし!!でも、映像は長いね。特にイントロの「文字だけで1分以上」はダメ!動画クリエイターに言わせると、一番やっちゃいけないヤツです。理由は、みんな離脱しちゃうから。
大塚:僕も、イントロが長い動画は今日だけでもいくつかスキップしそうになりました。今回は「頑張って、リアルタイムで見てみました」なので意地でも全部見ましたけど(笑)。コレクションは全部フィギュアでしたよね?最初はどういうテンションで見ればいいのか戸惑いましたが、じわじわとかわいく見えてきて。僕は全身グリーンのモサモサ「THUNDERMAN」が好きでした。部屋に置いておきたいです。
24:00(17:00) 「ベルルッティ」
大塚:さあ、いよいよ初日のトリを飾る「ベルルッティ(BERLUTI)」です。今回はショーではなく、21年春夏で協業した陶芸家のブライアン・ロシュフォール(Brian Rochefort)との対談でしたね。何だかほっこりしました。
村上:めっちゃ良かった!ムービーの落ち着いた雰囲気も好きだし、コレクションも最高。クリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)は、「メゾンに来て2年。最初はブランドのDNAを理解し、自分がやりたいことに挑戦したかったから、コラボレーションをする余地がなかった。でも、今は違う」と話していたけれど、まさにニューチャプター。ブライアンのカラフルな陶磁器を写真に撮ってシルクのシャツにプリントしたり、ニットで柄を再現したり、メゾンならではの染色技術の“パティーヌ”で描いたり――すっごく美しい。デジタルで興味を持ち、「早くリアルで見たい!」とモチベーションをかき立てられました。ブライアンが、「陶器を、伝統工芸ではなくアートのように見せる感覚がスキ」って話してたのも、「ベルルッティ」に通じるよね。クラフツマンシップを次世代に継承しようというクリスの思いと合致してる。とっても良いコラボレーションだなぁと思いました。
大塚:アーティストと協業する事例は最近特にメンズで増えてきましたが、これはとても知的で新鮮でした。メゾンの伝統をちゃんと継承しながら、一歩ずつ前に進んでいる姿勢に感動しました。ブライアンと協業したカラフルなシルクのシャツは早く着てみたいです。あと、ドタバタの最後にクリスの落ち着いたトーンの声を聞いて癒されました(笑)。これもデジタル・ファッション・ウイークならではの展開でしたね。いやーでもリアルで見るのは初日からなかなかキツかった……。明日からは20代の若手も対談に加わるので、彼らにも頑張ってもらいましょう!