ファッション
連載 ランジェリー業界のゲームチェンジャー

ランジェリー業界のゲームチェンジャーvol.3 ラジオやブログでランジェリーの魅力を語りファンを増やすラ グット シュクレの太田まゆみ

 下着業界はファッション業界に比べるとメディア露出が少なく、またサイズの展開が多いため、在庫管理が複雑、生産工程で使用する資材が多い、生産ロットが大きいなどの理由から新規参入が難しいといわれてきた。大手の下着メーカーおよびアパレルメーカーによる市場の寡占によって、なかなか新陳代謝が進まない印象だったが、ここ数年、D2Cブランドが増加している。また、異業種からのデザイナー転身やSNSを通じたコミュニティーの活性化など、下着業界では30代の女性を中心に新たなムーブメントが起こっている。下着業界に新風を吹き込むゲームチェンジャーらにインタビューし、業界の今、そして今後の行方を探る。

 連載の第3回に登場するのは、太田まゆみ・ラ グット シュクレ(LA GOUTTE SUCREE)代表だ。ブログをきっかけにスタートさせたオンラインショップはファッション性を重視したブランドのセレクトに定評があり、商品の背景にあるストーリーと世界観を語り、消費者に夢を与えるランジェリーセレクトショップとしてファンを増やし続けている。オープン以来、インポートランジェリーを中心に展開していたが、昨今は日本のブランドの取り扱いにも力を入れている。

――ランジェリーのオンラインショップを始めようと思ったきっかけは?

太田まゆみラ グット シュクレ代表(以下、太田):フランス発「オーバドゥ(AUBADE)」を初めて着けたときの感動からです。確か2005年にパッドのない一枚レースのハーフカップとタンガ(Tバック)を着けたのですが、天地がひっくり返るような衝撃でした。コンプレックスだった自分の体がものすごく魅力的に見えたし、着け心地はまるで羽根のような軽さ。それからインポートランジェリーに魅了され、コレクターのように買い集めて眺めてはうっとりし、一人でファッションショーをして楽しんでいました(笑)。インポートランジェリーの魅力をオタク的にブログで語り始めたところ、それを読んでランジェリーに目覚めたという声があり、「この感動をもっとシェアしたい」という思いからオンラインショップを始めました。こんなにも美しく、それぞれにストーリーがあるのに、それを表現しているオンラインショップがない。これではランジェリーがかわいそうだと思ったのも理由の一つです。

――ラ グット シュクレのコンセプトは?

太田:おいしいスイーツのように、日常を特別にしてくれるランジェリーを紹介したいという思いを込めています。私も年齢を重ねたので、自分に寄り添い、心地よくきれいでいられるようなランジェリーをそろえています。立ち上げたときは全てインポートでしたが、最近はデザインや着け心地がインポートに引けを取らない日本ブランドが増えてきたので、約40ブランドのうち5ブランドは日本ブランドを取り扱っています。

ブランドの写真だけではストーリーを十分伝えられない

――他のオンラインショップとの違いは?

太田:エモーショナルな部分に訴えることを心掛けています。そのため、全ての商品を自分で撮影して、その商品に込められたストーリーを語るようにしています。「オーバドゥ」をはじめ、多くのインポートブランドはコレクションごとに名前があり、それに作り手の思いが込められています。それを丁寧に伝えることで真の魅力や価値が伝わります。必要に応じて、ワイヤーの形やカップの内側、脇のボーンの有無などを撮影して掲載することもあります。ブランドから提供された写真だけでは十分な魅力が伝わりません。細かいストーリーや情報を必要としない人は見ていただかなくてもOK。自分のペースで見られるのが、オンラインショップのよいところですから。

――顧客とのタッチポイントは?

太田:年に4回、顧客と直接触れ合う2日間のイベントをギャラリーなどで行っています。販売しているのは安い商品ではないので、やはり試着して決めたいという声も多く、2回のイベントは次のシーズンの受注会を兼ねています。ホームページやSNSなどで告知していますが、毎回、顧客や新規のお客さま合わせて約40人が来場されます。会場は、なるべく自然光が入る静かで落ち着ける場所を選び、花や植物をたくさん飾るようにしています。ランジェリーは夢を与えるものですから、それにふさわしい空間をつくりたいと思います。もう一つ心掛けているのは、気軽に試着できる雰囲気。素敵なランジェリーに興味を持つ女性はたくさんいるのですが、「店で試着したら、買わなきゃいけない」と思って店に行くのを尻込みしている人が少なくありません。その先入観を捨てていただいて、気軽に試着を楽しめる場にしたいと思っています。

――SNSでのコミュニケーションは?

太田:インスタライブなどに登場するのは苦手なので、18年10月から音声配信サービスのラジオトークを始めて新作紹介やコーディネート法、下着のお手入れなどについてお話ししています。通常、月2〜4本ペースで、外出自粛期間中は週2〜3本配信していました。私自身ラジオが好きで始めたのですが、視覚的な情報が少ない分、想像できるのが顧客には好評で、感想をメールでもらったり、紹介した商品の売り上げアップにつながったり、予想以上の反応があります。

――今後の夢は?

太田:日本のランジェリーブランドを世界に紹介したいと思っています。最近、個人で立ち上げたランジェリーブランドが増えています。インポートランジェリーをずっと扱ってきた私が見ても魅力的で、デザインも個性があり、作りもていねいで非常に優秀です。日本に優れたファッションブランドがあることは海外でも知られていると思いますが、日本のランジェリーブランドも素晴らしいということを国内外の人々にもっと知ってもらいたいです。方法としては越境ECがあると思いますが、今は、海外でも日本のECで直接買い物する環境が整っています。情報発信に関しては、多くの情報を整理・編集して、良質な提案をすることが大切なので熟考したいと思います。また、ふわっとしたイメージなのですが、ランジェリーを通じて生活が豊かになるようなコミュニティーをつくりたいと思います。ランジェリーと旅、香水、映画、アンティークなど違うジャンルとのコラボイベントを計画してみたいです。最近は女性の生き方や性別に関する感覚が大きく変化しているのを実感します。ランジェリーはその変化を如実に反映しているので面白いと思うし、興味が尽きません。

川原好恵:ビブレで販売促進、広報、店舗開発などを経て現在フリーランスのエディター・ライター。ランジェリー分野では、海外のランジェリー市場について15年以上定期的に取材を行っており、最新情報をファッション誌や専門誌などに寄稿。ビューティ&ヘルス分野ではアロマテラピーなどの自然療法やネイルファッションに関する実用書をライターとして数多く担当。日本メディカルハーブ協会認定メディカルハーブコーディネーター、日本アロマ環境協会認定アロマテラピーアドバイザー。文化服装学院ファッションマーチャンダイジング科出身

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