新型コロナウイルスを機に、ファッション業界の抱えてきた問題が浮き彫りになった。そして今、世界中でセール時期の見直しや納期の適正化などを図ろうとする動きが出てきている。「WWDジャパン」7月13日号では「ファッションカレンダーを大整理」をキーワードに、ブランドや百貨店、セレクトショップ、国内のファッション企業、商業施設のトップの意見を集めた。ここでは、「#rewiringfashion(リワイヤリングファッション)」が提唱する新しいファッションカレンダーをもとに、国内デザイナーズ9ブランドの本音に迫る。(この記事はWWDジャパン2020年7月13日号からの抜粋に加筆しています)
アンケート回答者:「アキラナカ(AKIRANAKA)」「アンリアレイジ(ANREALAGE)」「オーラリー(AURALEE)」「ビューティフルピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」「チノ(CINOH)」「ハイク(HYKE)」「ミュベール(MUVEIL)」「タロウ ホリウチ(TARO HORIUCHI)」「TH」「ザ・リラクス(THE RERACS)」のデザイナー、ブランド事業部責任者、PR担当
悪循環を再考するムーブメント
#rewiringfashionとは?
英ファッションメディア「ビジネス・オブ・ファッション(The Business of Fashion、BoF)」がファシリテーターとなり、世界中のデザイナーやブランドCEO、小売業の役員や経営陣らの話し合いから5月に生まれた提案。ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)らによる「ファッション業界への公開書簡(Open Letter to the Fashion Industry)」の内容をより深めたもので、「ファッションカレンダーの再編成」「ファッションショー発表時期の見直し」「セール期間の縮小」の3軸から新たなファッションカレンダーを発表し、署名活動を行う。世界中の独立系デザイナーズブランドや小売りが賛同し、6月末までに2000件以上の署名が集まっている。
これまでファッション業界が
抱えてきた課題は?
・商品の納期が現実の季節と一致していない
・セールの早期化で正規価格での販売期間が短すぎる
・過剰なセールでブランド価値が毀損している
・ファッション・ウイークがメンズとウィメンズで年計4回開催されることでバイヤーやプレス関係者の出張が多く、時間や経費がかかり、環境負荷も高い
・ショー開催後から納期までの期間でファストファッションブランドなどにデザインを模倣されている
・ファッションショーの映像や画像が消費され、購買に結びつきにくくなっている
変化に向き合う国内デザイナーズ
9ブランドの声
Q1.セールの後ろ倒しに賛同しますか?
A.1着の服の寿命があまりに短い。作る時間も、売る時間も。命を削って作った服が売り場では3カ月もたてば、半分の値段に下げられ、売り場からも記憶からも捨てられていく(デザイナー)
A.正規価格での販売時期が短すぎる。それをカバーするためにプレ・コレクションの比重を増やすなど対応をしてきたが、販売時期の適正化は業界全体で行うべき(ブランドPR)/セールを見越して生産することはおかしい。プロパー販売する期間が長い方が、小売りの利益も上がり、ブランド価値も守ることができ、お客さまも今すぐ着たいものを店頭で見られるので、誰にとってもメリットがあるはず(デザイナー)/ここ数年の急激な気候の変化や、大量消費ではなく品質の良いもの、オンリーワンなデザインのものを欲する意識の高まりからセールは先送りするべき(ブランド事業部責任者)/欧米と日本とではバイヤーの展開時期に対する考え方の違いを感じていたため、展開時期を戻すことは賛成。当社は自店舗でのセールは行っていない(デザイナー)/基本的には賛成だが、これは時期ではなく、海外市場の掛け率に問題があると思う。海外ではセールでもうけが出るように価格が設定され、セールを前倒ししないとプロパー価格が高過ぎることに問題がある。一方、日本の利幅はほぼ2掛けが通常で、欧米のセール価格時の掛け率でプロパー価格が設定されている(クリエイティブ・ディレクター)
Q2.今後コレクションの発表数、商品数を変更する予定は?
A. すぐには難しいが、将来的に商品数を減らす必要があると考えている(デザイナー)
A.年間で春夏と秋冬の計2シーズンを発表しているが、2021年春夏のみ商品展開数を減らす可能性がある(デザイナー)/現在メインとプレ、カプセルコレクションを含めて年間6シーズン以上を発表している。今後は発表回数も、商品展開数も減らすことを検討中(デザイナー)
Q3.業界に課題を感じていることはありますか?
A.早いデリバリーを求められて、生産期間が短くなっている(デザイナー)
A.夏が長くなり、プレ・フォールと秋冬のデリバリースケジュールに違和感を感じている(ブランド事業部責任者)
A.トレンドの消費、デザイナーの消費、服自体の消費。2000年代ごろから続く、早い消費システムから生まれるゆがみが、業界の問題だと思う(デザイナー)/川上から川下まで本当の意味でのサプライチェーンの全体のコスト感や構造を理解してビジネスを行っているブランドが少ない(デザイナー)/これまでこの業界は、過剰に販売しようとしていたと思う。別注企画の依頼件数が多く、工場へ小ロットの生産を依頼することになり負担になっている(デザイナー)/今後、越境ECのオープンを計画中だが、リテールとの掛け率が異なりバランスが取りにくい(クリエイティブ・ディレクター)/海外での物流はコストがかかりすぎて適正価格での販売が難しい(ブランドPR)/東京に限定すると、春夏の発表時期が遅く、展示会から納品までの生産期間が極端に短い(デザイナー)/コロナ禍で、半年後を予測して在庫を積むということが、非常に難しくなってしまった。半年先の店頭在庫のオーダーをもらい、作っていいものかどうか。店からのキャンセルよりも、この状況下で人が服を欲するのかというところに不安がある。現在の展示会システムでは予測が外れた場合に修正が難しい。今こそ、本当に必要とされる服を、本当に必要な人にだけ届ける、という原点に戻る時期だ(デザイナー)