ここ数年でネット発のブランドが増えたこともあり、OMO(Online Merges with Offline、ネットとリアルの融合)といった言葉をよく聞くようになった。とはいえ、実際の現場ではどのようなことを行えばいいのか––リアルで展開するコスメセレクトショップ「アットコスメストア(@COSME STORE)」の遠藤宗コスメネクスト代表に話を聞いた。
WWD:最近、OMOという言葉をよく聞くようになったが、「アットコスメストア」としてはどう捉えている?
遠藤宗コスメネクスト代表(以下、遠藤):OMOは簡単にいうと、「購入体験をよりよくしていこう」という考え方だと思っていて、リアルでもネットでも生活者は知りたい情報を知ることができて、体験ができ、満足できる購入ができるのが理想だ。僕らの場合だと1999年にネットメディアの「アットコスメ(@COSME)」を、2002年に化粧品EC「アットコスメショッピング(@COSME SHOPPING、当時はコスメ・コム)」をスタートさせた。そして07年にコスメのセレクトショップ「アットコスメストア」の1号店を新宿のルミネエストに出店した。その当時から「ネットとリアルの融合」というのは意識していて、ネットで感じられる世界観をリアルでも感じられるように店づくりを進めてきた。ネットの「アットコスメ」では、販売チャネルに関係なフラットにブランドが並び、ランキングなどで「どの化粧品が人気なのか」が分かるようになっていて、「アットコスメストア」でもそれが分かるようなディスプレーや品ぞろえを意識した。
WWD:当時の化粧品業界は販売チャネルごとにブランドも明確に分かれていた。一緒の売り場に並べるのも画期的だった。
遠藤:百貨店、化粧品専門店、バラエティーショップ、ドラッグストアの製品が同じように並んでいて、同じように試せる店はなかった。それがお客さまには受けたんだと思う。結果的にそれが支持されて、現在の新宿ルミネエスト店は年商15億円ほど。70坪でこの売り上げはなかなかない。
WWD:O2O(Online to Offline)とOMOは違う?
遠藤:O2Oはネットからリアルへ送客するという考え方だが、当初からそれは考えていなかった。あくまでネットでもリアルでも同じような購入体験ができるように意識した。
WWD:OMOという概念がなかった時代からそれを実践していた。OMOを実践する上で重要なことは?
遠藤:まずはネットとリアルでの顧客IDの統合で、「アットコスメ」「アットコスメショッピング」「アットコスメストア」は全て同一のIDで管理しているので購買履歴などを追えるのと、ネットとリアルのどちらで購入してもポイントを付与できる。ただ、現状だと同じ商品でもリアルでは買えるけどネットでは買えないなど、まだまだ品ぞろえが一致していないので、これが可能になると1回目はリアルで、2回目以降はECでという流れももっと増えてくると考えている。一般的にはOMOはオンラインのデータをいかにリアルで活用するかだが、「アットコスメ」は現状ではリアル店舗の方が規模が大きいので、来店した人がリアルでどんな商品を触ったのか、サンプルをもらったかなどの情報を、いかにオンラインのデータに反映させていくかがこれからの課題だと考えている。
購買に繋がらなかったデータが鍵
WWD:どんなサンプルをもらったかや、どんな製品を触ったかなどのデータが取れればどんなアプローチをするのか?
遠藤:サンプルをもらった人や製品に興味を持った人には、その後ネットで再度製品の使い方の動画を紹介するなど、アプローチできることが増えてくる。今までそうしたデータは取りにくかったが、スマホが普及したことで、できることが広がっている。
WWD:入店時にIDを読み取るとかも考えている?
遠藤:これからやっていくことになると思う。QRコードを読み取ると来店ポイントを付与するなどでそのデータは取れると思っていて、ただそれはまだ面倒なので、ブルートゥース経由でプッシュ通知ができないかなどを検討している。
WWD:いろいろなデータを取っていくことで、購入やサポートにつなげられると?
遠藤:現状だとリアル店舗に来店したお客さまの購入率は30%ほど。購入していない人の行動データがしっかりと取れるとECにとっての見込み客になる。そういった人たちにネットを通じて再アプローチがかけられるのはいい。
WWD:今後はリアルで買うとかネットで買うとかそういう観念がなくなっていく?
遠藤:僕らとしては購入の場がリアルでもネットでもいいという考え。ただOMOで同じような体験といっても、それぞれのよさはある。リアルでの楽しさ、ネットの便利さなどそれぞれによさがあって、お客さまの買いやすい方法で購入ができるのがいい。その結果として、リアルもネットも併用してくれるといい。現在、併用する人は全体で10%ほど。まだまだ拡大できる余地はある。オンラインカウンセリングなどをネットだけでなく、リアルで購入した人に向けたサポートとして活用するなども考えられる。
ECでのワクワク感はライブ配信の強化で創出する
WWD:バーチャル店舗はどう見ている?
遠藤:テクノロジー的にというよりは、お客さまが盛り上がるかどうかで判断するようにしている。ECは、情報が整理されていて分かりやすい方がストレスなく購入できると思うので、正直バーチャル店舗に関してはまだ積極的ではない。逆にリアルはどこに何があるか分からないという部分が楽しみにもつながっている。
WWD:確かにECでの買い物は便利だが、ワクワクしないといった声もある。そうしたワクワク感をECでどう創出するかも課題だと思うが。
遠藤:そういった意味では今後はライブコマースを強化していくつもりだ。「アットコスメストア」の強みは製品の特徴を伝えるのが上手な店頭スタッフがたくさんいること。人が伝えていくことの力はすごく大きい。最近は「スタッフスタート」と業務提携も開始。やはり信頼できる人がおすすめしてくれるかというのはネットでも重要になるので、現在ECの売り上げは全体30%ほどだが、今後はECもリアルも伸ばしつつ、ECの割合は40%ほどまで持っていき、ECだけで売り上げ100億円を目指す。
WWD:自社ECで販売するブランドも増えてきているが、それはどう見ている?
遠藤:ある程度の規模のメーカーだと自社だけでECをやりきるのは現実難しい。最近は一部のブランドとはデータ連携も行っていて、「アットコスメショッピング」で購入したポイントがブランドの方のポイントにもなるようにしている。今後はそうしたケースは増えてくるかもしれない。
WWD:コロナで消費者の物の買い方は変わるか?
遠藤:まずリアル店舗に関しては都心に人が減った。逆に大宮、溝ノ口、池袋などは夜間人口の多いエリアは売り上げが伸びていて、新宿や有楽町などは厳しい。一般的に狭商圏化すると言われているが、それが実際に起こっている。その分、ECが伸びており、新規購入者も増えている。5月は前年比3倍以上。結果としてネットで物を買うというハードルは下がったので、今後はよりECの可能性は広がっていくと考えている。ただ、原宿の「アットコスメトーキョー」は緊急事態宣言が解かれた後の店舗の混み具合はすごい。週末だとコロナ前の80%くらいまで戻ってきている。これまで化粧品業界はインバウンドに頼ってきたが、しばらくそれは全く見込めないという状況下では、まず小売りの本質に立ち返るべき。リアルな店舗は本当に行く価値がある店舗しか生き残れない。「リアルで感じられる価値とは」をしっかりと考えた店作りをしていかないと、「ネットで買った方が早い」ということになる。リアルだからこその価値はしっかりと見直していくべきだと思う。