ファッション

デジタルメンズコレでドタバタ対談 楽園気分に「ヴェルサーチェ」攻めのストリートが際立つミラノ3日目

 パリ・メンズに続いてスタートしたミラノのデジタル・ファッション・ウイークも残すところあと2日。ここでは主にメンズを担当している記者たちが「頑張ってリアルタイムで見てみました」取材を日替わりで担当します。「アーカイブでも見られるのにオンラインで見る意味あるの?」という周囲の視線を感じながらも、「コレクションはライブ感!」と信じて完走を目指します。今回は海外コレクション取材歴4年の大塚千践「WWDジャパン」デスクと海外コレクション初取材の美濃島匡「WWDジャパン」記者がリポートします。

17:00(ミラノ時間 10:00) 「シモーナ マルツィアーリ-MRZ」

美濃島:ミラノ3日目始まりました。たった今、校了で大忙しな大塚センパイから「ごめん、途中から参加します!」と連絡が来たので、序盤は一人でリポートしていきます。トップバッター「シモーナ マルツィアーリ-MRZ(SIMONA MARZIALI-MRZ)」のプレゼン映像は、イタリアらしいカラッとした空気の麦畑が舞台。「FRIDAY」「SUNDAY」と曜日違いでルックを公開しました。ピュアな真っ白のジャケット&ショーツからのぞく小麦色のニット、その後も多数見られたルーズな編みのトップスが可愛かったですね。なんだか他人の夏休みの思い出を垣間見ているようでした。白と黒の編み込みバングルは手軽に季節感が演出できるから人気が出そう。デザイナーのシモーナ マルツィアーリは「イタリアン ヴォーグ (ITARIAN VOGUE)」主催の「フー イズ ネクスト(WHE IS NEXT?)」に2018年に選出され、2019年からミラノでコレクションを発表しています。これまで注視していませんでしたが、好みのブランドでした。

18:30 (ミラノ時間11:30) 「サン アンドレス ミラノ」

美濃島:「サン アンドレス ミラノ(SAN ANDRES MILANO)は野原が舞台でした。全く同じ服装の男女が出会い、固定的な性差を超えたファッションの自由さを発信するストーリー。フリル付きのシャツやギンガムチェックのシャツ、パールのネックレス&イヤリングというフェミニンなコレクションでしたが、男性モデルも違和感なく着こなしていました。「あなたが誰なのかは重要じゃない、どんな人になりたいかが大事なんだ」というコピーもしっかりと伝わってきました。

18:00(ミラノ時間11:00) 「エルマンノ シェルヴィーノ」

美濃島:「エルマンノ シェルヴィーノ(ERMANNO SCERVINO)」はチュールドレスや花柄ワンピースなど、リゾート気分を全面に出したコレクション。都市から離れた農家でリゾート感を演出するのは、最初の「シモーナ マルツィアーリ-MRZ」と似ていますね。のどかでほっこりします。

大塚:お待たせしましたー!「エルマンノ シェルヴィーノ」に滑り込みセーフ。紙面の校了もカブってバタバタですわ。昨日はトガった系の映像ばかりで辛かったから目がまだ疲れているよ。パリではアングラなロケーションも結構見かけたけれど、イタリアは本当に田園や自然が舞台の作品が多いね。ウィメンズのみだったけど、目の保養になりました。郷土愛ですな。「シモーナ マルツィアーリ-MRZ」も後で見てみよーっと。

美濃島:大塚さん、思ったよりお早い登場ですね。うれしい!ドレスをベルトで縛ってカジュアルダウンさせたり、ニーハイブーツでエッジを効かせたりとスタイリングの妙が光りましたね。トラ模様を転写した総柄コートやドレスもありましたが、あれを着てパーティに行ったら会場の視線を独り占めできちゃいそうなくらいインパクト抜群でした。

19:00(ミラノ時間12:00) 「フィロソフィ ディ ロレンツォ セラフィニ」

美濃島:「フィロソフィ ディ ロレンツォ セラフィニ(PHILOSOPHY DI LORENZO SERAFINI)」はオランダ人モデルのルーナ・ビル(Luna Bijl)を起用したイメージムービーで勝負。真面目な撮影風景を収めたシーンから始まったと思いきや、途中から撮影を抜け出し、テニスを始めたり、散歩したり、最後にはプールに入っちゃうというフリーダムな内容。とびきりキュートな彼女の振る舞いも相まって、すごくハッピーな気分に浸りました。

大塚:また田園とかリゾート的な撮影現場でうれしい!いやーもう今日はこういう感じでいいよ。こじらせたアングラ系は無しということで。それとルーナ・ビルが最高だね。彼女のためのプロモーション映像みたいだけど、天真爛漫で豊かな表情を見ているうちにあっという間に3分が経ってました。

美濃島:コレクションは黒ベースにカラフルなドットを施し、片方の肩に大きなフリルをあしらったミニドレスや、シフォンをたっぷり用いたドレスなど、上品ながら楽しげなムード。映像の世界観とも合致していたし、「欲しい」と思った女性は多いんじゃないでしょうか。

19:30(ミラノ時間12:30) 「キートン」

美濃島:「キートン(KITON)」は新作を披露せず、1着のスーツが出来上がるまでのストーリーをイタリアの広大なスペクタクルとともに伝えました。糸づくりや生地の生産、テーラーによる仕立てまで、全行程をカバーするあたりに作り手のプライドを感じますね。

大塚:「キートン」はファクトリーや原料のシーンが中心で厳粛な雰囲気だったけど、物作りはめっちゃトガってて、展示会に行ったらビックリすると思うよ。下手したらケタが2つ違う異次元プライスなのだけど、服に触れるたびにため息を通り越して「はー!」という声をあげているもん(笑)。老舗だから、美濃島さんの言う通りプライドと自信はもちろんあるのだけれど、進化を恐れない姿勢はカッコいいよね。

美濃島:手にとってみたいと思わせるには十分でしたが、なにか新作に通ずる仕掛け、もしくは「新作を出さない」というステートメントなど、今後に繋がる要素を期待してしまいました。

20:00(ミラノ時間13:00) 「サルヴァトーレ フェラガモ」

大塚:「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」は、超意外な展開だったね。サスペンス映画のようなイントロから、全速力で長い歴史を振り返りつつステートメントを主張するという内容。新作は結局出てこなかったけど。てんこ盛りかつ駆け足すぎて、何が一番伝えたいのかちょっとわかりづらかったかな。テーマごとにチャプターで切り分ける手法は「プラダ(PRADA)」も同じだったけど、欲張りすぎたかもね。

美濃島:おっしゃる通り、詰め込みすぎた映像になっていましたね。さきほどの「キートン」もそうでしたが、ミラノの老舗ブランドは歴史的な街並みを写したり、スケールの大きな音楽で凄みをアピールしたりする傾向にありそうです(笑)。

大塚:まあでも創業1927年の「サルヴァトーレ フェラガモ」の動画で、コンクリートジャングルを背景に打ち込みの音楽が流れていてもイヤですけど(笑)。靴は本当に美しいし、コレクションを率いるポール・アンドリュー(Paul Andrew)も魅力的な人物だから、どこかに焦点を絞った方がよかったのかも。

美濃島:たしかにデザイナーの個性にフォーカスすると、「これがDNAだ」と一方的に言われるよりも共感しやすいのかもしれません。

21:00(ミラノ時間14:00) 「トッズ」

美濃島:その一方で「トッズ(TOD’S)」は、2020-21秋冬シーズンからクリエイティブディレクターを務めているヴァルター・キアッポーニ(Walter Chiapponi)にフォーカスし、彼がブランドで描いているビジョンを伝えましたね。やはりデザイナー自身がクリエイションの姿勢を改めて話すと、力強さが滲みます。

大塚:歴史をスピーディーに詰め込んだ「サルヴァトーレ フェラガモ」に対し、「トッズ」は新しいクリエイティブ・ディレクターを紹介したいという意思か明確だったね。トーマス・マイヤー(Tomas Maier)とも働いた経験があるみたいで、本人もめちゃオシャレ。ちょっとロバート・ダウニー・ジュニア(Robert Downey Jr.)に見えたり見えなかったり。彼が“ゴンミーニ”やボートシューズをデザインするプロセスも見られるんだけど、ウエアもなんだかよさげに仕上がりそうな予感。個人のスタイルはクリエイションに間違いなく反映されるから、次のコレクションが早く見たいな。

美濃島:昨シーズンのメンズはコートやジェケットスタイルが増え、エレガントさが増していました。今季もどんなコレクションを仕上げているのか、今から楽しみですね。

22:00(ミラノ時間15:00) 「ディースクエアード」

美濃島:「ディースクエアード(DSQUARED2)」はテーラリングスタイルをモノクロのシックなムービーで、カジュアルスタイルを楽しげなカラームービーで切り取りました。BGMは同じだったのに、服と映像でこんなに違った雰囲気になるんだと驚きました。

大塚:「ディースクエアード」は今回プレだったね。だからいつも以上にカジュアル寄りだしスポーティー。しつこくて申し訳ないんだけど、昨日のアングラ映像の連打をまだ引きづり続けているから(笑)、こういう安定感のあるユーモア映像を見るとホッとするわ。

美濃島:テーラリングはカチッとしたタキシードやロックスターのようなスパンコールジャケットなどを用意。軽さはなく、少し暑そうでしたが、世界観は純粋にかっこよかったです。カジュアルスタイルではナイロンをはじめとするシャカシャカ系の軽いアウターにTシャツを合わせたスポーティーなムードでした。デザイナーの2人が和気あいあいと動画の流れを紹介するイントロダクションも素敵でしたね。

大塚:そうそう。ディーン・ケイティン(Dean Caten)とダン・ケイティン(Dan Caten)のツインズも元気そうで安心した。ニュー・ノーマルでは着心地とかタイムレスがキーワードなのは間違いないけれど、こういうヤンチャで心を揺さぶるクリエイションは変わらないでほしいな。ギラギラでイエー!みたいなパワーもファッションの側面だしね。

22:30(ミラノ時間15:30) 「ヴェルサーチェ」

美濃島:「ヴェルサーチェ(VERSACE)」は、ロンドン出身のMCであるエージェイ・トレイシー(AJ Tracey)が新作をまとって登場。ラックにかかったコレクションを手にとったり、撮影現場を見守ったりしたあと、そのままパフォーマンスを披露します。途中からはモデルも乱入。オリジナリティー溢れる映像でした。

大塚:いやぁ、ストリート全開のコレクションが振り切っていてよかった!エージェイ・トレイシーの歌もかっこよかったね。「ヴェルサーチェ」はここ最近、アニマル柄をはじめストリート色強めのクリエイションで存在感を発揮していました。でも業界にはフォーマル回帰のムードが漂っていて、「ヴェルサーチェ」がそこに寄せちゃうと官能的すぎるかもな……なんて勝手に心配していたんですが、杞憂でしたね。

美濃島:エージェイ・トレイシーが登場シーンに着ていた繊細なバンダナ柄のプリントシャツがすごくかっこよかった。僕も右にならえではなく、攻めの姿勢を貫くスタンスにもすごく共感しました。

23:00(ミラノ時間16:00)「ハン コペンハーゲン」

大塚:キタキタキタキター。「ハン コペンハーゲン(HAN KJOBENHAVN)」は予想通り、いや、むしろそれ以上のフルスロットルできて気持ちいいわー。パーツを誇張したジャケットとかチラ見せしていたけど、ほとんどアレしか映ってないし。

美濃島::ぶ、ぶっ飛んでましたね(汗)。地底に蠢く未成熟なエイリアンたちが、自分たちの母親(のような生き物)のエネルギーを奪って、服を身にまとい完成系に近くというストーリーだと強引に解釈しました。アングラを通り越し、人によっては嫌悪感さえ抱きかねませんが、攻めの姿勢はよかったです。2008年にスタートしていて、新進気鋭ってわけでもないことに一番ゾッとしました。大塚センパイは「案の定」といった感じですが、なぜこうなると予想できたんですか?

大塚:ちょっとコレを見てみてよ。

大塚:1月のミラノメンズのショーで撮影したんだけどさ、面白すぎるでしょ。まず、会場に着いたら日本人が全然いないの。だからこういうブランドが映像に手を付けたもんなら、こうなることは予想できるよね。初めて見る美濃島さんは言いたいことがいろいろあると思うけど(笑)、こういう感じに批判なんてするだけ無駄だよ無駄。こういう突然変異は、遠くから動向を温かく見守るのが正解。でも、服は意外と普通なんだよね(笑)。

美濃島:そう、普通なんですよ。映像の世界観も相まってSF映画の衣装のように見えますが、じっくり見てみると仕立てがよさそうなジャケットだったり、光沢があって近未来感のあるコートだったり、ちょっとクセはありますが、着てみたいと思うアイテムがチラホラあるんです。伝え方を変えたら、日本でも人気が出そうな予感もするんですが……。

23:30(ミラノ時間16:30) 「ヌメロ 00」

美濃島:「ヌメロ 00(NUMERO 00)」はバランスのよいストリートでしたね。透け感のあるブラックニットに長めのネックレスを合わせたグランジテイストや、企業ユニホームっぽい淡い水色の半袖シャツ&ショーツのセットアップ、お祭りで着るハッピのような和を感じる羽織りなど。さまざまなテイストを織り交ぜることで、ストリートと一口にくくれない幅広さがありました。継続的に提案しているテック感のあるアノラックパーカも、機能や気心地が優先されるポスト・コロナのムードにハマりそう。

大塚:お、「ヌメロ 00」気に入ったみたいじゃん。もともと削ぎ落とし系のストリートウエアが得意だけど、今シーズンはさらにミニマルに振ってきたね。あと、意外な映像で驚いたわ。こういうカルチャーを背景に感じさせるブランドって、意外性のあるアンダーグラウンドな場所で撮りたがるパターンが多いから、公園とか川辺で服をきれいに見せるっていう手はアリかもと思った。尺はちょっと長いかなーとも感じたけど、校了後でグデングデンのコンディションでも気持ちよく見られたよ。

美濃島:映像は8分と若干長めでしたが、リゾート感が押し出された今日のラインアップの中では際立っていましたね。

24:00(ミラノ時間17:00) 「デヴィッド カタラン」

大塚:さあ!いよいよわれわれの最後のドタバタ取材「デヴィッド カタラン(DAVID CATALAN)」だよ。終電がヤバいのでメトロに乗りながらスマホで見ました。服も悪くはないんだけど、映像のストーリーが超気になった。男性2人が出会いそうで出会わないじれったい展開に(あああー!)ってなりつつ、ラストでいよいよ対面して、月9のような展開くる!?ってとこで終わっちゃった(笑)。

美濃島:最高潮の場面で終了しましたね(笑)。植物園のような空間でサファリスタイルを披露しました。多く登場したマルチポケットのセットアップには、リゾート感のあるマドラスチェックやアースカラーのストライプで親しみやすさを加えます。地上絵のようなステッチが目をひくデニムのトップスや、深みのあるオレンジのジャケットなど、アイテムの幅も狭くなかったですね。何度か映ったベルトサンダルもかわいかったなあ。

大塚:プレコレクションだからルックは少なかったけれど、「ヌメロ 00」とは違って色とラテンっぽいムードをストリートウエアに落とし込んでいたね。地力はあるから、もうちょっとキャッチーさがあれば面白くなりそう。

美濃島:昨シーズンはアウトドアからフォーマル、スポーツまでカバーしていて、高いポテンシャルを感じていました。本番の春夏に期待が高まる内容でしたね。

デジタル・ファッション・ウイークを振り返って

大塚:自宅の最寄駅に着いたところで終わったー!ミラノ・メンズはあと1日あるけれど、僕と美濃島さんの対談は今日で終了。途中でリタイアしようかと思うぐらい辛かった(笑)。でも、こんなときじゃないと見られないブランドを知れてよかった。デジタルコレクション元年だからまだ良し悪しを判断するときじゃないかもしれないけれど、いろいろな表現が増えて面白くなりそうだなと感じたな。あとは、消費者をいかに巻き込んでいくかが課題。

美濃島:お疲れ様でした!本当にキツかったですね(笑)。ユーチューブで公開した映像でも、同時視聴者が数十人というブランドも少なくなかった。デジタルだと、街全体がお祭り気分に包まれる感じは出せないので、一般ユーザーにもっと広く認知されて「なんだか面白そうなことやってるな」と思ってもらえるかどうかが大事ですね。

大塚:そうそう。結局は僕らみたいな限られた人たちしか見ていない気もするので、もっと多くの人を巻き込んでいけるサービスや機能が開発されていけば、定着する可能性もあるかも。東京やほかの都市のファッション・ウイークが、ロンドンからミラノまでの一連の流れを見て、どう出てくるのか楽しみです。

美濃島:さまざまなブランドを取材し、メッセージを届けることの難しさも実感しました。ブランドだけでなく、メディアのあり方も問われる時代。僕たちも「どんな伝え方が最適か?」を常に考えて発信していきたいですね。

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