パリ・メンズに続いてスタートしたミラノのデジタル・ファッション・ウイークも最終日を迎えました。ここでは主にメンズを担当している記者が「頑張ってリアルタイムで見てみました」取材を日替わりで担当。「アーカイブでも見られるのにオンラインで見る意味あるの?」という周囲の視線を感じながらも、「コレクションはライブ感!」と信じて完走を目指します。海外コレクション取材歴10年以上の村上要「WWD JAPAN.com」編集長と、入社2年目の大澤錬「WWD JAPAN.com」記者が日常業務と並行しながらリポートします。
17:00(ミラノ時間 10:00) 「イレブンティ」
大澤錬「WWD JAPAN.com」記者(以下、大澤):ミラノ・メンズ最終日。トップバッターは「イレブンティ(ELEVENTY)」。マルコ・バルダッサーリ(Marco Baldassari)オーナー兼デザイナーが登場し、アイテムについて説明です。アップと引きを使い分け、ディテールを細かく見せてくれました。白のデニムのセットアップやロールアップしたデニムパンツにTシャツ&半袖シャツのスタイルのほか、ブラウンのフォーマルスーツの足元にはローカットのスニーカーでカジュアルです。花柄や赤のボーダーのインナーでアクセントを加えたスタイルが印象的でした。
村上要「WWD JAPAN.com」編集長(以下、村上):「イレブンティ」は良い意味で「通販っぽい」ね。「おうち時間が長くなって、快適な洋服が求められている」って話から始まって、ジャージーのジャケットとドローコードのパンツにスニーカー。「長く着られる洋服を」と言いながら、ウオッシュの少ないインディゴデニムなど説得力抜群。コレでお手頃価格なら、電話しちゃいそう(笑)。イメージじゃなく売るために、商品をちゃんと伝える価値を教えてくれるムービーです。
18:00(ミラノ時間11:00) 「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」
大澤:ミラノ・コレクション初参加の「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(CHILDREN OF THE DISCORDANCE)」は、東京の街並みを駆け回るスケーターたちをメーンに3曲の楽曲を使用。冒頭はヒップホップグループのNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの「NITRO MICROPHONE UNDERGROUND」、中盤は、DJ Boringの「WINONA」、終盤はZacariの「Lone Wolf」。スケーターたちは、僕らが日常で見かけるのと同様に、歩道や車道、地下、階段関係なく滑り続けます。建物の敷地で滑っているのを警備員に注意されるシーンは、特にリアルで面白かったです(笑)。アイテムは、同ブランドのアイコンであるバンダナ柄のシャツや、鳥の刺しゅうを背面に施したロングコート、総柄のセットアップなど。
村上:43歳のオジサンにとっては、「『チルドレン オブ ザ ディスコーダンス』って、この世界のブランドなんだ」という驚きがあって面白かった。マスク姿で無表情に歩く人たちとスケボーキッズ、怒る警備員とスケボーキッズ(笑)。この世界をリアルに表現しているし、世界に発表するムービーだからと気負わず、Tシャツにチノパンとかも出しちゃうあたりもスキ。価値観がフラットな世代感をちゃんと表現している。
18:30(ミラノ時間11:30) 「ジエダ」
大澤:「ジエダ(JIEDA)」は、昭和の不良マンガのようなストーリーが個人的に好きでした!不良を演じるモデルたちはセリフこそないけれど、合間に“憂鬱”や“秘密”、“誘拐”とタイトルのようなものが入るので、すんなり理解することができました。ネイビーのベロアの半袖シャツや、ブラウンの“プリーツ”ジャケットとパンツのセットアップ、女性のピクチャーが全面にプリントされた黒の半袖シャツが好みでした。最後は“見てんじゃねえよ、クソ”と吐き捨てて終了。僕の地元では聞き慣れた言葉です(笑)。
村上:世代と地元の違いでしょうか?「ジエダ」、僕は共感できなかった(笑)。ラストも分からん。でも、大澤さん世代が共感するなら、「ジエダ」的には上出来でしょう(笑)。洋服は好きですよ。ちょっと背伸びしたセットアップとか、着慣れないし反骨精神示したいからのボリューム感とかは、日本版テッズスタイル。悪趣味ネクタイもキライじゃない(笑)。
19:00(ミラノ時間12:00) 「フェデリコ チーナ」
大澤:「フェデリコ チーナ(FEDERICO CINA)」は、16年に誕生した伊発の気鋭ブランド。デザイナーのフェデリコ チーナ(Federico Cina)は、学生時代に「ブルックス ブラザーズ(BROOKS BROTHERS)」や「エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)」で、ブランドコンサルタントとして経験を積み、故郷である伊ロマーニャの伝統を主なインスピレーション源として活動しています。花柄のグリーンのジャケットをまとうおじいさんとレッドのセットアップを着用したおばあさんの社交ダンスにほっこり。最後の手を取り合うシーンでは、新型コロナによるロックダウンで改めて気付かされた「家族の大切さ」というメッセージを受け取りました。
村上:「フェデリコ チーナ」は、典型的なイタリアンブランドの価値観を有しているカンジだね。家族、地元、自然、郷愁みたいな。それを映像美で丁寧に、でも手短に表現したのはステキだけど、洋服が普通じゃないからちょっと興醒め。おじいさんとおばあさんの洋服はステキなのに、主人公のハイカラーシャツの赤いリボンとか、やたらモコモコのケーブルニットとかちょっと大げさ。中盤に登場したロング丈の白シャツとか、もっとシンプルなアイテムだと映像の世界に引き込みやすいのに。
19:30(ミラノ時間12:30) 「ゴール」
大澤:「ゴール(GALL)」は、少し怖さのある不気味なBGMでスタート。ロケ地に山を選択し、マウンテンパーカやフーデッドコート、ナイロンパンツなど、アウトドア向けのアイテムをブラックやホワイト、ベージュのカラーで提案しました。ロケ地とアイテムがマッチしているので、コンセプトが明確で分かりやすかったです。最後のモデルがこちら側を見つめるシーンには、BGMも含めて少しゾッとしました……。
村上:「ゴール」のようなハイスペックなアウター押しのブランドって、こういう壮大なストーリー好きだね。ミラノでも、「C.P. カンパニー(C.P. COMPANY)」のプレゼンとかは、アウター数着の展示のために豪華なセットを組んだりするのが当たり前(笑)。タフネスを訴えるには、やっぱり大自然と交わるのが良いんだろうね。不気味感も頻繁に登場するスパイスだよ(笑)。背後に壮大なストーリーがあることをニオわせるのにイイ感じなんだと思う。
20:00(ミラノ時間13:00) 「アンドレア ポンピリオ」
大澤:「アンドレア ポンピリオ(ANDREA POMPILIO)」は、“INVOCATION OF MY DIVINE BROTHER”というタイトルのもと、ムービーを4つのチャプターに分けてスタート。米ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイド(George Floyd)氏が白人の警察官に押さえつけられて死亡した事件を再現したり、香港のデモのニュース映像を流したりしました。新作コレクションの発表ではなく、過去の痛ましい事件を振り返るムービーでした。洋服は最後まで出てこず、コレクションとの結びつきはわかりませんでした……。
村上:「アンドレア ポンピリオ」は段々こじれている気がしていたけれど、ムービーで確信に変わってしまいました。昔は、「可愛ければ、理由なんてなくても使っていいでしょ?」って笑いながら、チンパンジーモチーフのシャツとかバッグを作っていたのに。最近は作ったコレクションを無理して着想源と結びつけている印象でした。このムービーも、そんなカンジ。あんまり伝えたいことはないものの、無理やり高尚にしようとしている気がする。もっと素直な方が、イタリアンブランドは生きると思うんだけどな。
21:00(ミラノ時間14:00) 「グッチ」
大澤:「グッチ(GUCCI)」は、全76ルックを紹介。モデルには、同ブランドに携わる人を起用していて、「こんな役職の人がいるんだ」「デザイナーってこんなにいるの?(笑)」と、新しい発見があるライブ配信でした。クリエイティブ・ディレクターを務めるアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)は、「本当に新しいコトやモノを発信してくれるデザイナーだな」と、改めて感動。またメンズのモデルがネイルしているのを見て、「ジェンダーレスな時代だし、僕もやろうかな(笑)」と、自分自身の新しい挑戦の後押しをしてくれるような存在にも感じます!今後のコレクションの発表方法についても、ミケーレが僕たちにどんな新しいものを見せてくれるのか待ち遠しいです。
村上:「グッチ」は、まるで謎解きでしたね(笑)。2月のウィメンズ・コレクションで始まった物語を締めくくる「エピローグ・コレクション」は、ぜーんぶひっくり返した印象です。まずモデルは、みんなミケーレのアトリエスタッフ。普段は裏方のスタッフを表舞台に引っ張ってきたのは、前回のウィメンズ・コレクション同様だけど、今回はついにモデルでした。ショーの当日、僕には「グッチ」からオーガニック野菜が届いて、「形は不完全だけど、地場の作物です」というメッセージが添えられていました。アトリエのスタッフは、まさにオーガニック野菜のよう。形は不ぞろいでモデルみたいにパーフェクトじゃないけれど、みんな正真正銘。つまり「グッチ」の地場のスタッフ。そんな人たちが、一番「グッチ」を自然に着こなしてくれる、って考えたんじゃないかな?LIVE配信は6時間前に始まったけれど、本編のムービーがスタートする前の方が、洋服を着たモデルたちが頻繁に登場します。本編のムービーは、そんなモデルがショーの前に撮影するスタイリングフォトを一枚ずつ見せるカンジ。そしてショーの後は、なぜかモデルのメイク映像。ファッションショーのバックステージを、時を遡りながら振り返っているような印象です。そして、そんなスタイリングフォトを紹介した場面の背景は、ランウエイらしき道がある宮殿や中庭。ここでも、ランウエイとバックステージが逆転しているようでした。全てが逆転したエピローグ・コレクションの、ミケーレのメッセージはなんだろう?ファッション・システムが肥大化してしまったことに警鐘を鳴らしているミケーレだから、それより前の健全な形に戻ろうというメッセージのようにも思えるし、次の新しい時代のため一度原点に立ち返ってリセットしようという意思のようにも思えるね。コレクションは、ウェブやフローラルモチーフ、“ジャッキー”バッグなど、往年のアーカイブに着想を得たアイテムから、ミケーレらしいスカーフ使いまで、総決算‼︎って感じでした。まさに1つの時代のエンディング。次は、全然違う世界になるのかなぁ?5年前にジェンダーの壁を壊す大革命を起こしたミケーレの、次なる挑戦が楽しみです!
大澤:要さん、ライブ配信番組「着点(きてん)」お疲れ様でした!コレクションの合間に拝見しておりました。三原さん、井野さん面白かったですね〜。井野さんには気づきましたが、まさか三原さんもムービーに出演していたとは(笑)。
村上:一番やる気だったらしいよ。番組前、展示会で聞いた話によると、パペットの演技指導も熱心だったらしい(笑)。
22:00(ミラノ時間15:00) 「エルメネジルド ゼニア」
大澤:1910年にテキスタイルメーカーとして創業した「エルメネジルド ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)」は、伊トリヴェロにある本社でコレクションを発表しました。画面越しでも伝わるファブリックの品質の良さ、テーラリング技術の高さ、パンツのタックの入り方は特に圧巻でした!そして本社の屋上でフィナーレを迎え、アレッサンドロ・サルトリ(Alessandro Sartori)がモデルを迎えて拍手、手を振るシーンには感動。最後はサルトリによるアイテムの解説で幕を閉じました。「いつも見ていたショーも当たり前ではなくなるのかな」と思うと、新しい時代の始まりを痛感すると共に、どこか寂しさも感じます(泣)。
村上:「ゼニア」のテーマは、「NATURE\MAN\MACHINE」。自然豊かな古里トリヴェロで、生地を作る織機に囲まれている同ブランドらしいテーマだね。こんな時代だから自然を賛美するブランドは多いけれど、ブランドにとって欠かせないテクノロジーに同等の価値を置いていることがわかります。今シーズンは、マニアックなカラーリングを脱却して、淡いグレーやベージュ、アイボリーがたくさん。軽やかな素材感が際立ちます。お気に入りはラグランスリーブのジャケット。ついにジャケットがラグランだよ!袖、セットインじゃないんだよ!おうち時間が長い今の時代にピッタリ。おうちで、カーディガン感覚で着られるジャケットの誕生です。
23:00(ミラノ時間16:00) 「ミッソーニ」
村上:ラストの「ミッソーニ(MISSONI)」は、現在のクリエイティブ・ディレクターのアンジェラ・ミッソーニ(Angela Missoni)のコメントを中心に、色や家族愛、ファミリービジネスであることなどのアイデンティティーを、昔の映像と一緒にアピール。今ほど「家族」の重みを感じる時はないから、今後脚光を浴びるブランドになるのかも。でもジャーナリストの解説はいらなかったかな?ミッソーニ一族の言葉だけで、色や家族の価値は十分に伝わった気がする。むしろ、ジャーナリストのマッチポンプ的コメントは、ジャマだったかもしれません。
大澤:「ミッソーニ」は、約1時間という長尺物で、ミッソーニ一族の家族愛がすごく伝わりました!ファミリービジネスの難しさやこれまで積み上げてきたことの重大さ、またラグジュアリーブランドの社内風景を見ることができて、とても良い機会になりました。特に創業者であるロジータ・ミッソーニ(Rosita Missoni)がブランドの歴史を振り返るシーン。彼女の笑顔にはジーンとくるものがありました。「こういう人たちがいてくれたからこそ、僕たち若手が今この業界で働けているんだ」と、改めて実感した21年春夏メンズ・コレクションのラストでした。