「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は7月21日、イタリア・ローマ郊外にある映画撮影所チネチッタ・スタジオで2020-21年秋冬オートクチュール・コレクションを披露した。会場に少数のジャーナリストを招待したものの、今回の核となるのはオンラインでの配信。そのため、長年デジタルでのファッション表現を探求している写真家でフィルムメーカーのニック・ナイト(Nick Knight)と協業し、美佳(Mika)やアドゥ・アケチ(Adut Akech)、マリアカルラ・ボスコーノ(Maria Carla Boscono)ら人気モデルを起用した幻想的なパフォーマンスをライブ配信した。
パフォーマンスは、約5mもある極端なプロポーションのドレスをまとうモデルやドレスを風になびかせながら宙を舞うモデルに、花や自然の風景を投影した映像からスタート。後半はさまざまなアングルとスローモーションを生かして、暗闇から浮かび上がる純白と銀の15着のドレスを1ルックずつ見せた。音楽を担当したのは20-21年メンズのショーにも起用されたロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライターのFKAツイッグス(FKA twigs)。叙情的かつ個性的な歌声で見るものの心を揺さぶった。
ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)=クリエイティブ・ディレクターは今季のコレクションに関して、「ファッションと女性、そして詩情を中心に据えたかった。これまでとは全く異なり、(ロックダウンにより)束縛されているという感情を乗り越える必要があった」とコメント。「ナイトと取り組むことが、ショーに取って代わるのではない。というよりも、水や風、大地、炎などを表現したデジタルプロジェクションを刺しゅうや花の装飾、色の代わりに用いながら、クチュールの背景にある人間的な要素を最大限際立たせることを目指した。ナイトの表現には“冷たさ”を感じるが、ある意味、そこに惹かれた。そして、それはアトリエの人々が持つ人間らしい温かみと対極にあるものだ」と続ける。披露されたドレスはそんなアトリエの手仕事と卓越したクラフツマンシップを称えるもので、実際ピッチョーリは制作に携わったお針子の名前をショーノートに記している。中には4000時間をかけて製作されたドレスもあるという。
また今回の会場に選んだ歴史あるチネチッタ・スタジオについては、夢が生み出される場所であり、皆が最も夢を見られるクチュールにとって最適な場所だったとし、「私たちは夢のない状態になんてなりたくない」と語った。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員