これまでにアパレル業界の不正義を告発してきたNGO/NPO団体は多数存在する。つい先日も米国のアニマルライツ運動団体PETAがアルパカの残虐な毛刈りの実態を告発し、ギャップやH&Mヘネス&マウリッツは世界最大規模のアルパカ農場のマルキニとの取り引き停止を決めた。
動物福祉だけでなく、2013年にバングラデシュで起きたラナプラザ事件をきっかけに発足したNPO団体ファッションレボリューション(Fashion Revolution)は、アパレル企業に透明性を求める活動を続け、企業の変革を後押ししている。
これらの団体は企業にとって“リスク”として消極的に捉えられてきたが、最近では彼らと連携して課題に取り組む企業も多い。例えば、「グッチ(GUCCI)」の親会社のケリング(KERING)は、NGO団体コンサベーション・インターナショナルと連携して生物多様性保全に向けた取り組みを進め、「ゴアテックス(GORE-TEX)」で知られるゴア(W. L. GORE & ASSOCIATES)社は、環境NGOのグリーンピース(GREEN PEACE)と協業して環境負荷の軽減に取り組む。
NGOの世界的影響力が強まっている今、サステナブル・ビジネス情報誌「オルタナ(alterna)」の森摂・編集長は「企業の社会対応力が問われる時代になってきた」と語る。森編集長に話を聞いた。
WWD:これまで企業やブランドは、NGOの過激なパフォーマンスに対して相手にしない態度が主流だったように思うが、海外ブランドを中心にNGOに対する意識が変わってきている?
森:グローバルではNGOに対する信頼度が上がっている。PR会社のエデルマンが行なった調査では、企業、NGO、政府、メディアのうち、人々はNGOを最も信頼しているという結果が出ている。
WWD:彼らの活動の中身が変わってきているのか?
森:世代の変化が大きいだろう。特に1995年以降に生まれたZ世代は企業に、環境や社会に対する公平さや誠実さを求める傾向がある。NGOの活動は市民の支えで成り立っており、彼らは市民の声の代弁者である。つまり社会全体が、企業に対し児童労働やLGBTQ、非白人など社会的弱者への配慮を期待しているということだ。
WWD:アパレル業界の事例として英国のNGOファッションレボリューションを筆頭に、サプライチェーンの透明性を求める動きが活性化している。
森:透明性は、企業の説明責任、つまり“アカウンタビリティー”と言い換えることができるのではないか。サプライチェーンにおけるネガティブな要素について、目に見える形で説明するということだ。そして、そのネガティブな要素をポジティブな要素に転換することこそが透明性に取り組む意義だろう。Z世代が企業に求める誠実さと通ずるところがある。ただし、透明性は数値化できないし曖昧になりがちで、証明ができない。今さまざまなイニシアティブが透明性を数値化して評価したり、フェアトレードラベルのような第三者機関を通した認証制度で透明性を証明したりする動きがある。
WWD:具体的に透明性をうまく実現している企業はあるか?
森:代表格はユニリーバ(UNILEVER)だ。ユニリーバが2010年に開始した「サステナブル・リビング・プラン」では環境と社会、サステナビリティの領域で目標を設定し、達成したことだけでなく達成できなかったことも公表している。例えば、同報告書では「2020年までに当社の製品に関連する消費者の水の使用量を半分にするという目標を掲げていたが、実際は10年以降消費者の水の使用量は約1%増加してしまった」という具合にだ。企業は普通、できていないことに関しては語りたがらないが、ユニリーバはそこをあえて公表した世界初の企業だった。
WWD:達成していない項目についても情報開示をすることは企業のメリットになり得るのか?
森:そうだ。日本企業はネガティブな情報を積極的に開示することに慣れていない。NGOからの批判も無視したり、隠れて解決したりしようとすることが多い。しかし、企業のNGOや社会に対する対応力そのものが問われている今、それらにオープンになることが結果的には消費者からの信頼を勝ち取る最短距離と言えるだろう。「ユニクロ(UNIQLO)」は、同ブランドのサステナビリティチームを中心にNGO対応が上手なブランドだ。以前PETAにミュールシングの問題(※)を指摘されたときにも素早く対応した事例がある。
※ミュールシングとは羊の尾骨および尾の周囲から余分な皮膚を取り除き、羊の体にウジ虫が寄生しないよう皮膚や肉体の一部を切除する施術のこと。現在「ユニクロ」は、メリノウールのサプライヤーに対してミュールシングを行う農家からの調達を廃止していく取り組みを進めている。ただしミュールシングは、ウジ虫の寄生による羊の病気のリスクを大幅に軽減する措置でもある。
WWD:企業は透明性に取り組むためにまず何から始めるべきか?
森:まず、経営陣がサプライチェーンにはリスクがあると知るところから始まる。次にそれぞれのリスクの大きさを把握すること。そして、大きなリスクに対応すること。最後に将来的なリスクの芽を摘んでおくことだ。また、リスクを社内で共有して説明できる態勢を整えておくことが重要だ。
WWD:アパレル業界の中には、そもそもサプライチェーン全体を把握していない人たちもいる。それではリスクの存在にも気が付かない。
森:サプライチェーンには必ず問題がある。自社のリスクを知らないままに経営することはヘッドライトをつけないで夜道をドライブするようなものだ。とても危険だ。日本もこれからミレニアルズやZ世代が中心になる中で消費者の情報感度が上がってくる可能性は高い。さらに外国人投資家や自社の社員からの信頼を得るためにも透明性への取り組みが重要になってくるだろう。