ファッション

6人の部門長が語るこれからの「WWDジャパン」 ファッション × ビューティ、デジタル × 紙で“ONE WWD”始動 

 INFASパブリケーションズは9月、ファッションとビューティ、デジタルと紙をシームレスにつなぐ組織改編を行う。キーワードは、“ONE WWD JAPAN”。両者をシームレスにつなぐことで変化に強い組織を目指す。ウィークリー「WWDビューティ」の編集部は「WWD JAPAN.com」編集部と統合し、ビューティ関連コンテンツは村上要「WWD JAPAN.com」編集長の下でSNS、デジタル、ウィークリー、新たにスタートする月刊誌、イベントの全メディアへ展開する。「WWDジャパン」編集部は引き続き向千鶴編集長のリードでファッションコンテンツの多くに責任を持ち、同じく各メディアへ届ける。1979年創刊のファッション業界紙にルーツをもつ「WWDジャパン」はどこへ向かうのか? “ONE WWD JAPAN”を形成する6つの部門長が方針を語った。

櫻井啓裕・取締役ビジネスプランニング部部長(以下、櫻井啓):大きな転換期の今、「WWDジャパン」はポストコロナ以降のファッションおよびビューティ産業の新たな歴史を作っていくためのプラットフォームでありたいと思っています。“ONE WWD JAPAN”のステートメントを強力に発信しながら組織を再編し、全ての部署が同じビジョンの下で業務を進める。

村上要「WWD JAPAN.com」編集長(以下、村上):“ONE WWD JAPAN”については、「『WWD JAPAN.com』で先陣を切らせていただきます!」と宣言したい(笑)。そのくらいの覚悟と信念で取り組む、大きなテーマだと思っています。ウェブは従来からファッション × ビューティでしたが、「WWDビューティ」編集部との統合により、そしてウィークリーの「WWDジャパン」におけるビューティコンテンツや月刊化する「WWDビューティ」まで手掛ける部隊となって、まさにファッションとビューティ、デジタルとプリントを跨ぐ集団となります。ユーザーの利便性を重視しながら、動画やライブ配信、音声、そしてオン&オフラインイベントやセミナーまでのコンテンツを生み出したいですね。

向千鶴「WWDジャパン」編集長(以下、向):ウイークリー「WWDジャパン」の肩書はこれまで“ファッション業界紙”でしたが、9月からは“ファッションとビューティの業界メディア”です。ビューティ市場はここ10年成長が著しく、「WWDビューティ」は2007年から独立して発行することで存在感を高めてきました。これからはその知見をもって再び一つになり毎週月曜日に紙と電子版を発行します。そもそも洋服もメイクもヘアも、広義の意味ではファッションだから、消費者はその間に壁を立てて考えたりはしませんよね。こと業界間となるとほぼ没交渉なのは産業構造が違うからという、作り手の理屈だけ。改めてもったいない!ファッションとビューティを仕事にする人たちが互いの可能性をもっと知る機会が増えれば、最終的には消費者に喜ばれる商品やオン・オフの売り場作りにつながると思う。“ONE WWD JAPAN”はそこをつなぐブリッジのような、サロンのような存在になります。

荒川晃久デザイン部部長(以下、荒川):たとえばファッション撮影を成功させるにはモデルをはじめ、スタッフのキャスティング、ヘア、メイク、洋服と全ての要素が一つのコンセプトをもとにした方程式で成り立つ必要があります。その要素の中でファッションとビューティの関係性、相性はかなり重要な要素です。その切っても切れない2つの業界が別々のコンテンツであることに違和感を覚えていました。ファッション業界とビューティ業界の橋渡しになる“ONE WWD JAPAN”のコンセプトは自然な流れであり、相互が理解を深めることのきっかけになり、その相乗効果は必ず撮影のクオリティーにも反映されていくと思います。

永松哲治販売部部長(以下、永松):販売部の仕事は“刊行物を売る”から“サービスを提供する”に変わっており、定期購読者には“ONE WWD JAPAN”だからできるサービスの提供を日々追求しています。デジタルの成長が著しいですが、ウイークリーの売り上げも好調です。4~5月の新型コロナウイルス感染拡大に伴う商業施設の休業やリモートワークが推奨された時期には、近年では例がないほど大変多くの定期購読のお申し込みをいただきました。この反響には驚き感謝する一方で、逆境の中でも有益な情報を得たい、前に進むのだ、というファッション業界、ビューティ業界の皆さんの気概を感じ、とても身の引き締まる思いでした。働き方が転換期を迎えている今、読者の環境にどれだけ寄り添えるのか、価値ある情報をどのような形でお届けするかが問われていると思います。

櫻井雅弘デジタルマーケティング部部長(以下、櫻井雅):“読者の環境にどれだけ寄り添えるか”は、重要ですよね。マーケティング視点で“ONE WWD JAPAN”を捉えると読者へ一方通行だった旧来のメディアモデルから“一人の読者”を中心として、その読者の行動、感情、目的などを伴った生活サイクルの中で、一貫したメディア体験を提供するモデルへ変化するためのコンセプトと言えます。「読者中心」を考えるときに最も注意しているのは「読者に求められている」ということを「量」で判断せず、「質」の視点に重きをおいて考えることです。今後の「WWDジャパン」は今まで以上に、ファッション・ビューティ業界の発展に必要なオピニオンを届けるメディアであることが役割だと考えています。そのためには今起きていることや今後の展望などに“気づき・動機・裏付け”を与えることが重要です。過去に基づくデータだけで施策を決定するのではなく、その人の今と将来に必要な本質的な価値を届ける目的のためのデジタル(データ)・マーケティングであることを念頭に、読者の皆さん「一人ひとりの“将来”の意思決定」に役立つ“ONE WWD JAPAN”をお届けしたいです。

デジタルは「60%でローンチ。
その後アップデート」

荒川:新型コロナの影響もあり、10年かかるだろうオンライン化が急速に発展していますよね。幸いにも、ここ数年で弊社は旧出版社という体質からメディアビジネスという体質に変化してきました。現在では、「WWDジャパン」というタブロイド紙の本質がさらに問われると同時に、ウェブでの情報提供のクオリティー担保は業界で生き残るための最低限の体制改革です。“ONE WWD JAPAN”が提供しようとしている“強化された”ファッションとビューティのあらゆるコンテンツは、アパレル業界に留まらず、他業界も巻き込む成長戦略として発展していくと期待しています。

村上:緊急事態宣言下で挑戦したライブ配信は、ユーザーとクライアントの双方からご評価いただき、新しい時代のビジネスにつながるであろう可能性を強く感じています。ただ、勢いでスタートした感もあり、そろそろアップデートが必要です。携わる人間の仕事が「作業化」した瞬間から、その意識を強く抱きました。8月には早速、週に2回お届けしていた紙面紹介プログラムを刷新します。デジタルの世界を取材して「60%でローンチ。その後アプデ」という考え方を学びました。デジタルは、修正できます(笑)。その特性を最大限に生かし、編集部員が常に、新たな気持ちで、興奮しながらコンテンツを生み出せる環境を整えるつもりです。

櫻井雅:デジタルに限らず全体に言えることですが、具体的に取り組んでいくことは、コンテンツ、コミュニケーション、フォーマットの3つを適切にパーソナライズすること。その時にも読者の個性や興味・関心などの今や過去のデータから導かれる提案に加えて、未来に向けて次に知るべきことが届けられるように、関心を拡張し、新たな気づきを提供する“ギフト”があることが大切だと考えています。そのためには、いわゆる“データ”だけでなく、個々の意見や感想を得ること、それに対してわれわれも丁寧に反応を示し、コミュニケーションをきちんと取ることを重ねて、それこそ読者の皆さんが店頭で行っているような接客・提案のような体験を、さまざまなタッチポイントで感じていただけるような仕組みやサービス作りを進めます。

櫻井啓:広告ビジネスという点では数字やメニューも大切ですが、それよりもより巨視的かつ長期的に捉えて、どういったコンテクストをクライアントと共に作っていくかがポイントになると思っています。それによりミクロの視点ではブランドのビジネスソリューションが提案できるし、マクロの視点では業界の活性化につながるから。ミクロとマクロを組み合わせて、一つの大きな物語を描く。それができるファッションメディアはBtoBに強いウイークリーに加え、より多くのオーディエンスを抱えるデジタルメディアを持つ「WWDジャパン」しかない。

向:「WWDジャパン」が今後注力したいキーワードは、サステナビリティとテクノロジー、そしてこれから業界を創るネクストリーダーの存在です。これらはファッションとビューティ共通ですが特にファッション業界は今、大量生産・大量廃棄からの脱却という課題に直面しており、サステナビリティの視点を持って業界自体を再設計するタイミングです。そもそもビジネスをデジタル上で始める若い起業家が増えており、“業界”の定義そのものが変わりつつあります。われわれの財産の一つが社会問題への意識が高い若い世代をフォロワーに持つSNSの存在。社内外の若い世代の声を“業界”に届けて揺り動かし発展に寄与したい。

6部門の連動で生み出す“ONE”の価値

櫻井啓:今まで以上に部門間を越えて連動して行きたい。売り上げの主体は広告や制作、イベントプロデュースなどビジネスプランニング部主導の領域がほとんどだったけれど、そのスキームも変えて行くべきだし、「WWDジャパン」はもっとビジネスを拡張できるポテンシャルがある。その一つは「WWDジャパン」しかできないような主催イベントだと思う。1月に開催した「ファッションロー」のセミナーなどが良い例で、エデュケーショナルなコンテンツは業界の活性化につながるし、われわれにも学びになります。ここはコンテンツを制作する編集部や販売部が主体になっていくし、デジタルマーケティング部が持つデータも活用できる。コロナ禍でリアルイベントは難しいかもしれないけれど、われわれが今一番力を入れている動画配信で行えればと思います。

櫻井雅:豊かな提案や読者の皆さんに届ける体験の元になるのは、やはり社内の各部門がそれぞれ現場で感じ取ってくる反応や意見ほど参考になるものはありません。デジタルマーケティング部としては個々の読者の反応や、コンテンツのパフォーマンスといったデータを取得、分析することはできますが、それを読者に良い形で還元するには、広告主に向き合うビジネスプランニング部、購読者に向き合う販売部、そして何よりファッション・ビューティ業界に向き合う編集部と今まで以上に連携・協調することが必要です。部門を横断して必要なメンバーが集まり、新しい施策を検討し、スピーディーに、村上が言うようにまずは60%で形にして読者の皆さんの満足度を測る。すでにいくつかの取り組みが動き出していますが、そういったプロジェクト型の協業をたくさん積み重ねていきたいと考えています。

向:記者の仕事は、本質的には10年前と変わっておらず、アウトプット先が紙に加えSNS、ウェブ、イベント、動画、時にコンサルティングと多面的になっているだけ。なんて、言うは易しでバランスが難しいのですが……。試行錯誤でようやく道筋が見えてきました。重要なのは、情報をいつ、どう届けるかを関連部署が連動して「設計」する視点です。だから記者が持ち込んだ情報を客観的に“研究”し、アウトプットに導くデジタルマーケティング部の存在は大きい。編集部についていえば、昔と大きく違うのは、記者一人一人の顔が見えること。これだけ個のメディアがあふれる中、有料メディアを選んでもらう理由は「信頼」にほかならない。「取材に基づく事実+分析、解説、オピニオン」を提供できる、年齢も嗜好もバラバラで顔が見える信頼できる個の集団、それが「WWDジャパン」です。

学びと交流の場として
セミナー・イベントを強化

永松:普段の取材を通して記者が感じる業界の課題や新しいビジネスの芽生えなどは、これまで記事を通して伝えてきましたが、今後は読者と直接コミュニケーションが取れるセミナーを積極的に開催します。4月に本格始動させる予定でしたが、コロナ禍の影響により仕切り直しを余儀なくされました。しかし、この間デジタルを活用したさまざまなトライができました。そして情報収集や学びの場としてニーズをとても感じています。記者や有識者を招き、読者の皆さんが抱えている課題を解決するための道筋やヒントになるような場を作りたいです。

村上:SNSの普及により「個」の時代となりました。インスタグラムはもちろん、TikTokやLINE LIVE、今はあらゆるプラットフォームに、身近なオピニオンリーダーが存在し、小さなコミュニティーを動かしています。私たちもそうなりたい。業界の革命児、ゲーム・チェンジャーを追い続けたいと思っていますが、最近は自身もゲーム・チェンジャーになりたいと思っています。そして願わくは、真面目な業界紙の記者だった同僚にもそうなってほしい。閉塞感の否めない業界を真面目に取材し続けるからこそ、自身にも閉塞感を抱いているスタッフがいるのだとしたら、私たち幹部の仕事は、彼らの前で、私たち自身の垣根を破壊することだと思っています。

荒川:“ONE WWD JAPAN”プロジェクトの社内への影響は大きい。“ONE WWD JAPAN”にいたるきっかけの一つにファッションやビューティ、編集コンテンツやタイアップ、プリントやウェブ、さまざまなソーシャルコミュニケーションツールなど、幅広いアウトプットが増えたことがあります。案件内容、進行、リソース、役割分担など、これまではプロジェクトを達成するための整理されるべき要素が散らかり、連携が困難でロスが多かった。これらが解決できれば、高い費用対効果が期待できると思います。また、部署の垣根を越えてプロジェクトごとにチームを結成できると、刺激し合い、新しい発見や学びを得て、モチベーションを上げるきっかけになる。デザイン部は発注を受ける際、最小限の情報でデザインを制作していましたが、 今後は“ONE WWD JAPAN”の一員としてキックオフからプロジェクトにかかわることにより、大きな流れや価値を理解し、プロジェクト自体への責任を感じ、クオリティーの高いデザインを制作できるようになると思います。

永松:「WWDジャパン」はファッションやビューティを学ぶ多くの学生たちに教材としても読んでいただいています。若い世代にはファッションやビューティに携わることの魅力をもっと伝えたいし、多様で多才な人材がどんどん業界に希望をもって飛び込んできてほしい。今回のパンデミックを経て、教育現場の方々もデジタル化の必要性と活用について試行錯誤されながら、新しい人材教育の形を探られていると思います。われわれも今、デジタル領域でさまざまなトライをしているので、一緒にできることや微力ながら貢献できることがないかと考えています。若い世代から得られる創造力や視点、感性は財産です。これを業界の皆さんと共有することも「WWDジャパン」のメディアとしての役割だと思いますし、なにより業界の未来を創ることだと思っています。

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