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連載 小島健輔リポート

上場アパレル6社は過剰在庫をどう処分したか コロナの打撃を検証【小島健輔リポート】

 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。アパレル企業の2020年3〜5月期決算が発表された。新型コロナウイルスによる臨時休業によって多くの企業が強烈な打撃を受けたわけだが、とりわけ注目されるのが在庫の扱いである。

 コロナ禍に直撃された3〜5月期の決算を上場アパレル各社が発表したが、売り上げの減少や営業損失、減損による株主資本の毀損はともかく、行き場を失った在庫はどう処理されたのだろうか。値引きして叩き売るか次期へ持ち越すか、資金繰りと損益を両にらみした上場各社の決断を探ってみた。精査したのはファーストリテイリング、しまむら、良品計画、アダストリア、オンワードホールディングス、TSIホールディングスの6社。変則決算の三陽商会は前年同期比較不能で外した。ユナイテッドアローズとワールドは4〜6月期決算なので発表が8月5日になる。

3〜5月期はファーストリテイリングさえ赤字に

 コロナ休業が直撃した3〜5月期、前年同期からの売り上げ減少はTSIホールディングスの49.4%減が最も大きく、40.9%減のアダストリアと39.4%減のファーストリテイリングが僅差で続いた。オンワードホールディングス(HD)は34.9%減、良品計画は29.9%減で、休業が最大80店舗(全1432店)にとどまったしまむらは19.9%減に踏みとどまり、6月は既存店が27.0%も伸びた。

 営業利益は全社赤字だったので減少率での比較はできないが、赤字額が最も大きかったのが64億4500万円のTSIホールディングスで、47億5800万円のアダストリア、43億5300万円のファーストリテイリングが続き、しまむらは12億8100万円と最も損失が軽微だった。前年同期からの落ち込みはファーストリテイリングの791億円がケタ違いに大きく、良品計画の135億5300万円、アダストリアの99億7900万円、TSIの83億5600万円、しまむらの68億7300万円、オンワードHDの50億5200万円と続く。

 休業期間中の人件費などを減損処理した企業もあり、四半期赤字はファーストリテイリングの119億6900万円にTSIの104億9400万円が大差なく続き、やはりしまむらが12億2100万円と最も軽微だった。前年同期からの落ち込みも営業利益同様、ファーストリテイリングが610億3200万円と突出して大きく、TSIの129億5300万円、良品計画の112億4400万円が続き、オンワードHDの40億5900万円はしまむらの50億1400万円より小さかった。前年同期が高収益だった企業の落ち込みが目立つのはやむを得まい。

 とはいえ、これを額面通りに受け取るのはアパレル経営の門外漢か素人で、長期休業で行き場を失った在庫の処理如何で決算損益は大きく動く。期中に値引き処分したり評価損を計上すれば赤字が大きくなるが、来期に持ち越してしまえば今期の赤字を抑制できるし、その赤字を丸々来期に先送りするわけでもない(今期末のセール販売より来期のプロパー販売の方が粗利益率が高い)。

 その分かれ目は商品の性格と資金繰りで、ベーシックな商品は来期に持ち越しても売れるが、トレンド性が強い商品は来期に持ち越しても売れる可能性が低く、鮮度が落ちれば価値も急激に落ちる。それはバッタ屋の買い取り相場を見ても明らかで、トレンド品は期中に放出しないと二束三文になりかねないが、ベーシック品の値落ちはそこまで激しくない。資金繰りに余裕があれば来期に持ち越せるが、余裕がなければたたき売ってでも換金するしかない。取り上げた6社の在庫処分率には大差があり、商品の性格と資金力の格差をストレートに反映している。

各社は過剰在庫をどう処理したか

 売上原価の前年同期からの減少額を発生した余剰在庫と見れば(正確には売り上げ減少額を原価換算する)、実際に増えた在庫との差額から買掛金の減少額を相殺すると、処分するか先送りすべき過剰在庫が推計できる。実際に値引き処分された在庫の推計は難しいが、前年同期からの売上原価率の上昇分が過剰在庫の値引きロスに見合うと見て、平均33%オフで処分されたと仮定して計算すれば、過剰在庫の何%が処理されたか大まかだが推計できる。

 ファーストリテイリングは買掛金を抑制せず増やしており、原価率も逆に0.4ポイント下がっているから(前年同期の仕入れ抑制とロスが大きかった)、コロナ休業による過剰在庫のほとんどは当四半期中には値引き処理せず、次四半期(6〜8月)以降に先送りしたと推計される。持ち越しても売れるベーシック商品が大半であることに加え、今四半期で120億円近い損失を出しもなお、1兆円以上の純資産が積み上がっており、在庫の換金を急ぐ必要もなかったのだ。

 ダメージが最も軽かったしまむらは計算上の過剰在庫から実際の在庫増価額と買掛金の減少額を差し引くと17億4400万円しか処理する余剰在庫がなく、原価率の1.7ポイント増加で100%処分が済んでいる。良品計画は計算上は381億円余も処分すべき過剰在庫が生じたが、原価率の3.5ポイントの上昇ではその11.6%しか処分できず、余剰在庫の9割近くを次四半期以降に先送りしたと推計される。ベーシックな商品がほとんどだから的確な判断だが、資金繰りはタイトだったはずで、業績不振の米国子会社を切り捨てている。

 オンワードHDも85億円の過剰在庫が生じたが、その18%ほどしか期中に処理しておらず、82%は次四半期以降に先送りしたと推計される。資金繰りは良品計画ほどタイトではないが余裕があるわけでなく、銀行団の融資枠を200億円積み増している。

 今四半期中に過剰在庫の多くを処理したのがアダストリアとTSIだ。アダストリアは50億円近い過剰在庫が生じたが、原価率を5.2ポイントも切り上げて49%を今四半期中に処理したと推計される。資金繰りには余裕があったが、トレンド性の強い商品(あるいは初夏物)は期中に処分し、ベーシックな商品(あるいは盛夏・晩夏物)は次四半期以降に先送りと割り切ったようだ。TSIは70億円近い過剰在庫が生じたが、トレンド性の強い商品が大半であるため、原価率を15.6ポイントも切り上げて86%を今四半期中に処理したと推計される。

資金繰りは必要運転資金に左右される

 各社の抱えた過剰在庫のうちいかほどを今四半期中に処分し、いかほどを次期以降に先送りしたか、その判断を左右したのが商品の性格に加えて各社の資金繰りだった。資金繰りにゆとりがあるか逼迫するかを見る指標はいくつもあるが、私は現実的な指標として「必要運転資金とそれが純資産に占める比率」を重視している。

 必要運転資金は「運転資金回転日数×年間売り上げ÷365」で算出され、運転資金回転日数は「(A)売上債権回転日数+(B)棚資産回転日数−(C)買掛債務回転日数」で決まる。要は売上金の回収と在庫の回転が速く、買掛金の支払いが遅いほど運転資金は少なくて済む。その改善策は7月14日の当リポートで詳説したから、ぜひとも読み返してもらいたい。

 今回取り上げた6社のうち、最も運転資金回転日数が長く資金負担が重いのが良品計画で、131.4日も要して1579億5000万円もの運転資金を必要としている。それが20年5月末純資産に占める比率は80.1%にも達しており、2000億円近い純資産があっても資金繰りにはそれほど余裕はない。オンワードHDも70.1日を要して476億5400万円の運転資金を必要とし、20年5月末純資産に占める比率は58.7%と高い。TSIも61.7日を要して287億3000万円の運転資金を必要とするが、20年5月末純資産に占める比率は35.3%とオンワードよりふた回り軽い。

 逆に運転資金回転日数が短く資金負担が極端に軽いのがアダストリアで、たったの9.3日しか要さず、年商2200億円超の企業にして56億6000万円しか運転資金を必要としていない。もっと上手なのが「ザラ(ZARA)」のインディテックス(INDITEX)で、20年1月期では運転資金回転日数がマイナス33.6日で、29億ユーロ(約3130億円)もの回転差資金を手にしている。コロナ禍の20年2〜4月期でもマイナス63.9日だったから、コロナ休業によるダメージを相当カバーしたと推察される。逆にH&Mは19年11月期で108.3日も要して690億3800万SEKもの運転資金を必要としており、コロナ禍のダメージはインディテックスの比ではなかった。

 ファーストリテイリングは棚資産回転が147.9日と長いため運転資金回転も92.7日と相応に長いが、棚資産回転が159.9日と大差ない良品計画の運転資金回転131.4日より38.7日も短いのは商社機能活用のメリットと推察される。5月末純資産に対する運転資金比率は57.6%と良品計画の80.1%より格段に軽いが、しまむらの15.0%、アダストリアの10.8%と比較すれば改善の余地は大きい。

 必要運転資金は決算数値からの計算値に過ぎず、売り上げの起伏が激しいと必要資金が計算値を超えてしまうし、コロナ危機のような急激な売り上げ減少に直面すれば大幅に不足してしまう。日頃から運転資金回転日数の圧縮に努め、毎月の売り上げを平準化するよう緻密で無理のないMD展開を図るべきだろう。

小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。近著は店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)

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