アメリカを拠点に、世界40カ国で展開するグローバル経済誌「フォーブス」の日本版「フォーブス ジャパン(Forbes Japan)」は、紙面やウェブ、イベント、そして外部メディアの支援など多角的なビジネスを行っている。特に日本でのビジネスは世界各国の「フォーブス」の中でも、一つの成功例として評価されているという。日本版を発行するリンクタイズの角田勇太郎・取締役社長は同誌のビジネスモデルについて「部門横断でありとあらゆるアセットを使い、ニーズによって組み替えながら、各クライアントに合わせたソリューション型のスタイルでビジネスを行なっている。これは紙媒体の販売から始まった、縦割り型の構造の出版社とは大きく異なる」と語る。(この記事はWWDジャパン7月27日号の雑誌・メディア特集の記事を加筆したものです)
また、同社は、2019年8月にメンズ誌「オーシャンズ(OCEANS)」を発行するライトハウスメディアを傘下におさめ、ライフスタイル領域への拡大も図っている。このことについて角田社長は「『フォーブス ジャパン』が立ち上がって、今年で6周年となるが、企業としての成長曲線を描いていくためには、『フォーブス ジャパン』がこれまで培ってきたネットワークやノウハウなどを使い、新しいことに取り組まないといけないと考えていた。そんな中で、『オーシャンズ』から、デジタル戦略で相談や協業の話があった。お互いにいろいろと議論を重ねていく中で、ブランドイメージやユーザー像、コンテンツなどの面で『オーシャンズ』と『フォーブス ジャパン』は相性がよいのではないかという結論に至った」と経緯を話す。
しかしなぜ、提携や協業ではなく、子会社化する必要があったのか。「『よくライトハウスメディアが経営難で、それを買い取ったのか?』と聞かれるがそうではない。『オーシャンズ』は14年間、出版社のビジネスモデルでしっかりと利益を出していた。現在も紙媒体の定期購読者を2万人も抱えている。ただ、デジタルが経営課題であり、かつ伸び代だった。『オーシャンズ』が今後、成長するためには、デジタル戦略を推進するパワーが必要不可欠だろう、と話し合った末、提携や協業といった分離状態よりも、経営の指揮をわれわれが取った方が『オーシャンズ』としてもより拡張しやすいだろうという話になった」と説明する。
「オーシャンズ」と「フォーブス」の相乗効果
その後は「オーシャンズ」の働き方やKPIの見直しなどを徐々に進め、1月にはオフィスを統合した。「手前味噌だが、『オーシャンズ』のスタッフは本当にいい人たちばかりで、働き方や進め方が変わっても、心がブレるような人がほとんどいなかった。今年は“デジタルブースト”を目標に掲げ、『フォーブス ジャパン』のノウハウやリソース、アセットを注入している。実際にPV数も過去最高数を更新しているほか、動画の制作能力やイベントの実施体制など、準備も整っている。今年の下期は仕掛けていきたい。リンクタイズとしても、『フォーブス ジャパン』と『オーシャンズ』とを横断した広告の提案などを始めている。ビジネス誌で“オン”の側面が強い『フォーブス ジャパン』と、余暇、つまり“オフ”の部分を提案できる『オーシャンズ』との組み合わせで、より立体的な広告になることができると考えている」と期待を見せる。
ただ、拡大を続けている同社にも、コロナ禍の影響はもちろんあった。販売部数への影響は軽微だったものの、6月発売の号は「フォーブス ジャパン」「オーシャンズ」共に発行見送り。3〜5月は広告出稿の突然のキャンセルが起きたり、リアルイベントの開催が不透明になったりした。ただ、角田社長は前向きだ。「7月発売号はオンラインでの取材や、紙面づくりの大きな見直しを行い、リモートでの校了が可能となった。現在はコロナ後にも生かせる編集スタイルを模索中だ。また、イベントに関しても年内は全てオンラインで実施すると決め、さまざまな取り組みを行なうことで、既にいくつかのスポンサーもついている。その中で、リアルでやるべきこと、オンラインでやるべきことが見えてきた。コロナ後はリアル、オンライン双方で複合的にイベントができるのではないかと考えている」。
「フォーブス ジャパン」としては今後、「グローバルとの連携の強化」と「新規ビジネスの開拓」に力を入れていく計画だ。「『フォーブス』のグローバルとしての強みを活用し、イベントやデジタル領域で複数国を横断したようなプロジェクトを考えている。実際に日本でもコロナで中止になってしまったが、中国・蘇州と大阪でコラボしたイベントを企画していた。新規ビジネスでは、『フォーブス』からの派生ビジネスや、他メディアのDX(デジタルトランスフォーメーション)の支援の強化を考えている。派生ビジネスでいうと、昨年スタートした『フォーブス ジャパン キャリア』が好調で、今年は2〜2.5倍の成長を見込んでいる。今後もいろいろと仕掛けていきたい。DXの支援では、“modify”というデジタルメディアのためのCMSを35メディアに導入している。今後は導入先の拡大はもちろん、新たなプロダクトの開発も行なっていくつもりだ」。