ファッション

時計業界の変動止まらず 9月に上海、4月にバーゼルで新見本市

 スイスの時計見本市「ウオッチ&ワンダー ジュネーブ(WATCHES & WONDERS GENEVA)」(旧「S.I.H.H.」)が9月9~13日の期間、中国・上海で初開催される。「カルティエ(CARTIER)」「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」「A.ランゲ&ゾーネ(A. LANGE & SOHNE)」「IWC シャフハウゼン(IWC SCHAFFHAUSEN)」「ジャガー・ルクルト(JAEGER LECOULTRE)」「オフィチーネ パネライ(OFFICINE PANERAI」「ピアジェ(PIAGET)」「ボーム&メルシエ(BAUME & MERCIER)」「ロジェ・デュブイ(ROGER DUBUIS)」「パルミジャーニ・フルリエ(PARMIGIANI FLEURIER)」「パーネル(PURNELL)」の11のブランドが参加する。

 「ウオッチ&ワンダー上海」は、新型コロナの影響で中止されたリアルイベントの代わりに4月25日にデジタル開催された内容を、「厳格な安全衛生対策を順守した上で、ウエストバンドアートセンターの2つのメインホールを使い、あらためてバイヤー、メディア、顧客に見せる」スタイルで、パイロットウオッチやビンテージウオッチのトレンドについてのセミナーや、機械式ムーブメントについて解説するワークショップ、出展ブランドから厳選したテクノロジーを紹介する“ザ・ラボ”などの催しを準備する。また、「その模様はデジタルプラットフォームやSNSを通じても伝える」という。

 中国はラグジュアリーや宝飾同様、時計にとっても一大市場であり、「ウオッチ&ワンダー」は2013年から15年まで香港で開催されていた。「WWDジャパン」委嘱ジャーナリストの渋谷ヤスヒトは、「上海が中国発展の象徴であること、現在の香港の政情不安、中国本土へのアピールという点を考えれば、開催地決定は納得がいく」と話す。

 一方で、世界最大の時計見本市「バーゼル・ワールド(BASEL WORLD)」を主催するMCHグループは、「アワー・ユニバース(HOUR UNIVERSE)」という新たな見本市を21年4月にスイス・バーゼルで開催する。MCHグループによると、「『バーゼル・ワールド2021』の開催を見送ったことで、われわれは全ての知識と来場者からの声を新たなプラットフォームの誕生に注ぎ込むことができた。年間を通じてデジタル上でイベントを開催する」という。

 「バーゼル・ワールド」はコロナショックをきっかけに主要ブランドが次々と離脱し、事実上崩壊。21年の開催中止を発表していた。4月はライバルイベントである「ウオッチ&ワンダー ジュネーブ」が開催を予定しており、「アワー・ユニバース」はこれにぶつける格好での開催となる。MCHグループは、「これによって世界のバイヤーやメディアはスイスへの渡航を一度にまとめることできる」と話すが、20年のキャンセルに伴う出展社への出展料返金作業も滞った中での今回の「アワー・ユニバース」開催宣言は、不誠実で場当たり的とも言える。

 渋谷はMCHグループの内情について、「メディア王ルパート・マードック(Rupert Murdoch)の次男ジェームズ・マードック(James Murdoch)が率いる投資会社ルパ・システムズ(LUPA SYSTEMS)による、MCHグループの1億450万スイスフラン(約120億1750万円)の救済策が8月の同社株主総会で決定される予定だ」と話す。この救済策の結果、ルパ・システムズは「MCHグループの全株式の30%から最大44%を取得し、おそらく筆頭株主になる。MCHグループはバーゼル・シュタット準州などの地方自治体が主導権を握る半官半民会社だったが、これによって性格が一変するだろう。そしてルパ・システムズの狙いが、『バーゼル・ワールド』とは対照的に、アートの売買で収益性の高い『アート・バーゼル(ART BASEL)』であることは明白だ。出展料が高いなど、『バーゼル・ワールド』同様の批判はあるが、アート見本市の最高峰であり、富裕層ビジネスで最も注目されているイベントの一つだ」と説明する。

 世界最大級のアート見本市である「アート・バーゼル」とスイス最大の銀行であるUBSが発表した「THE ART BASEL AND UBS GLOBAL ART MARKET REPORT 2020」の推計によると、アート市場の規模は641億ドル(約6兆7946億円、前年比5%減)で、国別ではアメリカがシェア44%で推定283億ドル(約2兆9998億円)、英国が同20%で127億ドル(約1兆3462億円)、中国が同18%で117億ドル(約1兆2402億円)と続く。その中心にあるのがアート見本市であり、アート見本市全体の19年の売上高は166億ドル(約1兆7596億円、同約1%増)に達した。

 さらに渋谷は、「ルパ・システムズは『アワー・ユニバース』内に認定中古市場をつくるのだと思う。世界的な同市場の創設は時計業界の課題であり、中止となった『バーゼル・ワールド2020』ではオークションにかけられる商品をいち早く見せる試みも予定されていた。MCHグループにとって起死回生のビジネスであり、『アワー・ユニバース』が“新たな時計ビジネスの場”となることを期待する」と述べた。

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