ファッション

新型コロナウイルスで変わった米国の世代別の美容に関する消費動向

 新型コロナウイルスは、あらゆる世代の消費者の美容に対するアプローチ方法を変えた。「世界的な健康危機と、全人種に対する真の公平性を求める社会的な動きの影響で、購買方法から使用するブランドに期待することまで、全てが変わった。新型コロナウイルスの感染拡大により、人々が買うものや買う場所、新ブランドに対する関心にも影響を与えており、ビューティカテゴリーも例外ではない」とマーケティング・リサーチ会社イプソス(IPSOS)のクリストファー・ハル (Kristopher Hull)=シニアバイスプレジデント兼シニアクライアントオフィサーは語る。

 世界中で外出自粛が解除される中、人々が容姿を気に掛けることは依然重要のようだ。マーケット調査会社のミンテル(MINTEL)が米国で世論調査を行ったところ約60%は容姿に対して、何を優先するかは変わらないと回答し、美容製品にお金をかける額についても変わらないと答えた人は50~60%に上った。

 ラリッサ・ジェンセン(Larissa Jensen)=NPDグループ(NPD GROUP)バイスプレジデント兼ビューティインダストリーアドバイザーは、米国市場について「スキンケアは、業界全体のほぼ半分の割合を占めるまでに成長している。これは過去に前例がないほどだ。消費者とのエンゲージメント率は今もなお高いままだ」と、言及している。しかし、そのエンゲージメント率の度合いは世代によって大きく異なる。ここでは、新型コロナウイルスで変わった世代ごとのビューティの消費動向について探る。

ジェネレーションZ

 アメリカでの新型コロナウイルス流行の間、メイクアップの売り上げは減少したジェネレーションZだったが、「メイクをあまりしないことが要因の大半だ」とジェンセン=バイスプレジデント兼アドバイザーは指摘する。「若い消費者はオンラインで買い物をする傾向にあるという事実と、新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンラインが消費者の唯一の販売チャネルとなったことを踏まえると、若い世代の潜在的な好みが分かる」と続ける。さらに、多くのジェネレーションZは、ロックダウンにより18歳や21歳の誕生日やプロム、卒業式などといった一世一大のイベントを自粛せざるを得なかった。「『どこへも行く場所がないのに、なぜオシャレをするのか?』と思っているだろう」。

 しかし、「不振の世代には、ブランドと接点を持つことで彼らを刺激して、さらには楽しませるチャンスがある」とキャサリン・ビショップ(Kathryn Bishop)=ザ フューチャーラボラトリー(THE FUTURE LABORATORY)フォーサイト・エディターは語り、「店頭で体験できることを模倣するのではなく、テクノロジーを活用して、バーチャルリアリティーやゲームなどを提供すれば、テクノロジーに対して関心の高い若い世代に響くと考える」とマイケル・ノルト(Michael Nolte)=ビューティストリームズ(BEAUTYSTREAMS)クリエイティブ・ディレクターは言う。

 心身ともに健康であることも重要な焦点だ。イプソスが米国の消費者を対象に新型コロナウイルスの世界的な流行以来、何がより重要なのかを調査したところ、「ジェネレーションZとミレニアル世代の両方にとって身の安全が最も重要であり、約40%の人が新型コロナ以降、それをより重要視していると」とハル=シニアバイスプレジデントは述べた。新型コロナ以前から、ジェネレーションZはブランドメッセージやマーケティングをSNSで発信する事に対してオープンで、彼らは『#BLM(黒人の命は大切)』運動などの人種抗議活動の際に、一番声を上げて変革を求めた世代だ」とサラ・ジンダル(Sarah Jindal)=ミンテル グローバル ビューティ&パーソナルケア部門 アソシエイトディレクターは言う。

ミレニアル世代

 イプソスによると、米国がロックダウン中、1989~1995年に生まれたミレニアル世代のうち約15%が新しい美容製品を試したという。中でもクレンジングとフェイシャルケアが人気で、「彼らが新製品を試した割合は、ジェネレーションX(1960年代初頭~1980年代に生まれた世代)やベビーブーム世代(1946~1964年生まれの世代)より3倍も高かった。新しいブランドを試したことがある人の約50〜66%は、新型コロナウイルス収束後もそのブランドを使用続けたいと思っているはずだ」とハル=シニアバイスプレジデントは言う。

 ミレニアルズの考え方が精神的な健康に傾倒していることからも、ブランドはセルフケア製品やサービスにもっと力を入れるようになるかもしれない。例えば、英国のヘアサロンのハーシェソンズ(HERSHESONS)の場合、新型コロナウイルスの世界的な流行で営業停止を余儀なくされたが、顧客のためにZoomを使用したチャットサービスを導入した。予約したミレニアル世代の多くは、髪に関するアドバイスを求めていたのではなく、代わりにヘアスタイリストとの会話を望んでいた。このケースはビューティやウェルネスブランドの将来のサービスの可能性を示唆している。ミレニアル世代は美容に関して「ブランドを予約したり、少人数間で新しいアイテムを試したりと特別な体験を求めているのかもしれない」とノルト=ビューティストリームズ クリエイティブ・ディレクターは言う。

ジェネレーションX〜ベビーブーム世代

 新型コロナウイルスの世界的な流行中、ジェネレーションX世代は普段から使っているような、信用できるブランドに頼る傾向にあった。「彼らは信頼するブランドの美容部員や口コミを信頼している。ジェネレーションXにアプローチしたいブランドは、この世代の口コミをどうやって利用するかを考える必要がある」とキャサリン・ビショップ(Kathryn Bishop)= ザ フューチャーラボラトリー フォーサイト・エディターは言う。

 イプソスは米国の高齢消費者に、新型コロナウイルスの世界的流行以来、彼らにとって何がより重要なのかを調査したところ、引き続き身の安全が重要であることに加えて、身体の健康にも言及していたという。ミンテルによると、新型コロナウイルスの世界的流行が続く中、ベビーブーム世代は新型コロナ感染のリスクをますます気にするようになった。「特にジェネレーションXとベビーブーム世代にとって、このリスクと不安は長期にわたって続くことだ。彼らがどれだけ早くこの状況から抜け出し、“普通”の生活に戻るための準備に影響を与えるだろう。 "小売りやブランドの観点から、彼らのような消費者にどうやって対応していくかを考えることは、本当に重要になってくるだろう」とビショップ= ザ フューチャーラボラトリー フォーサイト・エディターは話す。

 イプソスによると米国のベビーブーム世代は、新型コロナの世界的な流行の中、高級美容製品を購入した人の割合がそれまでの約14%から約44%まで上昇した。38%のベビーブーム世代、53%のジェネレーションX、約26%のジェネレーションZとミレニアル世代に見られるように特に年齢層が高い消費者は、オンラインで購入したものを今後も継続したい意向をみせているが、それでもこの年齢層にとっては実店舗が主要な購買チャネルである。

 年齢層が高いベビーブーム世代やそのなかでも比較的高齢な人は、しばしほかの世代と孤立している故に、買い物することは彼らにとって他者と関りを持つ意味がある。コミュニケーション能力に優れたプロの販売員の接客は、ただ何かを販売するだけでなく、交流することでもある。それは実店舗での購買において、本当の付加価値を持つことになるだろう」とノルト=ビューティストリームズ クリエイティブ・ディレクターは言う。

 新型コロナウイルスの世界的な流行以前から、ビューティのデジタル領域の発展が目覚ましい。SNSや動画配信を通してユーザーとコミュニケーションを図ったり、AR(拡張現実)によるコスメのシミュレーションができたりとさまざまなコンテンツを打ち出してきた。一方で外出自粛の影響で人との関りが薄れていくことに物足りなさを感じている世代も多く、デジタル分野の親和性が高いミレニアル世代も例外ではない。収束の目途が見えない未曽有の状況で新たな取り組みを余儀なくされる中、消費者の動向は原点回帰的な動きが強まっているようだ。

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