ケヴィン・パーカー(Kevin Parker)を中心としたオーストラリアのバンド、テーム・インパラ(Tame Impala)は、酩酊(めいてい)感のあるフレーズにダンスなどの要素を取り入れたサイケデリックミュージックを武器に世界中で人気を獲得してきた。そしてついには、ロックやインディーシーンが下火になっていた2010年代に、世界各国の主要フェスティバルでヘッドライナーを務めるまでに成長した。今年2月に5年ぶりとなるアルバム「The Slow Rush」をリリースしてさらに注目が集まる中、ヘッドライナーとして出演予定だった「フジロックフェスティバル '20(FUJI ROCK FESTIVAL '20)、以下、フジロック」は残念ながら来年に延期となってしまったが、来年の再登場を期待しつつ彼の思考の一端に迫った。
WWD:そもそもテーム・インパラというバンド名の由来は何でしょうか?
ケヴィン・パーカー(以下、ケヴィン):アフリカのインパラという動物が由来だよ。遠くに棲むなじみのない野生動物と、一瞬だけど何か刺激的なつながりを持てるんじゃないかという、単純な思いつきだった。
WWD:レコーディングではほとんどの楽器をご自身で演奏されていますが、最初に手にした楽器は何でしたか?
ケヴィン:11歳のときに習い始めたドラムだよ。10代の子にはよくあることだと思うけど、音楽は自分を表現するこれ以上ない方法だったんだ。僕はあまりスポーツをするタイプじゃなかったし、グランジを聴いたりはしていたけど没頭できるものがなかったから、ドラムは新鮮に感じられたね。
WWD:いつ音楽家になることを決心したのでしょうか?
ケヴィン:まさにドラムを始めた瞬間だったよ。自分のアイデンティティーを発見して、「僕はこれをやりたい」と確信したんだ。それに若かったし、ロックスターになることに憧れていたからね(笑)。
WWD:当時憧れていたアーティストは?
ケヴィン:ニルヴァーナ(Nirvana)やシルバーチェアー(Silverchair)、スマッシング・パンプキンズ(The Smashing Pumpkins)だね。フレンチデュオのエール(Air)もよく聴いていたし、レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)みたいなロックンロールも好きだったよ。
10代のときにたくさん音楽を聴くうちに、自分の好きなテイストが少しずつ分かってきたんだ。スマッシング・パンプキンズも長尺でサイケデリックな楽曲を作っているよね。僕は彼らのそういう曲が好きで、それが今の僕のスタイルになったんだと思う。
WWD:楽曲制作はいつ頃始めたのでしょうか?
ケヴィン:ドラムを始めて少し経った頃には取り組んでいたよ。でも、ソングライティングと呼べるレベルではなかったと思う。ドラム&ベースをやってみたり、両親のキーボードを借りて自分でレコーディングしていたけど、当時はギターの弾き方も分からなかったから、作った曲を友達に聴かせてみてもあまりうまく伝わらなかったな(笑)。
WWD:楽曲制作の際、世相を反映することは意識されますか?
ケヴィン:この地球に住む人類の一人としてもちろん世相を反映していると同時に、僕は音楽を目の前の世界から逃避させてくれるものとして作っている。音楽には自分が世の中の一人だと思わせてくれる“地球に生まれた子どもにとっての楽曲”と、反対に世の中から脱出するための“宇宙に消える楽曲”の2タイプがあって、テーム・インパラの音楽は後者だと思っているよ。
WWD:あなたの曲は初期から一貫してサイケデリックだと言われていますね。
ケヴィン:意識的にサイケデリックミュージックを作っているのではなく、僕の脳内で鳴り響く音楽をそのまま表現した結果、自然とそうなったんだと思う。僕にとってサイケデリックミュージックは“脳内の音楽”なんだよ。サイケデリックであればあるほど、作る人の脳内のBGMに近づいていく。僕はそういう音楽が好きだし、自分なりの感情表現なんだ。
WWD:ライブでは、あなたの頭の中の再現とバンドメンバーとの化学変化のどちらを重視していますか?
ケヴィン:両方重視しているね。バンドメンバーは友達だから、一緒にいる時間は大事にしたい。昔はみんなでシェアハウスに住んでいたし音楽が共通言語みたいになっていたけど、今はお互いそれぞれの家があってなかなか会えないから、一緒に演奏する時間は神聖で大切だよ。同時にステージ前の人に楽しい時間を過ごしてほしいし、僕はみんなを驚かせることが好きだし、みんなを楽しませることにも集中しているよ。
“時”とともに変化する人間の記憶を描いた楽曲群
WWD:4thアルバム「The Slow Rush」の楽曲は、サイケデリックがベースにありながらも、ジャンルでくくることがより難しくなったと感じました。ご自身では現在の音楽性をどのように定義づけているのでしょうか?
ケヴィン:僕の音楽のジャンルは分からないね。もちろんいい意味ではあるけど、アルバムを完成させるたびに「この作品はナンセンスだ」と感じるんだ——もちろんいい意味でだけど。僕の音楽は大衆的じゃなくて、真夜中の3時に踊りながら聴くような、ちょっとイカれた世界観にどっぷりハマるためのものだと思っているよ。
でも実はポップミュージックも好きなんだ。だからこれまでもポップな要素とイカれた要素を融合させることも試してきた。それが僕の脳の中の音楽でもあるからね。あらためて「The Slow Rush」を聴き直すと、わりと大衆的な曲もいくつかあるかな。
WWD:「One More Year」「Lost In Yesterday」などの収録曲名が象徴するように、アルバムのテーマは“時”でした。前アルバムから5年という“時”を経て、楽曲制作に変化はありましたか?
ケヴィン:同じアプローチをしたくないから、制作の仕方は毎回違うよ。しかも新しいアルバムを作ろうと思うたびに、前作の制作過程やテクニックを怖いくらいに忘れてしまっているんだ。意識的なのか無意識的なのかも分からない。結果として、毎回異なるアプローチをせざるを得なくなるわけ。
“時”というテーマにはずっと引かれていたんだ。子どもの頃、周りの環境が目まぐるしく変化していたこともあって、僕にとって“時”は自分がコントロールできない未来や、変化を恐れないためのセラピーのように感じることもあるんだ。音楽にも似た力を感じるよ。
WWD:“時”というテーマには着想源やきっかけとなる出来事があったのでしょうか?
ケヴィン:特別何かがあった訳ではないんだ。一つ言えることは、人生は前進している、時間は進んでいるということかな。
WWD:「Lost In Yesterday」の“Eventually, terrible memories turn into great ones(ひどい記憶もやがて素晴らしいものになる)”という前向きな歌詞が印象に残りました。
ケヴィン:そのフレーズは昨年、数年ぶりにパリに行って街の中を歩いているときに思いついたんだ。その前にパリに行ったときは、自分の周りで何が起こっているのか把握できなくて、一言で言うとダークな時期だった。でも時が経ったおかげでそのダークな時期さえもいとしくて懐かしく思えたんだ。人間ってそういうところがあるよね。今回のアルバムの中で特に好きなフレーズの一つだよ。
WWD:MVの一つの空間をぐるぐると同じカメラワークで繰り返し撮ることで、登場人物が変化していく構成が印象的でした。
ケヴィン:このMVを制作したチームが楽曲の意味をガッチリつかんでくれたよ。人間の記憶は正確じゃない。記憶は時が経つとロマンチックに脚色されたり、その逆もあったりと変化するからね。その理由がどうであれ、変化することは事実だから。
ロックの再燃はあるか?
WWD:10年代はヒップホップとEDMが音楽シーンを席巻し、ロックは下火といわれましたが、今後どうなっていくと思いますか?
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ケヴィン:そのことについてよく考えるけど、分からないよ。ロックはオールドファッションであることが問題なのかもね。今でもロックが好きな人は過去の古き良きロックを思い描いていると思うし、ミュージシャンも新しい提案をしていないのかもしれない。1960年代に間違いなく最も“ラウド”だったロックが、今では最も“ラウド“ではないんじゃないかな。ヒップホップフェスやEDMフェスのほうが、ロックフェスよりも“ラウド”だよね。ロックは“ラウド”でイカれていて反抗的なアイデンティティーを失ってしまったのかもしれない。
WWD:そのような状況の中でロックの復活はあると思いますか?
ケヴィン:うん、あると思う。でもそのときは単なる“リバイバル”じゃなくて、新しくてエキサイティングであることを願っているよ。リバイバルってことは、まるで救急車に助けてもらっているみたいに一度死んでいることを意味するから。だからこそ誰かがロックに新しく炎を燃やさないといけないね。
WWD:「フジロック '13」に出演し日本のファンも魅了しました。そのときの思い出があれば教えてください。またヘッドライナーとして再出演する意気込みをお願いします。
ケヴィン:自然の中で目を覚まして最高の気分だったよ。東京のような大きい街もいいけど、なかなか見ることができない日本の一面を体験できた。日本は僕の好きな国の一つだから、初めて「フジロック」でヘッドライナーを務めると聞いてとてもうれしかったんだ。「ロラパルーザ(Lollapalooza)」みたいな由緒あるフェスの一つだし、僕が“フェス”って言葉を知る前から「フジロック」という名前は聞いたことがあったくらいなんだ。とても楽しみにしているよ。