人との接触や新たな交流を避け、ライター業の打ち合わせ、取材はオンラインのみとなった。初対面の相手とZoomでインタビューし、休業中の店舗が多いためリサーチもネット上で。今までにない方法で記事をまとめるという作業が続いた。
プライベートではその場で出向くフィットネスの機会が皆無になった。週に数回通っていた空手道場は3月の時点で閉館した。ジムやヨガスタジオに定期的に通っていた友人たちも、体を動かす場がなくなったと途方に暮れていた。健康志向の高い層にとって日々のフィットネスは娯楽ではなく、必要不可欠なメンテナンスだからだ。体を動かさないとストレスがたまり、気持ちも落ち込む。さまざまなイベントがキャンセルされ、スタジオ閉鎖を余儀なくされたフリーランスのトレーナーや経営者にとっては経済的な大打撃だった。
自宅にいながら継続できるオンラインレッスンを発信
そんな中、いち早く、オンラインによるレッスンを導入したフィットネス関係者も多かった。
たとえば元世界陸上日本代表のマラソンランナー市河麻由美氏は、ランナーのためのピラティス講座をZoomで立ち上げ、スタジオと各受講者の自宅をつないで発信した。市河氏はマラソン大会のゲストランナーとしても出演するトップランナーだけに、30分1500円でセミプライベートレッスンが受けられると話題になった。
ランニングコーチ、大角重人氏はオンラインで「マラソンの学校」を開設。睡眠や栄養学など座学の講座や、Zoomでつながりながらそれぞれのコースでともにインターバル走に挑むトレーニングなどを実践し、“一体感”を共有できる場を提供した。お灸やケアなどの座学の講義は今も継続して人気だという。
またウェイトリフティングの日本代表、プロバスケット選手、タカラジェンヌやモデルなどさまざまな経歴をもつインストラクターがクラスを持つ京都の「テラスヨガスタジオ」では自粛期間中、毎日無料でレッスン動画を配信。日替わりでインストラクターがインスタライブで発信した。もともとはスタジオでレッスンを継続できない会員向けフォローではあったが、誰でも受講が可能だったので新たなファンの獲得にもつながった。
かくいう私もその一人だ。「体が硬いのでスタジオ内では気後れする」「あのぴったりしたウエアが恥ずかしい」とヨガには苦手意識があったのだが、自分の姿を他人に見せないインスタライブなのでビギナーでも気軽に参加でき、自宅なら攻めたヨガウエアにも挑戦できる。朝10時という決まった時間に体を動かす習慣ができたのも、自粛期間中にはいいリズムとなった。
インスタライブではインストラクターへの質問などが書き込め、コミュニケーションが取れるのだが、京都を離れた元会員が再びレッスンを受けられてうれしいというコメントが印象的だった。スタジオ再開まで無料で続いたこのオンラインレッスンは9月から会費制サブスク形式によるオンラインスタジオとして継続されるという。
自由度の高いオンラインならではのメリットも
スタジオが再開し、リアルなフィットネスが日常となっても、「急場しのぎ」のはずだったオンラインレッスンの継続を望む声は多かったという。実際、オンラインならではのメリットがあるのだ。
●スタジオや道場まで行かずとも、どこでも(ユーチューブなどの場合)いつでも受講できる。多忙でも自宅で参加でき、通う時間や交通費をカットできる。
●通常のレッスンに比べて、受講料がリーズナブルであることが多い。
●一度に多くが参加できる場合も多く、予約のとりにくい人気講師のクラスでも受講しやすい。
●録画したレッスン動画をその後も配信している場合もあるので、気に入ったクラスを繰り返し受けるなど、反復できる。
●ユーチューブなどの場合は、キーワードが検索でき、面識がなくてもそのクラスにたどりつける。
●トライアルレッスンとして参加することで、自分に合ったタイプのインストラクターを選べる。
などハードルはぐっと下がる。オンラインレッスンを続けるうちに、リアルな場でも学びたいとスタジオに足を運ぶ人もいるだろう。オンラインレッスンは新たなファンへの門戸を広げる。
また、好きな時間に好きな場所で受けられるので、子育てや介護などで家を空けられない状況でも継続しやすいという声も目立った。多忙なビジネスパーソンにとっても、忙しい週日はオンラインで、週末など時間に余裕があるときにスタジオに足を運ぶ、などオンラインとリアルなレッスンを組み合わせればフィットネスの機会は増える。
メディアイベントもオンラインを活用し新たな広がりを
遠隔での参加が可能になり、フィットネスはより身近に、より気軽になった。そのタッチポイントとしてオンラインレッスンはこれからも支持されるだろう。
ハースト婦人画報社のオンラインマガジン「ウィメンズヘルス」でもインスタライブで人気インストラクターたちのオンラインレッスンを無料配信した。編集者自らが生徒役として参加することでより臨場感のあるコンテンツとなり、4カ月で延べ2万人が参加した。
2019年に延べ2000人を動員したフィットネスフェスを開催した実績がある「ウィメンズヘルス」は、オンラインによるイベント「LOVE BODY+」をこの10月に企画している。多くの人気インストラクターが賛同し、1か月で50クラスを開講する。5000円の参加費で自由に受講でき、一部無料公開クラスの参加者も含めると、2万人が参加する見込みだという。「物理的な壁を越えて日本中、世界中の女性に届けたい」と影山桐子編集長は語る。「LOVE BODY+」では一部無料レッスンも配信されるので、新たな層がフィットネスに触れるきっかけとなるだろう。
ちなみに私が通う日本空手協会は道場での稽古を再開しつつも、この期間に通えない道場生を対象にオンラインによる指導を開始した。指導員を派遣できない遠隔地や海外の道場へのフォローも兼ねている。
リアルな場での交流を大切にしつつ、各所からつながることで頻度や層を広げる。オンラインはより快適な環境のためのツールになるのだ。