ファッション

クチュール&メンズ初のオンライン開催、結果はいかに? ユーチューブとSNSアナリティクス企業が分析

 フランスオートクチュール・プレタポルテ連合会(Federation de la Haute Couture et de la Mode以下、サンディカ)は、初めてオンライン開催した7月6〜8日の2020-21年秋冬パリ・オートクチュール・ファッション・ウイークと9〜13日の21年春夏パリ・メンズ・コレクションのデジタルショーにおける結果を明らかにした。サンディカによる詳細な分析結果はないが、ユーチューブ(YouTube)とSNSアナリティクス企業のリッスンファースト(LISTENFIRST)がそれぞれ詳細なデータを発表した。

 サンディカは、6〜13日の公式スケジュール用に制作された動画の再生回数が、合計で1940万回を記録したと発表した。各プラットフォームでの再生回数の内訳はユーチューブの560万回と、中国版のツイッターのウェイボー(微博、WEIBO)と動画配信サイトのビリビリ(哔哩哔哩、Bilibili)、そしてテンセント ビデオ(騰訊視頻、Tencent Video)を合わせた1380万回だ。

 動画コンテンツは、ファッション、ラグジュアリー、ビューティ分野のデータテクノロジー企業、ローンチメトリックス(LAUNCHMETRICS)の協力を得て立ち上げた2つのデジタルプラットフォームに投稿された。サンディカのウェブサイトで9月15日まで閲覧が可能なこれらのプラットフォームでは合計20万2000アクセスを記録し、閲覧回数は49万回に達した。

 サンディカのパスカル・モラン(Pascal Morand)会長は、「今回の結果に大変満足しているし、励みになる。フィジカルなファッション・ウイークの来場者が通常5000人程度であることを考えると、デジタル版はより多くのオーディエンスに向けて発信できた結果となった」とコメントした。

 ローンチメトリックスがSNS上の声をもとに独自のアルゴリズムを用いて割り出した計8日間のファッション・ウイークにおけるメディアへの影響の試算額(Media Impact Value、MIV)は、全体で6510万ドル(約69億円)に相当する。そのうち5080万ドル(約54億円)がクチュール、1430万ドル(約15億円)がメンズによるものだ。同社は19年に開催したクチュール・ウイークの影響試算を5670万ドル(約60億円)と推計しており、同年のメンズは3570万ドル(約38億円)だったとしている。

 モラン会長は、通常のショー形式のイベントではインフルエンサーをはじめとする参加者がコンテンツをオンライン上で投稿・シェアすることによりMIVが4〜5倍に上がるとした上で、「今回のオンラインイベントは通常の形式に匹敵こそしないが、失敗だったというわけでもない。ただし従来のファッションショーの代替ではない。今年のファッション・ウイークは普段と異なる形式で行ったが、私たちは従来のファッション・ウイークの重要性も再確認した。9月はフィジカルとオンラインの両方でショーを行う可能性もあるが、いい方向に向かうといい」とコメントした。

参加ブランドはユーチューブなどとパートナーシップ締結

 ローンチメトリックスによると、今回行われたデジタル形式のファッション・ウイークは従来に比べてより広く世界に発信され、アジアからのアクセスが全体の10%以上を占めていたという。なお通常はフランス、アメリカ、イギリスからの参加が中心だ。

 また、小さなブランドにとっては露出の機会が増えるというメリットもあった。拡散の見込みがあるデジタル資産の重要性を踏まえると、今後はフィジカルとデジタルの両方を活用した共有価値の高いコンテンツを生み出すブランドが勝者になると言えそうだ。

 今回のファッション・ウイークには公式カレンダーに名を連ねたオートクチュールの33ブランドと、メンズの67ブランドが参加したが、サンディカはコンテンツを広めるために、グーグル(GOOGLE)、ユーチューブ、インスタグラム(INSTAGRAM)、フェイスブック(FACEBOOK)などの主要プラットフォームや、フランスの放送局カナル・プリュス・グループ(CANAL + GROUPE)、「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」、中国のコミュニケーションエージェンシーのハイリンク(HYLINK)ともパートナーシップを締結した。

 ユーチューブのスポークスパーソンによると、80ブランドがサンディカとユーチューブのパートナーシップに参加しており、今回初めてオンライン動画シェアのプラットフォームに参入するというブランドも19あったという。なおクチュールでは、初参入の8ブランドを含む30ブランド、メンズでは初参入の11ブランドを含む51ブランドがユーチューブとの提携に参加した。

 動画再生回数が最も多かったオートクチュールのブランドは「ディオール(DIOR)」「シャネル(CHANEL)」「イリス ヴァン ヘルペン(IRIS VAN HERPEN)」で、メンズは「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「ディオール」「トム ブラウン(THOM BROWNE)」だった。

 また、ユーチューブがクチュールの傑作動画として選出したのは「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR&ROLF)」「ディオール」「イリス ヴァン ヘルペン」だった。メンズでは「ディオール」「トム ブラウン」「リース クーパー(REESE COOPER)」「ウェルダン(WE11DONE)」「ブルー マーブル(BLUE MARBLE)」「ヘンリック・ヴィブスコフ(HENRIK VIBSKOV)」「アミリ(AMIRI)」、新興ブランドの「キッドスーパー ストゥディオス(KIDSUPER STUDIOS)」「クール TM(COOL TM)」、そしてセーヌ川に浮かぶ船上でショーを撮影した「バルマン(BALMAIN)」だ。

期間中の関連ツイート数はオートクチュールが396件、パリ・メンズが3311件

 一方でリッスンファーストは、両ファッション・ウイークにおいて最もソーシャル・エンゲージメント(社会的関与)のスコアが高かったブランドのトップ10をランキング形式で発表した。ランキングは、反応の大きさやコメント、シェア、リツイート、“いいね”の件数、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムのフォロワー数の伸びやツイッターでのメンションなどにより算出。最高スコアを獲得したクチュールのブランドは「シャネル」で、パリのグラン・パレ(Grand Palais)でショーを開催した前年同時期からは21.66%下がる結果となり、動画の視聴回数は約550万回だった。

 クチュールのスコアランキングは2位の「ラルフ & ルッソ(RALPH & RUSSO)」から順に「ジャンバティスタ ヴァリ(GIAMBATTISTA VALLI)」「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」「ヴィクター&ロルフ」「ヴァレンティノ(VALENTINO)」「エリー サーブ(ELIE SAAB)」「ラウル ミシュラ(RAHUL MISHRA)」「メゾン ラビ ケイルーズ(MAISON RABIH KAYROUZ)」「アガノヴィッチ(AGANOVICH)」と続く。なお、パリ・オートクチュール・ファッション・ウイークについて直接言及したツイートは396件にとどまり、1万5000件以上のツイートが行われた19年7月1〜4日の結果を大きく下回る結果となった。

 「ジャンバティスタ ヴァリ」はソーシャル・エンゲージメントのスコアを前回から500%以上と大きくアップさせた。インスタグラム上のオーディエンスは大きなピンクのイブニング・チュールドレスに大きな反応を示し、同ブランドは多くのレスポンスを獲得した。 

 ソーシャル・エンゲージメントのスコアで1位を獲得したメンズのブランドは「ディオール」で、スコアは前年同時期と比べて51.25%アップした。今回のコレクションでコラボレーションを行ったガーナ人アーティストのアモアコ・ボアフォ(Amoako Baofo)から着想を得たコレクションのメーキング動画は、フェイスブックで17万回以上再生された。

 メンズのランキングは2位の「ルイ・ヴィトン」から順に「ロエベ(LOEWE)」「エルメス(HERMES)」「パロモ スペイン(PALOMO SPAIN)」「トム ブラウン」「ランバン(LANVIN)」「リック・オウエンス(RICK OWENS)」「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」と続く。ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)がメンズ アーティスティック・ディレクターを務める「ルイ・ヴィトン」は、“メッセージ・イン・ア・ボトル(Message in a bottle)”と題した21年春夏コレクションのランウエイショーを8月6日に上海で行う予定だが、そのプロモーション動画の再生回数はツイッター(TWITTER)、フェイスブック、ユーチューブで合わせて1450万回以上を記録した。

 また、今回のパリ・メンズに関するリアルタイムのツイート数は3311件にとどまり、19年6月18〜23日の11万7879件と比べて大きく落ち込む結果となった。
 
 リッスンファーストのトレーシー・デイヴィッド(Tracy David)=チーフ・マーケティング・オフィサーは、「それぞれのコレクションは注目を集めているが、通常のファッション・ウイークでの発表方法がもたらすほどの影響は感じられない。主催者は今後のデジタル・ファッション・ウイークについて、全ての動画をひとつのアカウントのもとで公開したり、ファッション・ウイークに華やかさを加えるためにオンライン上でセレブリティーと連携したりすることなどを検討した方がいいかもしれない」と指摘した。
 
 世界の有名ブランドに関するデータ、コミュニケーション活動、広報戦略を分析するDMRグループ(DMR GROUP)は、ロンドン、パリ、ミラノのデジタル・ファッション・ウイークにおいて、ソーシャルメディアでのキャンペーンにおける価値を意味するEMV(Earned Media Value)が1070万ユーロ(約13億円)に相当するとリポートした。なおこのEMV値は、10万のウェブサイトと2万5000のソーシャルメディアから算出されている。2021年春夏メンズやウィメンズ&メンズの21年プレ・スプリングを披露した7月14〜17日開催のミラノ・デジタル・ファッション・ウイークにおけるEMVは624万ユーロ(約7億7000万円)で、続いてパリの268万ユーロ(約3億3000万円)、ロンドンはこれら3つのファッション・ウイークにおけるEMVの合計の17%に相当する181万ユーロ(約2億2000万円)だった。

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