LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)の2020年1〜6月期(上半期)決算は、売上高が前年同期比26.6%減の183億9300万ユーロ(約2兆2623億円)、純利益が同84.0%減の5億2200万ユーロ(約642億円)の減収減益だった。
部門別の売上高では、ファッション・レザーグッズ部門が同23.3%減の79億8900万ユーロ(約9826億円)、香水&コスメティクス部門は同28.8%減の23億400万ユーロ(約2833億円)、ワイン&スピリッツ部門は同20.1%減の19億8500万ユーロ(約2441億円)、ウオッチ&ジュエリー部門は同38.2%減の13億1900万ユーロ(約1622億円)だった。
「ルイ・ヴィトン」や「ディオール(DIOR)」などのスターブランドを抱える主要事業のファッション・レザーグッズ部門と、「モエ ヘネシー」が堅調なワイン&スピリッツ部門は20年上半期も黒字だったが、それ以外の部門は全て赤字に転落した。また売れ残った商品の減価償却費を計上したことや、生産工程の固定費を吸収しきれなかったことによって粗利益が大きく削られた結果、純利益も大幅に減少した。
地域別での売上高は、フランスが同34.0%減の14億1900万ユーロ(約1745億円)、フランスを除く欧州地域が同32.5%減の29億2400万ユーロ(約3596億円)、米国が同22.5%減の44億7700万ユーロ(約5506億円)、日本を除くアジア地域が同23.3%減の62億7700万ユーロ(約7720億円)、日本は同29.5%減の12億7500万ユーロ(約1568億円)と軒並み減収となった。
ジャン・ジャック・ギヨニー(Jean-Jacques Guiony)最高財務責任者(CFO)は、「かつてこれほどネガティブな要素がそろったことはないが、明るい兆しも見えている。多くの国でロックダウン(都市封鎖)が解除されたことに伴い、当社の傘下ブランドも店舗の営業を再開しているため6月は売り上げがかなり改善したし、7月はさらなる改善が期待される。月を追うごとに平常レベルに近づいてきており、その動きは今後も続くだろう」と語った。
ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)会長兼最高経営責任者は、「当社はこの危機的な状況の中で比類のない耐久力を発揮した。6月以降は業績が上向きになっているものの、下半期も油断せずに気を引き締めて事業を展開し、ラグジュアリー業界をリードする企業としての立ち位置をさらに強化していきたい」と述べた。
20年4〜6月期(第2四半期)で見ると、ファッション・レザーグッズ部門が中国で65%以上の成長率となっており、市場が順調に回復していることが分かる。6月に入ってからは米国と日本で「ディオール」が好調だった一方で、「ルイ・ヴィトン」はほぼ横ばいの売り上げとなった。
ロックダウン中、多くのブランドや小売店でECの売り上げが増加した。LVMHは主要ブランドでオンラインショップを展開しているほか、傘下の百貨店ボン・マルシェ(LE BON MARCHE)が小規模なECサイト「24セーブル(24 SEVRES)」を手掛けているものの、基本的にはECにあまり積極的でないことで知られている。
ギヨニーCFOは、ロックダウン中におけるECの売り上げ増加について推測するのは時期尚早だとしながらも、今後はより積極的に取り組んでいく可能性があることを示唆した。同氏は、「ファッション・レザーグッズ部門や化粧品のセレクトショップ『セフォラ(SEPHORA)』などのECが非常に好調だったため、実店舗での売り上げ減少を部分的に補うことができた。ここ6カ月間におけるECでの売上高を考えると、将来的には実店舗と共に当社のグローバルセールスを支える“本物の”販売網となる可能性があると思う」と分析した。
売り上げが激減する中で財務状態の健全化を図るため、同社は20年の設備投資を40%削減することを第1四半期決算の時点で発表しているが、従業員を解雇する予定はないという。ギヨニーCFOは、「多少の調整はあるかもしれないが、大幅な人員削減などというばかげたことは考えていない。状況が回復してきた際に業績を伸ばすためにも、資本や人材の基盤を維持しておきたいからだ」と説明した。
同氏はまた、「この危機的な状況を乗り越え、企業としてさらに発展していくことに自信を持っており、今後についても楽観視している。しかし再び環境が激変した際に迅速に対応できるようにするため、忘れてはならないことが2つある。まず現在の状況がいつ収束するのかについては先行きが読めず、さらなる難局に直面するかもしれないと肝に銘じておくこと。そして、観光客を対象としたトラベルリテール事業が回復するにはかなりの期間がかかるだろうということだ」と話した。
LVMHは19年11月に162億ドル(約1兆7172億円)超相当でティファニー(TIFFANY & CO.)を買収しているが、ギヨニーCFOによれば、独占禁止法に関連した申請などが複数の国で保留となっているという。同氏は、「物事は前進しているが、承認がいつ下りるかなどについては分からない」とコメントした。なお20年6月2日にはLVMHの経営陣が招集され、ティファニーにとって最大の市場であるアメリカの情勢悪化について話し合いが行われている。
モルガン・スタンレー(MORGAN STANLEY)銀行のエドアール・オーバン(Edouard Aubin)=アナリストらのリポートによれば、LVMHはロックダウンの解除が遅かったアメリカへの依存度が高いため、ラグジュアリー業界の中でも新型コロナウイルスの影響を大きく受けるのではないかという。その一方で、「消費者はこれ見よがしな派手さがなく、時間とともに価値が低下しない商品を求めるようになっている。今後はエッジーなブランドよりも、『ルイ・ヴィトン』『ディオール』『フェンディ(FENDI)』『セリーヌ(CELINE)』などの、クラシックで質が高く安心感のあるメジャーブランドがいっそう人気を集めると思われる。これらのブランドを傘下に持つLVMHはそうした流れの恩恵を受けるだろう」と述べている。