丸龍文人デザイナーが手掛ける「フミト ガンリュウ(FUMITO GANRYU)」は7月、2021年春夏パリ・メンズ・コレクションをデジタルプラットフォームで発表した。今季は、機能的な素材やディテールはそのままに、ジャージーやチェックシャツといったリアルクローズも多数盛り込んでグッと日常的なコレクションとなった。
シーンに左右されない自由な日常着
テーマは“フリーアクセス”で、「どんな情勢やムードにも対応するファッションとは一体どんなものなのか?これが今シーズンのクリエイションの発端でした」と丸龍デザイナーは振り返る。「常識やオケージョンを限定した服ではミスマッチが生じます。固定概念を超え、インドア、アウトドアといった境界線を自由に再構築する事で、“外着のような部屋着”と“部屋着のような外着”のどちらともいえる新たな汎用性を見出すことを目指しました」。例えばナイロン製の超ロングコートは、自宅でガウンのように着用することもできるし、パジャマの上に羽織ってそのまま外出することもできる。「自分のいるシーンや感情に左右されることなく自由に着られる、新しいコンセプチュアルのかたちが提案したかったんです」。
ルックにはイギリスのファッション誌「アリーナ オム プラス(Arena Homme +)」のファッションディレクターを務め、ショーや広告など幅広い分野で活動するスタイリストのトム・ギネス(Tom Guinnes)を起用。彼がスタイリングからモデル、撮影まで全てを担当した。「今回の服が持つ側面を描くにあたり、多角的な視点での表現が必要でした。そこで、彼に全てをお願いしました」と丸龍デザイナー。ルック撮影はトムの自宅周辺で実施し、コレクションを着用した彼が本棚を整理したり、洗濯物をたたんだり、娘との時間を楽しんだりする日常を切り取った。「トムには『リラックスした、リアルなビジュアルであること。そして、屋内と屋外両方のシチュエーションで撮影して欲しい』とだけ伝えました」。具体的な注文をせず、表現に余白を残すことで“フリーアクセス”というテーマにつなげた。
トムは「彼はコレクションを初めてからずっと、ワークウエアとスポーツウエアの機能性を素直に取り入れていると思う。私は控えめでミニマリストなフミトが好きだ。服がそれを物語っている。今回のルックはiPhoneで撮影した。私は写真家ではないから技術的なミスはたくさんあるだろう。でも、だからこそほかにない作品に仕上がった。このルックを通して、自然なムードと何の制約もない自由なスタイリングを体感してもらえたらうれしい」と語る。
現代社会のジレンマを投げかける
ルックの発表と同時に、映像も公開した。暗い草原や街中にモニターを置き、そのモニターでルック撮影の様子を映すという意味深な内容について聞くと、丸龍デザイナーは「二律背反」とだけ答えた。これは二つの要素が拮抗する状態やジレンマを表す言葉だ。ルック撮影の様子を映像で切り取り、それらを放映する複数のブラウン管テレビを公園や街中に設置し、ダークなムードとモニターで流れる明るい映像を対比させる。これらの演出を通して、自然と都市、アナログとデジタル、リアルとフェイクなど、現代社会の相反する要素を考えるきっかけを与えたかったのだろう。
未曾有の状況で手探りするブランドが多い中、丸龍デザイナーは自分のやるべきことを冷静に考えて実行したようだ。「ショーは作り手の届けたい情報を一度に発信できるドラマチックかつ合理的な方法です。しかし、あくまでも伝えるための手段の一つであり、表現することが最終的なゴールではありません。プロダクトそのものに重きを置くこと。その上で、その瞬間に最も相応しい形で届けること。これができればよいのではないでしょうか」。