ファッション

オンワード樫山・鈴木社長 起死回生の「1000万人のための服づくり」

 オンワードホールディングス(HD)は前期(2020年2月期)から今期(21年2月)にかけて国内外の約1400店舗を閉鎖し、店舗数をほぼ半減する荒療治を断行中だ。「メーカー機能を持ったデジタル流通企業」というグループの旗印のもと、中核会社であるオンワード樫山はどう変わろうとしているのか。3月に就任した鈴木恒則社長に聞いた。

WWD:コロナ禍での社長就任。厳しい環境にどう臨むか。

鈴木恒則社長(鈴木):中長期戦略として大きく3つ考えている。第一に「23区」に代表される既存ビジネスを磨き上げること。第二にD2Cなどのスモールスタートビジネス。第三は少し先になるけれど、新たな顧客獲得のための新ビジネスだ。昨年から店舗撤退など構造改革を優先せざるをえなかった。不安に感じている社員も少なくないだろう。私の役割はオンワード樫山が進むべき道をしっかり示すこと。守りを固めることも大切だが、この困難な状況にあえてファイティングポーズをとって挑みたい。

「23区」の規模だからできることがある

WWD:既存ビジネスの磨き上げとは、百貨店を主力とする「23区」などの活性化か。

鈴木:「23区」は売上高300億円以上(小売りベース)を誇る当社の財産だ。その規模だからこそできることがある。今後、「23区」が目指すのは1000万人のための服。ユニクロが1億人の服だとすれば、われわれは感性や品質にこだわる1000万人のお客さまのための服を作る。川上(素材)までさかのぼったジャパニーズスタンダードで勝負する。「23区」の規模があれば(スケールメリットによって)他では作れない服が作れる。

私が専務の頃から大澤道雄社長(現会長)と話していたのは、商品寿命を延ばすことだった。シーズンの終盤にバーゲンで売り減らす手法は、積もり積もってお客さまに価格への不信感を持たせてしまった。こだわりぬいたスタンダードな服であれば商品寿命が3年、あるいは5年でもよい。実は(「23区」に限らず)20年春夏でもシーズンで売り切るべきトレンド商品はマークダウンしているが、商品寿命を長く設定したスタンダード商品はプロパー(定価)のまま売っている。7月商戦もプロパーに限れば2ケタ増だった。残れば翌年、翌々年に持ち越せばいい。バーゲン時期でも当社の売り場ではマークダウンの札がだいぶ減っている。

WWD:一方でメンズの「23区オム」の休止を発表した。

鈴木:「23区オム」はなくなるが、「23区」の中で新しくメンズウエアを出す準備をしている。1000万人の服は女性だけを対象にしているわけではない。バラエティを広げて「23区」をピカピカに磨くつもりだ。

1990年代に馬場彰社長(当時、現名誉顧問)が「東京発国際服」のビジョンを掲げて「23区」「組曲」「五大陸」「ICB」などを次々に発表した。これらのブランドが今も当社の土台だ。ただ当時は、百貨店の売り場の良い場所を確保すれば、売り上げの目処がたった。今はそんな時代ではない。

各ブランドが百貨店の客層の真ん中に寄せていった結果、似た印象になったことは否めない。それぞれのブランドのトレンチコートを並べても区別がつかない。リアル店舗であれば、店舗の雰囲気で違いを出せるが、ECモールでフラットに並べられると見分けがつかなくなってしまう。「23区」のトレンチ、「自由区」のトレンチがあってしかるべき。あるいはトレンチを持たないブランドがあってもいい。ブランドの戦略の棲み分けがきちんとできるように3月からメンズカンパニー、レディスカンパニー、ライフスタイルカンパニーなどのカンパニー制を導入した。

店舗を閉めたエリアでも取り組みは続ける

WWD:顧客の若返りも課題では?

鈴木:確かに当社の顧客の年齢は高めだが、スタンダードであれば年齢はあまり関係ないと思っている。これまでの経験上、ブランドが若返りを前面に打ち出せば、既存のお客さまが離れ、若い世代も見向きもしなくなってしまう。磨き上げられた商品であれば、世代に関係なくお客さまの支持は広がる。結果として若返りにつながる。

WWD:オンワードHDとして昨年から今年にかけて1400店舗の縮小を発表している。地方都市ではオンワード樫山との接点がなくなるケースも出てくるのでは?

鈴木:残念ながら人頭効率が合わない店舗は撤退を進めている。地方の百貨店だけでなく、都心の百貨店でも同じだ。残った店舗にエネルギーを集中させるのはもちろん、撤退した店舗のお客さまのフォローも不可欠になる。(ブランドが撤退した)百貨店と話しているのは、年4回か2回くらいECと連動させたポップアップストアを開いて顧客を招くこと。地方の百貨店ではどうしても品番やサイズが満足にそろわない問題があったが、ECも駆使しながら解消していく。

百貨店との取引条件も見極めていきたい。オムニチャネル化は避けて通れない道だ。定借(定期借家賃貸)も選択肢になる。(コロナもあって)「待ったなし」の状況になっている。百貨店について悲観論ばかり飛び交っているけれど、やり方次第でお客さまの満足度を高めることはできると考えている。

WWD:オンワードHDの保元道宣社長は売上高に占めるECの割合(EC化率)が将来50%になる見通しを公言している。

鈴木:ECを増やすのは自然の流れ。ただECは手段に過ぎない。カギを握るのは、やはり差別化された商品だと思っている。あとは原価率の水準をあげて、適正な値段で供給できるか。EC化率が高まれば、その分を品質に還元できる。

一丸となったオンワードはすごい

WWD:中長期戦略の2番目に掲げるスモールスタートビジネスでは、D2Cブランドを始めた。滑り出しは?

鈴木:2月末にスタートした第1弾「アンクレイヴ(UNCRAVE)」は、自社ECサイトのオンワードクローゼットにおいて発売4日間で2000万円超を売った。春夏トータルでも計画を大きく上回った。「アンクレイヴ」は20〜30代の女性社員たちが外部のプロデューサーと協業して始めた。「朝、何を着たらいいのか」という等身大の悩みを解決するために、セットアップ中心で着まわしのきくMDを組んだ。リアル店舗のブランドに比べて品番数も大幅に絞る。クオリティーはオンワード樫山の百貨店ブランドと遜色がないのに、D2Cの事業モデルによって4割ほど安く提供している。

D2Cには若い社員に活躍の場を作る狙いもある。いま若い社員には新しい事業プランを出すよう促している。ベテラン社員が考えもしないようなアイデアが次々に出ている。

WWD:第2弾、第3弾のD2Cブランドも予定している?

鈴木:水面下でいくつか進めている。アイテム軸かもしれないし、アパレル以外かもしれない。リアル店舗ほどのコストがかからないため、お客さまの潜在的なニーズに即した商品が提供できる。スモールスタートビジネスは売上高20億〜30億円の規模でいい。原価率は高いけど、しっかり利益が出せる。

WWD:最後の新たな顧客獲得のための新ビジネスとは?

鈴木:まだ具体的に発表できる段階ではない。これからプロジェクトチームを作って進めていく。現時点で言えるのは、「23区」とは別の1000万人のための服の市場もあるということ。ボリュームの価格帯を想定しているが、他社の二番煎じは考えていない。あくまでもオンワードらしいブランド。コロナを受けてお客さまの買い物も変化する。都心には足が遠のく。自宅の周りの方が便利かもしれない。そんなことも踏まえながら、今の時代にあった服を作る。乞うご期待といったところだ。

WWD:今回のコロナは改革を加速させるきっかけになったか。

鈴木:どこに進むべきか、明確になった。一気に舵を切れるようになった。自分の会社ながらオンワードってすごいなと思うのは、やると決めたときの一丸になる結束力。今まで少し薄れていたかもしれないが、危機感を共有したことで迷いがなくなった。

WWD:消費回復が見えない中、秋冬商戦にどう臨むか。

鈴木:正直なところ、先行きが見えているわけではない。コロナによって状況は目まぐるしく変わる。柔軟に対応するため、発注量を決定する会議を毎週のように開いている。これまではシーズンで2回程度だった。シーズン前に発注量を決めるのではなく、市況を見ながら作り足していく。

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