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連載 元FR上席執行役員の心に火をつけた“トーチング”

こじれた上司と部下の「心に火をつけた」言葉は? 元ファストリ上席執行役員の心に火をつけた“トーチング”回顧録Vol.2

 ファーストリテイリンググループで社内改革を推進する「有明プロジェクト」をけん引し、史上最年少で上席執行役員に昇格した神保拓也はこのほど、人の「心に火をつける。」ことを目指し、株式会社トーチリレーを設立した。まず取り組む同社の主たる事業は、「心に火をつけることを主題に置きつつも、ティーチングやコーチングとは一線を画す」という「トーチング」。山に登るためのトーチ、登る山を見つけるためのトーチを提供する。ただ、その料金はタダだ。神保はなぜ、タダで「トーチング」を始めたのか?人の心に火が付くことで起こった、ファーストリテイリング時代のユニクロの「奇跡」をたどり、「トーチング」の魅力を考える(「トーチング」のビジネスモデルは、コチラから)。

(前回からの続き)

 3者3様で「店舗を良くしたい」と思いながら、それぞれの「言動が、相手に誤解されていた」状況に対して、神保“隊長”が行なったトーチングは、こんな具合だ。

 まず「スーパーバイザーに認めてもらうには、自分の何が課題なのか?」を学ぶべき店長に伝えたのは、2つ。1つは、「『登りたい山』だけでなく、『登るべき山』に登ることも必要ということ」。神保“隊長”は、「『登るべき山』に登るための努力が、あなたを『登りたい山』に導く」と説いた。そして2つ目は、「信頼残高を積み上げろ」。例えばフィリピンへの語学研修は会社・店舗のためなのだが、こじれた関係性のせいでその「努力」は、上司のスーパーバイザー(以下、SV)や部下の店舗スタッフには「ワガママ」に映っている可能性があった。そこで神保“隊長は店長に、今はSV、スタッフ、ひいては店舗の利用客からも「信頼残高を失っている状態」と進言。「相手の自分への期待を超えることで『信頼残高』を積み上げ、その逆はしないことで『信頼残高』を減らさないよう」アドバイスをした。

 一方、店長に対する不信感が募っていたSVには、「人は変えられない。変わるもの。無理やり変えようとするのではなく、変わるきっかけを与えること、その人の心に火をつけることに注力すべき」とアドバイス。力技で変えようとするのではなく、変わる“きっかけ”を与えるのが上司の仕事と説いた。その上で必要なのは、「相手以上に相手を知ること」。特にダメな面ではなく良い面に興味を持ってほしいと考え、「『店長』として扱う前に、まず一人の『人間』として接し、相手にもっと興味・関心を持つべき」と主張。それができなければ、結局SV本人が一番望まない「店長が変わらない」に繋がってしまうと続けた。

 さらにスタッフには、「矢印を自分に向けよう」とのメッセージを発信した。店長とSVの関係性を心配する気持ちはわかるが、そんな中でも「自分たちにできることは、たくさんある」ハズ。「周囲の喧騒に惑わされず、矢印を自分に向け、お客様のために最善を尽くそう」とエールを送った。「店長とSVが……」「あの2人が……」と考え続けるのは、ツラいことだ。

 そして最後に全員には、以下の6つをトーチングした。

①「我以外皆我師」。自分以外の人や、起こった事象の全てから学ぼう。大変な状況は自分を耕す肥やしであり、それを意識すると見える景色が変わる。

②「相手を叱るな。『志』に叱らせろ」。相手の中にある「志」を見つけて、「あなたの『志』が泣いているよ」と諭してみよう。

③「仕組みを憎んで、人を憎まず」。人は、叱っても変わらない。だったらミスに繋がった環境や仕組みを責め、常にアップデートを繰り返す。特に「犯人探し」を始めてしまうと、事業はアップデートできない。「この店舗に必要な仕組みは?」「今の仕組みは、古くないか?」と知恵を振り絞ることが大事。

④「人は、巻き込むのではなく、巻き込まれるもの」。よく言われる「人を巻き込む」は、間違い。自分が圧倒的な努力をしていれば、周囲は自然と味方になる=「巻き込まれる」。「巻き込めないのは、自分の努力が足りないから」と考えたほうが、人生はずっと面白い。

⑤「whatではなく、whyをすり合わせる」。「what」で人を動かすのは、完全に命令。「what」でも人は動くけれど、心までは動かない。それは仕事ではなく、作業を依頼していること。「what」ではなく「why」、つまり「やる理由」「なぜアナタに、これをやってもらいたいか?」を伝えるべき。

⑥「1つ上の視座で世界を見てみる」。上司や、その上司には、今の状況や環境がどう見えているのか?を意識する。スタッフは店長、店長はSV、SVは部長、部長は社長の視点で、相手が見ている景色を理解しながら事業を営む。すると相手の「why」がわかり、“阿吽(あうん)”の呼吸が生まれる。「店長になってから、店長の視座を身に付ける」のは弱い組織。誰もが1つ上の視座に立って動いているのが、強い組織。そしてトップの社長がスタッフの視座で仕事できるのが、最強の組織。

 そして神保“隊長”は、それぞれに実施したトーチングの内容を、それぞれに伝えたという。つまり店長にはSVやスタッフへのトーチングを、SVには店長やスタッフへのトーチングを、そしてスタッフには店長やSVへのトーチングの内容を伝えた。今振り返ると、「これが大きかった」という。(次回につづく)

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