ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は8月6日、中国企業が運営するティックトック(TikTok)とウィーチャット(微信、WeChat)について、45日間の猶予期間を設けた上で今後米国内での取引を禁止する大統領令を出した。しかし今回の大統領令における禁止の表現は曖昧な部分もあり、いくつかの点で疑問視されている。ウィーチャットを含めアリババ(ALIBABA)や「JDドットコム(JD.com)」などを含む中国のeコマース市場は、2兆ドル(約200兆円)の価値があると言われているが、アメリカと中国をつなぐ2つのアプリの規制によるビジネスへの影響はどう考えられるのか。
2つのアプリでも大きな影響を受けると言われているのは、12億人の中国人が現代生活のベースとして使用しているウィーチャットだ。ウィーチャットはメッセージのやり取りを中心に、写真の共有やオンラインショッピング、決済、ニュースのチェックなどにも使われ、中国におけるLINE的存在。多彩な機能や普及率から、グローバルな展開を目指すアメリカの企業にとって中国市場とつながる上で重要なツールとして活用されている。
ラグジュアリーブランドのデジタル開発を支えるデジタル ラグジュアリー グループ(DIGITAL LUXURY GROUP、DLG)のアイリス・チャン(Iris Chan)=パートナー兼インターナショナル・クライアント開発ディレクターは、「禁止される“取引”がコミュニケーションを含めるのか、または金融取引のみを意味するのか疑問だ」と述べた。
また、広告の分野も定義が漠然としている。中国市場の開拓を目指すアメリカのグローバルブランドは2017年からウィーチャットに広告を出すことができたが、今後同じように展開することは難しいかもしれない。しかしアメリカブランドの多くは中国に拠点を設けていることもあり、その場合の規制に対する線引きは曖昧だ。
ウィーチャットを運営するテンセント(TENCENT)は、巨大な事業を展開する大企業の1つ。時価総額は6000億ドル(約64兆円)を超えるが、8月7日の時点で香港証券取引所での株価は約6%下落した。しかし今回の大統領令ではテンセントの他の事業やアメリカでの投資には言及しておらず、同社への影響は限定的とみられる。
一方、ティックトックについてはすでにマイクロソフト(MICROSOFT)などのアメリカ企業による買収交渉が進められているが、合意に至らなかった場合はアメリカから完全に撤退する他なく、すでにブランドやマーケティング責任者は今後の可能性を探って準備をしている段階だ。また、インフルエンサーの大半はティックトックとインスタグラムの両方を活用しており、後者はティックトックと似たショートムービーが作成できる機能の「リール(Reels)」を導入した。
今回の大統領令はアメリカのユーザーの保護や中国による監視を逃れることを目的としているものではなく、アメリカで成功している中国のプラットフォームをピンポイントに狙っているという印象だ。慎重かつ十分に考慮されて施行されなければ、米国企業の支援にならないどころか、大きな打撃を与えることもあり得るだろう。