個性を尊重する潮流と、1点モノの制作が容易・可能になった技術革新の結果、ファッション&ビューティ業界では「パーソナライズ」や「カスタマイズ」、いわゆる世界に(ほぼ)1つの品物を作るサービスを提供するブランドや企業が増えています。そこで「WWD JAPAN.com」は、トレンドや最新ムーブメントを知るからこそのアイデアを形にしてもらいながら、サービスの利便性や価格などを検証します。
…というわけで、「WWD JAPAN.com」が不定期でお送りしている「パーソナライズに挑戦」企画。ジュエリー、バッグ、シャンプー、スキンケアなど、今やあらゆるものがパーソナライズされており、実際にジュエリーでは星座や誕生石などのパーソナライズ商品がよく売れると聞きます。もはやちょっとやそっとのパーソナライズでは世間も私も驚きませんが、今回挑戦するのはなんと石けん!正直、体験する前は思っていました、「とうとう石けんまでパーソナライズする時代か……。そこまで必要なの?」と。しかし、体験してみるとこれが非常に楽しく、是非皆さまにもやってみていただきたい!コロナによる“ステイホーム”下、石けん作りはもちろん自宅でできますし、この時期ママやパパを悩ませるお子さまの夏休みの自由研究にもピッタリと感じました!
私が出合ったパーソナライズ石けんブランド、それは2019年11月にスタートしたという「キュウ(9.KYUU)」です。8月1日に開業した渋谷ミヤシタパークの「イコーランド シブヤ(EQUALAND SHIBUYA)」店頭で、ネコや惑星の形をした石けんが異彩を放っておりました。興味がわいたので代々木上原にあるアトリエを訪問。私はアトリエで石けん作りを体験しましたが、材料やキットを購入すれば、もちろん自宅での製作が可能です。
注目したいのは、このブランドのプロデューサーがナチュラルコスメ界のヒットメーカー、菅野沙織さんだという点。菅野さんは明大農学部を卒業後、自然食品やオーガニック製品販売の日本での先駆け、ナチュラルハウスを経て、ナチュラルコスメやドクターズコスメのプロデュースやコンサルティングに十数年間携わってきたという人物です。名前は出せませんが、「あの店やこのブランドにも関わっていたのか!」という事例多数の、いわばヒット請負人。そんな人が作る石けんブランド、気になりますよね。
さて、お邪魔したアトリエのテーブルに並んでいたのは、石けんのもとになる色とりどりのソープベースやアロマオイルに、鉱物を砕いたというキラキラ光る粉など。ビーカーもあって、気分はまるで理科の実験です。ソープベースは色合いによって配合成分が異なりますが、どれもハチミツやシアバター、アルガンオイルなど天然成分でできているそう。ピンクやパープル、ブルーなど鮮やかな色付き石けんも、コチニールなど天然色素で色出ししているといいます。天然素材でできているため、排水を川や海に流しても地球を汚さないサステナブルな石けん、というのが「キュウ」のコンセプトです。
早速私も、看板商品であるネコ型石けんの製作にチャレンジしてみました。選んだソープベースは、ニンジン油、キュウリ種子油、アロエベラ汁配合の「さっぱりした洗い上がりが夏に向いている」という素材。ニンジンとキュウリからも油分って採れるんですね、とまずそこで学びが一つ。鼻と耳部分に使う色石けんにはピンク色を選び、配合するアロマオイルはスッキリ感が増しそうなペパーミントやユーカリを選びました。「キュウ」ではソープベース、色石けん、アロマオイルを各9種類扱っています。あ、ちなみに「キュウ」の石けんは、手や体だけでなく顔も洗える“美容石けん”だそうです。
作り方は、電子レンジで溶かしたソープベースをシリコン製のネコ型に流し込む。それだけ!層ごとに冷蔵庫に数分入れて固める必要がありますが、ものの10分前後で固まります。レンジではなく、湯せんでソープベースを溶かすこともできるそうで、「チョコレートを作る時と一緒ですよ」と菅野さん。2色のソープベースを固まらないうちに混ぜてマーブル模様にすることも可能だし、絵筆を使って飼い猫の柄を再現することも可能といいます。センスが試される感じでドキドキ。
セーラームーン世代歓喜! 惑星型石けん作りにも挑戦
驚くほどスピーディーにネコ型石けんが出来上がったので、次は新商品の惑星型石けんの製作にもチャレンジしてみました。こちら、水星から冥王星まで、太陽系の惑星9種のうちどれかが作れるというもの。「美少女戦士セーラームーン」で惑星に慣れ親しんだ世代には、実に胸アツな商品です!
こういう時、自分の守護星を選ぶといいのでしょうが(セーラームーン世代には説明不要ですが、守護星というものは誕生日によって生まれつき決まっているのです)、残念ながら私の守護星・太陽はキットに存在しません。そこで、色合いが気に入った天王星を選びました。白、ブルー、イエローのソープベースを量り、細かく切り、それぞれ電子レンジにかけて溶かし、アロマオイルを混ぜるところまではネコ型石けんの時と同じ。今回はベルガモットやラベンダーなど、疲れを忘れさせてくれそうな香りのオイルを選び、配合しました。
天王星はネコ石けんに比べて、自然な感じの地層(模様)を作り出すのに結構苦労しました。惑星感を高めるため、ラメのような鉱物の粉も一部に塗っています。この表現にセンスが問われますし、自分らしさが追求できる。こちら、キットを1つ買えば3つ作れるらしいので、初回は失敗しても、2回目、3回目にはうまくなるはず!また、家族や友人と2~3人で楽しむのにもいいと思います。
「社会性のある事業がしたい」がブランド立ち上げのきっかけ
自分の個性が表現でき、あれこれ試行錯誤するのが楽しい「キュウ」の石けん作りでしたが、こちらのブランド、菅野さんが事業計画を練り、出資してくれる会社を自分で探してスタートしたんだとか。出資元は、ビークルーズ(BeeCruise)という越境EC支援企業だそうです。そもそも、ビューティビジネスに長年身を置いてきた菅野さんが、なぜ今石けんブランドを立ち上げたんでしょうか。英スティーブンソン社製の天然成分のソープベースに出合ったことが大きかったそうですが、「コスメブランドをいくつも立ち上げ、ヒットさせてというサイクルを長年続けてきて、なんだかこのままでいいのかなと感じていた」と菅野さん。「もっと社会性のあることをやっていくべきじゃないかと思うようになっていた」とも。今の時代感を象徴するような言葉で、とても印象的でした。
社会性のある事業として注目したのが、石けんを通して環境問題や、SDGs(持続可能な開発目標)を伝えていく活動でした。菅野さんは数年前から、産業能率大学などでビューティビジネスについての講義を受け持っているそうですが、その中で「今の若い人は環境問題などへの意識が非常に高いことにも刺激を受けた」そう。
そうした経緯から、「キュウ」では小中学校や地域のコミュニティー拠点(アトリエそばにある日本最大のモスク、東京ジャーミイなど)に出張して、石けん作りのワークショップを行いながら、モノが作られる過程や成分、環境問題などを伝える活動も行っています。私が冒頭で「『キュウ』の石けん作りは夏休みの自由研究にもピッタリ」と言ったのもまさにこの点。天然成分の石けんをきっかけに環境問題などについて調べていけば、実りある自由研究になりそうです。また、コロナが終息した後には、アトリエでのワークショップなども計画しているそうですよ。
「キュウ」についてもう一つ面白いと感じたのが、石けんのOEM事業も行っている点でした。それだけ聞くと別によくある話ですが、有名なお寺や神社などからの石けん製作依頼を請け負っており、訪ねた際は試作の真っ最中。「何でもかんでもOEM生産を引き受けていたらキリがないので、地域活性化の役割を担っている団体や事業者など、理念に共感できる相手とだけ取り組んでいる」そう。お寺や神社はそうした考えにまさに当てはまるんだとか。というわけで、寺社仏閣巡りのお土産として、「キュウ」製の石けんを目にする日も近いかもしれません。
というわけで、世界に1つだけの石けん作りを120%エンジョイした「キュウ」ですが、ネコ型石けん製作キット(ソープベース、色付き石けん、アロマオイル、シリコン型がセットになっており、材料は2回分)は6種各5000円。惑星型石けん製作キット(ソープベース、色付き石けん2種、アロマオイル、ラメ粉、シリコン型がセットになっており、材料は3回分)は9種各5500円。より本格的にパーソナライズしたい場合は、ソープベースや色付き石けん、アロマオイルを個別で購入することも可能です。既製品の石けんを買うのに比べたらもちろん割高ですが、自分で作るワクワクやこれをきっかけにSDGsなどにも興味関心が広がるならば、十二分にアリなんじゃないでしょうか!