カミソリやグルーミング製品などを展開する貝印が8月17日から開始した、コミュニケーション広告が話題だ。バーチャルモデルのMEMEがワキの毛を堂々と見せるビジュアルと、「ムダかどうかは、自分で決める。」というキャッチコピー、「#剃るに自由を」というハッシュタグがインパクトを与えている。また、SNSには本来は剃毛を促進したいはずの貝印が、体毛処理の多様性を伝えるメッセージを発信したことに驚き賞賛する声も多い。なぜこの企画を立ち上げたのか。貝印の齊藤淳一マーケティング本部広報宣伝部宣伝リーダーに聞いた。
WWD:この企画を立ち上げた意図は?
齊藤淳一マーケティング本部広報宣伝部宣伝リーダー(以下、齊藤):2019年ごろからSNSに「女性のワキはツルツルじゃないとダメなんておかしくない?」「会社に行くからヒゲを剃らなきゃいけないというのは変」などの声が届き始め、体毛を剃ることに対する世間で言われる常識と、生の声に乖離があるのではないかと思っていたんです。昨年11月、雑誌でタイアップ企画を行った時にお会いしたアーティストの方にこのことを話したらとても共感していただき、それまで肌感覚で感じていたことが確信に変わり、12月から動き出しました。
WWD:19年といえば「#kutoo」運動がありましたが、その影響もあったんでしょうか?
齊藤:潜在的にあった意見が言いやすい雰囲気になっていたのかもしれないですね。当社が行った調査でも、「ファッションや髪型のように、体毛を剃ることは自分自身で自由に決めたい」という声が90.2%、「気分によって毛を剃っても剃らなくても良い」という声が80.5%あったんです。海外ではワキ毛に対する価値観もいろいろあって、以前からジュリア・ロバーツ(Julia Roberts)がレッドカーペットでワキ毛を見せたりといったこともありましたし、さまざまな価値観に寄り添うことができればと思ってこのような企画を進めました。
WWD:とはいってもカミソリなどを販売している貝印にとっては、体毛を剃ってもらわなければ商売上がったりですよね。社内で反対の声はなかったんですか?
齊藤:当社は100年を超える企業ですが、昔は包丁なども一人一人に合わせてオーダーメイドで作ることが当たり前でした。我々は日本の使い捨てカミソリのトップメーカーではあるもののお客さまの声を聞いて製品作りを行う“野鍛冶の精神”が根付いていますし、今回もお客さまの声に寄り添う企画でしたので、社内の理解もスムーズでした。
WWD:ビジュアルにバーチャルモデルを起用していますが、貝印としても初めての試みだったのでは?
齊藤:バーチャルヒューマンは始めてでしたが、バイアスがかかるのを避けたかったんです。モデルやタレントさんですと、どうしてもその人のキャラクターを通してメッセージを見てしまうので……。新型コロナウイルス感染拡大の影響で撮影が難しかったことを考えても、バーチャルヒューマンという選択はよかったと思っています。
WWD:ビジュアルもメッセージも先進的で、多くの反響がありますね。
齊藤:見た方に不快感を与えてはいけないので、ビジュアルもコピーもクリエイティブのチームと入念に練りました。何かを主張するというより問題提起をしてみなさんに考えていただきたかったので、多くの反響がありありがたく思っていますし、好意的な意見も多く正直ホッとしています(笑)。女性のワキ毛処理と同様に、男性も剃るという行為に対してさまざまなバイアスやルッキズムがあると思うので、今後もさまざまな価値観に寄り添った立場で、悩んでいる方や困っている方に対して私たちができることを発信できればと思っています。