ファッション

エイ・ネットが「ネ・ネット」と「メルシーボークー、」事業を休止

 エイ・ネットは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて大規模な事業編成を行う。2020-21年秋冬シーズンをもって主力ブランド「ネ・ネット(NE-NET)」と「メルシーボークー、(MERCIBEAUCOUP,)」の2事業を休止。21年1月末までに「ネ・ネット」と「にゃー」の13店舗、「メルシーボークー、」の8店舗の計23の直営店を順次クローズする。

 「ネ・ネット」と「メルシーボークー、」はコロナ以前から苦戦傾向にあったが、両ブランドともにインバウンド(訪日外国人)の購買比率が約30%と高かったこともあり、コロナショックでさらに打撃を受けている。同社は昨年、ライセンス契約の満了に伴い「ツモリチサト(TSUMORI CHISATO)」のブランド事業を終了したばかりだったため、今後は「プランテーション(PLANTATION)」「ズッカ(ZUCCA)」「タクタク(TAC TAC)」の3ブランド体制となる。

 エイ・ネットの大滝雄一郎社長は「ブランド休止を決めたのは約1カ月半前。以前から事業再編を考えてきたが、コロナの影響で一刻を争う状況になった。『ネ・ネット』と『メルシーボークー、』はここ数年間、ブランドの特性と時代にギャップが生まれており、その差を埋めるために改革を進めてきたが完遂することはできなかった」と説明する。また「大規模な事業再編となるが、“今変わらず、いつ変えるのか”という覚悟を持って判断した。企業の力を結集すべく、社員たちともその思いや覚悟を共有している」と話す。休止する2事業の社員は配置転換などを検討しているという。

 「ネ・ネット」は05年に高島一精がスタートさせ、今年で15周年を迎えた。“カップルで共有する日常着”としてメンズとウィメンズを扱い、06年春夏には東京コレクションに参加。07年には黒猫のキャラクター“にゃー”が誕生し、“にゃー”のモチーフをあしらったベーシックウエアや雑貨などを展開しつつ「にゃー」の商品をそろえた単独店も構えていた。

 「メルシーボークー、」はデザイナーの宇津木えりが06年に東京コレクションでデビューさせ、今年で14年目。「清く、楽しく、美しく。」をコンセプトに、“きちんとしているけど、ちょっと笑える”遊び心のある日常着を提案してきた。パターンを前後逆にした“うしろまえパンツ”などが定番人気で、根強いファンを抱えている。

 「ネ・ネット」の高島と「メルシーボークー、」の宇津木の2人は7月31日で同社との契約を休止し、今後は独立して創作活動を行っていくという。両ブランドの商標権は、引き続きエイ・ネットが保有する。

 今後エイ・ネットは「プランテーション」と「ズッカ」の両事業を強化していく。「プランテーション」は天然繊維のテキスタイルと着心地に定評があり、現在もワンマイルウエアなどが堅調だ。「ズッカ」はシューズやバッグの種類を拡充したことで、30歳前後の新規客の取り込みに成功している。「これからはよりお客さま視点を持つことが経営課題。ブランドを時代に合わせられるかどうかが肝になる」と大滝社長。両ブランドともにターゲットを明確に絞り、同社の強みである物作りを生かしてサステナビリティなどの時代性を盛り込んでいく。

 「タクタク」に関しては「卸を中心に毎シーズン着実に成長しており、ファッション好きの若い顧客を取り込めている。今年3月には東京コレクションに参加予定だったが、コロナの影響で中止になっていた。今後リアルのプレゼンテーションが開催できなくとも、オンライン上でのコレクション発表を検討していく」という。

 さらに、自社ECサイト「ユーモア(HUMOR)」は、4~5月の緊急事態宣言に伴う店舗休業中は前年比200%増で成長し、現在も同100%増で推移している。今年中に江東区・新大橋の本社に物流倉庫を移し、アトリエ、プレスルーム、スタジオ、物流の機能を1カ所にまとめることで、スピード感を持って業務を効率化していく。「まずは事業再編を最優先にOMO(Online Merges with Offline、オンラインとオフラインの融合)を推し進め、その後は新ブランドについても検討していく」と大滝社長は語った。

【エディターズ・チェック】
 エイ・ネットといえば、「就職したいファッション企業ランキング」で上位に君臨する学生の憧れの企業だ。長年の看板ブランドであった「ツモリチサト」「ネ・ネット」「メルシーボークー、」の事業終了は一時代の終わりを感じさせる。

 カリスマデザイナーたちの個性が溢れるデザインが支持を集めてきたが、2010年代のノームコア、アスレジャー、ストリートウエアのトレンド、多様化したマーケットの変化にうまく対応することができず苦戦。年々ブランド規模は縮小傾向にあった。

 看板ブランドの幕を下ろす決断は、大滝雄一郎社長にとって断腸の思いだっただろう。残るのは長寿ブランドで38年目の「プランテーション」と32年目の「ズッカ」、7年目の「タクタク」。終了する「ネ・ネット」や「メルシーボークー、」とは異なりアノニマスで、季節や性別、年齢を問わないデザイン性が変化に対応がしやすい。新ブランドについては、全ての事業編成を終えた後に準備を検討するという。エイ・ネットが輝きを取り戻す日を見守りたい。

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