2020年11月に迫った米大統領選に民主党候補として挑むジョー・バイデン(Joe Biden)前副大統領が、副大統領候補としてカマラ・ハリス(Kamala Harris)上院議員を指名して大きな話題を呼んでいる。ハリス上院議員がジャマイカ系とインド系のルーツを持つ女性だからだ。
米大統領選で女性が副大統領候補に選ばれるのは同氏で3人目だが、1984年のジェラルディン・フェラーロ(Geraldine Ferraro)元下院議員と2008年のサラ・ペイリン(Sarah Palin)元アラスカ州知事は白人なので、有色人種の女性としてはハリス上院議員が初めてである。
民主党の正副大統領候補を正式に選出するため、8月19日に開催された民主党全国大会は、バラク・オバマ(Barack Obama)前大統領とミシェル・オバマ(Michelle Obama)同夫人が応援演説を行ったほか、ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)元国務長官やナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)下院議長も登壇するなど、“ウィメンズパワー”が強く印象に残るものとなった。ハリス上院議員を紹介する動画には、同氏の継娘と妹、そして姪のミーナ・ハリス(Meena Harris)が登場。かつて検察官だったハリス上院議員と同じく法曹界に身を置く弁護士であり、人権活動家や絵本作家、そしてアパレルブランドの設立者として活躍するミーナに米「WWD」がインタビューを行った。
WWD:女性の権利向上を支援する運動「フェノミナル・ウーマン・アクション・キャンペーン(Phenomenal Woman Action Campaign)」を17年に立ち上げた際、そのスローガンをプリントしたTシャツなどを販売する同名のブランドを設立して話題となったが、以前からファッションに興味はあった?
ミーナ・ハリス(以下、ミーナ):ファッションは好きで興味もあったし、いいものを見分ける目はあると思うが、スタイリッシュなタイプではなかった。だから今でも自分をデザイナーだと称するのは気が引けるけれど、どういう配色や言葉を使えばメッセージが伝わり、世間の注目を集められるかというセンスには自信がある。私は起業家でもあるが、社会や男性から否定的な視線を向けられることなどによって自信を喪失し、なかなか「私は起業家だ」と言うことができなかった。しかし今では胸を張って言えるようになったので、いずれはデザイナーとしてもそうなりたいと思っている。
WWD:「フェノミナル・ウーマン」という名称は、活動家で詩人の黒人女性マヤ・アンジェロウ(Maya Angelou)による同名の作品に着想を得ているそうだが、ヒラリーが民主党の大統領候補だった16年の米大統領選にも影響を受けているか。
ミーナ:もちろん。16年の米大統領選では、私の母である弁護士のマヤ・ハリス(Maya Harris)がヒラリーのシニア・アドバイザーを務めていたこともあって大きな影響を受けている。当時、フェイスブック(FACEBOOK)にはヒラリーを支持する「パンツスーツ・ネーション(Pantsuit Nation)」というグループがあり、私はその運営に関わっていた。ヒラリーがよく着用していることから、同グループは女性の権利を象徴するものとしてパンツスーツを重視していたので、400万人以上いた参加メンバーの多くは応援の際にパンツスーツを着ていた。選挙後に、これを仕事の面接に行くための服がない低所得層の女性を支援する非営利団体ドレス・フォー・サクセス(Dress for Success)に寄付する運動を行ったが、「フェノミナル・ウーマン」はこうした経験に基づいて立ち上げた。
WWD:“フェノミナル・ウーマン”と胸にプリントしたTシャツで一躍注目を浴びたが、その経緯について。
ミーナ:女性の権利向上を啓発し、そうした問題に取り組んでいる団体に寄付をしたいと考えて作った。これはグレーのTシャツに黒い文字で“フェノミナル・ウーマン”と書かれているものだが、最初は色違いも作ってほしいという要望も多かった。私がフルタイムで働いていたため、在庫管理の面からも対応できなかったけれど、「グレーに黒字で書いてあったら『フェノミナル・ウーマン』のTシャツ」とブランドイメージが定着したので結果的によかったと思う。
WWD:女優のアメリカ・フェラーラ(America Ferrera)や、女優でプロデューサーのイッサ・レイ(Issa Rae)がブランドアンバサダーを務めているが、どうやって声をかけた?
ミーナ:イッサは大学時代からの友人で、アメリカとは活動家としての運動を通じて知り合った。彼女たちに「フェノミナル・ウーマン」のTシャツを着てほしいと打診したら快諾してくれた上に、ほかのセレブリティーにも紹介してくれた。
WWD:ここ数年で、企業の社会的な責任を意識するブランドも増えてきた。アイテムが売れるごとに寄付を行ったり、安全な水の供給事業をサポートしたりしているシューズブランド「トムス(TOMS)」などがそのはしりだが、こうした動きをどう思うか。
ミーナ:私も「トムス」のビジネスモデルに大きな影響を受けている。商品に社会的な影響を及ぼす役割があってもいいと思うし、それは消費者が求めていることでもある。「黒人の命は大切(Black Lives Matter)」運動でも明らかなように、最近の消費者は企業のトップがどういう考えの持ち主なのかを重視するようになっている。また労働者の権利は守られているのか、黒人の取締役はいるのかなど、口先だけでなく行動が伴っているのかも大切だ。「フェノミナル・ウーマン」はそうした人権を守る運動を支援しているが、ほかの企業もそうであるよう促すのが私のミッションの一つだ。
WWD:ファッションとフェミニズム、そして政治の関係は時に難しいことがある。ファッション誌である弊誌でも、ハリス上院議員の服装について取り上げるべきかどうかが議論されている。服装を政治的なツールとして活用することについてどう思うか。
ミーナ:女性のスピーチの内容でなく服装にばかりフォーカスするのはどうかと思うが、何を着るかも自己表現の一つであり、政治的なメッセージとなり得る。例えば、女性がパンツスーツを着ることは反体制的なことだと長らく考えられてきた。私がワシントンD.C.でロークラーク(判事の補佐役)として働いていた頃、女性のロークラークはスカートをはくべきだと言う判事がまだかなりいた。それに反対してパンツスーツを着るにしても、目立つような明るい色は避けて紺や黒にしておこうという気持ちにさせられることもある。(有色人種の女性である)アレクサンドラ・オカシオ・コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)下院議員は真っ赤な口紅と大きなフープ型イヤリングがトレードマークだが、政治家としての手腕とは関係なくそうした服装を攻撃されることも多い。これはとても差別的な行為だし、同じくカマラが真っ赤なパンツスーツと口紅を身に着けていたら人々がどう反応するかは容易に想像できる。そうした意味で、やるべきことはまだまだ多いと思う。
WWD:現在はマスクの着用など、これまでになく「何を身につけるか」が政治的な意味を持つようになっている。“フェノミナリー・ブラック(驚くほど素晴らしくブラック)”と胸にプリントされた「フェノミナル・ウーマン」のTシャツを校内で着用したカリフォルニア州の黒人女性教師ケイ・ジャクソン(Kei Jackson)が解雇されたことについてどう思うか。
ミーナ:私はアパレルブランドも政治的なことに関わるべきだと思う。ケイが解雇された件については、アメリカ自由人権協会(American Civil Liberties Union)や全米黒人地位向上協会/全米有色人種地位向上協会(National Association for the Advancement of Colored People)と連携して支援しているが、まだ対応が保留となっている。
WWD:大統領選が近づいているが、売り上げは増加している?
ミーナ:“フェノミナリー・アジアン(Phenomenally Asian)”や“黒人の命は大切”とプリントされたシリーズを販売していることもあり、売り上げは増加している。家にいる時間が増えたため、着心地のよいカジュアルウエアが人気であることも後押ししていると思う。
WWD:今後進出したい分野や、コラボレーションしたい相手は?
ミーナ:たくさんあるが、まずブラジャーを発売したい。ほかには女児用のアスレジャーアイテムも手掛けたいと考えている。男児用と同じような耐久性があって、ベーシックでキュートな商品があまりないから。今のところ、そうしたものは「アスレタ(ATHLETA)」などほんの数ブランドでしか見かけない。
WWD:ほかに展望はある?いつかパンツスーツを手掛けたいとか、大きなブランドになりたいと考えている?
ミーナ:もちろん。卸先を増やしたいと考えているし、パンツスーツについては将来的なパートナーを探しているところ。「フェノミナル・ウーマン」は社会正義の実現や市民の社会参加を促すブランドであり、今後もそうしたライフスタイルを支援していきたい。