ユナイテッドアローズ(以下、UA)が化粧品事業に本格参入した。ヤブ椿オイルを主軸にしたスキンケアブランド「ジュース(JUICE)」を立ち上げ、マルチオイルやリップ、ボディークリームなどをラインアップ。ファッションのトレンドを発信するセレクトショップのUAが、化粧品事業と聞けば普通、カラーメイクアップ製品ではないかと想像するが、実際は3年の歳月をかけて開発したこだわりのスキンケアだった。今なぜ、スキンケアなのか。開発を担当した第一事業本部 ウィメンズ商品部 レーベル推進課 STYLE for LIVING MDの西岡麗バイヤーに聞いた。
WWD:セレクトショップの先駆者としてライフスタイル提案を行ってきた「ユナイテッドアローズ」だが、約10年前の取材でも「ビューティはライフスタイルの一部」と話しており、ビューティ関連アイテムを取り扱ってきた。なぜ今、オリジナルでの化粧品開発なのか?
第一事業本部 ウィメンズ商品部 レーベル推進課 STYLE for LIVING MD西岡麗バイヤー(以下、西岡バイヤー):当社経営理念からも、美容はファッションの一部であり、トータルで提案するのが自然と考えていました。ただ、店頭でコスメをバイイングしていて興味はありましたが、お洋服屋さんですし自分たちで作るという発想は現実問題難しいと思っていて……。
そう思っていた約3年前に、弊社ファッションマーケティング部の調査で、「これまで以上にファッションは洋服のことだけではない時代になっている。ファッションと同様に化粧品もできないといけないのでは」と。同時にマーケの方でさまざまな出会いから「ヤブ椿オイル」には行き着いていました。業務として化粧品をバイイングしていた私に、「このオイル、どう思う?」って話が来たんです。最初はお手伝いって感じだったんですけど(笑)。
WWD:3年前と言えば、低迷するファッション業界を尻目に、ビューティ業界は右肩上がりで成長していた。そういった流れもあったのか?
西岡バイヤー:確かにビューティ関連の売り上げシェアはじわじわ高まっていました。でも、ファッションがダメだからビューティというのでは全くありません。ファッションもビューティも全部合わせて、それがおしゃれ。肌が整っていないと何を着ても気分はどんよりしてしまうんですよね。だからこそ開発したんです。
WWD:開発にあたり苦労した点は?
西岡バイヤー:ヤブ椿オイルに出合ったところから、この開発は始まっていたので、そこから広げていくのにはそんなに苦労はしませんでした。オイルはバイイングでもたくさん試していたし買い付けていました。私自身、オイルが大好きで、顔が足りないって思うぐらいです(笑)。このヤブ椿オイルを初めて使った時は、その浸透力など本当にすごいと思ったんです。このオイルに惚れ込みました。そこから結局、中心となって開発することになったんです。
WWD:チームに化粧品業界出身者はいるのか?自分たちでモノ作りをしているのか?
西岡バイヤー:業界出身者はいません。ナチュラル系コスメを得意とするOEMメーカーのオーラコスメティックスさんと作っています。苦労しなかったと言いましたが、いざモノ作りを始めて困ったのはテクスチャーでした。たくさんのオイルを触ってきていた経験からの感覚でメーカーさんには伝えるしかなくて。手振りでスーと入るとか、何度も伝えました。香りも同じで、リッチタイプでは最初は柑橘系で上がってきたんですが、もう少し爽やかにというか、甘すぎないというか。その微妙なバランスを伝えていくことで完成させることができました。
WWD:ナチュラル系の化粧品のパッケージはもっとナチュラルになりそうだが、濃いグリーンが印象的だ。
西岡バイヤー:チームに男性が入る前は、白のボトルでクリーンなイメージだったんです。でも女性、男性問わず話を進めていくうちに発想が変わってきました。これは何度もボツりましたね。ちゃんとストーリーが伝わるもの、ファッションの一部として伝えていこう。誰が持っても、置いてもおしゃれじゃなきゃ。その視点が大きかったと思います。ジェンダーフリーで使えるというのもコンセプトなんです。また、現在はコロナ禍で様相が変わっていますが、UAにはたくさんの外国からのお客さまもいらっしゃるので、ボトルに印字した表記は英字にしました。
リアルとオンラインで発表会開催
WWD:すでにUAの一部店舗と公式オンラインストアでは先行販売している。反響は?
西岡バイヤー:正直なところ、告知もせず店頭に置いているだけなので反響というほどではなく、興味を持っていただくというところで止まっています。ただ、このほどファッション・ビューティ業界の関係者(セレクトショップやメディア)を呼んでリアルとオンラインで発表会を開催しました。それにより取り扱ってもらえるショップも増えたらいいと思いますし、メディアへの露出も増えていると思います。
WWD:これまで御社では、洋服などを並べてメディアに見てもらうプレビューの開催が中心で、ビューティ業界が行なっている発表会という形式は珍しい。またリアルとオンラインと併用も大変だったのでは?
西岡バイヤー:初めてのことで手探りでした。オンラインだけでも良いのでは?という話にもなったのですが、実際に手で触って体感してほしい、リアルの対面で説明したい、聞きたいということもあり人数を制限して行いました。
オンラインでは、画面越しに観るというのは淡々と聞いているだけになりがちで集中力も切れる。だから、スライドを見せたり、スピーカーも代わりながら飽きさせない方法を考えました。台本も、話が長いと眠くなるとか、ジェンダーレスに使えるアイテムだから男性目線で使い方を入れた方がいいとか、テクスチャーは手を見せながらがいいよね、スライドの文字数はこれぐらい……とかなり時間をかけて練習しました(笑)。
WWD:やってみてどうだった?
西岡:オンラインは視聴者の表情が見えないので、実際どう伝わったのか……。リアルの方が表情も分かるし、うなずいてくれたり、メモしてくれていたりで分かりやすいなあと。ただ、こういう状況下でオンラインという手段で広められたのは良かったと思います。リアルだと会場を借りて作り込まないといけないとなると費用も嵩むというのもありますが、今回社内のプレスルームで開催したので抑えられました。費用より何より、プレスルームにはたくさんのお洋服が並んでいてその中を通った先に会場を作ったのですが、ビューティ関連のメディアの方からには「お洋服がこれだけある状況が新鮮」「見るだけで楽しい」など、ファッションのセレクトショップならではの雰囲気が出せたことは良かったと思います。
WWD:今後の展望は?
西岡:10月にはスクラブウオッシュとフォームウオッシュが発売になりますし、来年以降、新製品も展開していきます。個人的にはカラーアイテムも作りたいですね。9月下旬から一般販売も始まり、卸売などにも拡大したいと思っています。ポップアップを行ったり、ゆくゆくは単独店舗も持ちたいです。